新たな名前
ミニルーラーを一体倒した。
こんなにあっさりと倒してしまえるものだとは思わなかった。
「千一くん、本当気をつけてよ? 今回は運が良かったとは言え」
「それよりさ、この人たち、どうするの?」
命からがら逃げてきた人々は、ミニルーラーの死角になっている足元で身を寄せ合っていたのだ。
奇跡的にミニルーラーは攻撃性はなく、ただただ口から何かを吐き続けていただけだったと言う。
口々に神様やら恩人やら感謝の言葉を述べているが、一斉にしゃべっているので何を言っているのか分からない。僕は聖徳太子ではない。
日本三大庭園に選ばれている庭園も、今や見るも無残な状態になっている。
古城から市内を見回せたので、見てみた。
僕の住んでいた町が荒地になっていた。
建物も残っていると言えば残っているが、ほぼ全て倒壊してしまったと言っても良い。
建物が邪魔で、港は見えなかったが、今は綺麗に見えている。
あちこちで火災も起きているので、市内は全体的に赤い。
「千一くん・・・」
001は僕のことを呼んだが、反応しなかった。したくなかった。
こんなことになるなんて、思わなかったから。
「絶対に、この世界を僕は救ってみせる。行こう」
001にそう言って、僕は古城に背を向けて歩きだす。
後ろからは僕を呼び止める声が聞こえたが、そのまま次なるミニルーラーのいる山へ向かうことにした。
荒れ果てた町を進んでいく。
このあたりも完全に地球外生命体に浸食されている。何も考えず、ひたすらに斬っていく。
「千一くん、ナイスファイト!」
001はそう言うが、やはりあまり気が進まない。
市内に流れている川の近くまでやってきた。山も目の前にある。
大きな橋とやぐらがある近くで少し休憩をすることにした。
数メートルしかない橋だが、今は崩壊していて渡ることはできない。
橋を渡ったところには昔から有名な茶屋街がある。今は無残な姿になっているが。
「千一くん、山の上から出てる線が見えるでしょ? あそこにいるルーラーを倒して、県庁にいるのを倒して、残りは駅にいる親玉の首をちょん切っちゃえば、この町は助かるんだよ!」
そうは言っても、古城にいたルーラーを倒せたのは頭に血が上ったからだ。つまるところ、単なるマグレなのだ。
「落ち込まなくても大丈夫だよ。千一くんなら倒せる! 一緒に頑張ろ!」
必死に励ましてくれる001。それでも不安は消えない。
「・・・・・あのさ、一つ、疑問があるんだけど、言っても良い?」
「ん? 何? 分かる範囲で答えるよ」
画面には可愛い女の子が笑顔でこちらを見ている。僕のことも見えているのだろうか。
「君、名前は001《ダブルオーワン》だよな? ダブルオーワンって言い辛いから、別の言い方にしていい?」
001は目を見開いた後、クスクスと笑った。
「なーんだ、そんなことか。001って名前自体テキトーに付けられてる番号だよ。本名じゃないよ」
「本名とかあるのか?」
「ないよ」
「え?」
「千一くんのいる世界の文豪の言葉を使わせてもらうと『吾輩はオペレーターである。名前はまだない』って感じかな?」
自分の知識を披露したかったのか、旧千円札の肖像画になっていた夏目漱石の言葉をうまい具合に改変して説明をしてくれた。
「じゃあ、僕が名前を付けるよ。そうだな。じゃあ、ワン子ってどう?」
「ワン子って、千一くんの世界だと犬って意味じゃないの?」
「そうだよ」
「名前付けてくれるなら何でも嬉しいよ。じゃあ、ワン子で良いよ」
否定してくると思って冗談で言ったのだが、あっさり受け入れられるとそれはそれで困る。
「冗談だよ。命の恩人であり、僕と一心同体なんだからもっとまじめに考えるよ」
そう言っても、何も思いつかない。直後、良い名が浮かんだ。
「オーってのは、ゼロのことだからレイってどうだ?」
「とあるアニメを連想させるけど、千一くんが考えた名前なら何でも嬉しいよ」
どこでそう言う情報を取り入れたのかは知らないが、喜んでくれてよかった。
「じゃあ、またよろしく。レイ」
「うん。よろしくね。千一くん」
「よし、名前も決まったところだし、ルーラーを叩き斬ってこよう」
「そうこなくちゃ!」
僕は立ち上がり、川を挟んだ奥にある小さな山を見上げる。
彼女と話したことによって、少しだけ気分が落ち着いた。
必ずこの町を、世界を、未来を救ってみせる。
この時の僕は、自分が理性や良心を失いつつあることにまだ気付いていない。
つづく
久々の投稿です。前回から三ヶ月経っていたことに驚きです。
本当待たせてしまって申し訳ないです。読んでる人がいるのかは分からないですが。
次の話もいつ投稿するかは決めていません。
なるべく早めにあげようとは思っています。