城郭へ
駅だった場所から、県庁だった場所まで約三キロほどだ。
徒歩だと、三十分少しで着くと思う。
「千一くん、気をつけてね? さっきみたいに感情的にはならないでよ」
「あの時は、気が動転していて・・・」
荒地と化した地元に、少しづつ見慣れつつある自分がいた。
しかし今の僕は、気付いていない。気付こうとは思わなかった。
「千一くん、提案なんだけど、良いかな?」
「何?」
「まずは近場から攻めない? 県庁まで三十分、それにわざわざご丁寧に場所まで移動させてくれるって、おかしいと思わない?」
001の言うとおりだ。
僕を殺さなかっただけでも、おかしいと思うのに、さらに情報提供までしてくれた。
挙句、直進すると、自分たちを守っている敵がいると言う場所にまでワープさせてくれた。
あまりにも、出来すぎている気がする。
上を向いて、城郭方向に延びる線を見て、僕は言った。
「じゃあ、城郭を目指そう」
地下道から、非常口を通って、先ほどいたドーム前に着いた。
ドームの上にいるルーラー(ドラゴンに見えるが)は、県庁方向を向いている。
つまり、今は僕らに背を向けているのだ。
見つからないようにそっと大通りを、瓦礫に隠れつつ進んで行った。
城郭まで、徒歩で二十分ほどで着く。
日本三大庭園に選ばれるくらいの庭園もあるが、今は影も形もないと思う。
市場だったらしき場所に着いた。
建物がほぼ倒壊していて、どこに何があるのか分からなかったが、たくさんの炭に近い状態になっている焼き魚がそこらにあったので、市場だとすぐに分かった。
「な、何でこんなにたくさん真っ黒に焦げている焼き魚が・・・?」
「ここ、市場だったんだよ」
「そう、みたいね。焼死体もたくさんあるもんね・・・」
001に言われて気付いたが、周りにある真っ黒なものは、全て人だったものだった。
恐怖感覚が完全にマヒしていた。
あまりにも非現実的なことが起きすぎていて、ちょっとやそっとのことじゃ驚かなくなってきている。
今は、弔うこともせずに、僕は城郭を目指した。
城郭が見えてきた。
同時に、ルーラーを二回りほど小さくしたミニルーラーもいた。
「千一くん! あの小さいルーラー見える!? あいつが、ルーラーの周りに作っているバリアの源だよ! あいつを叩けば、バリアの効力は弱まるはずだよ!」
「ああ、あいつを、叩き斬ってやる」
僕の心は、ミニルーラーを殺すことしか頭になかった。
ミニルーラーは、間抜け面で駅に向かってビームのようなものを吐き続けている。
そっと城郭へと近づく。有名な門は、半分になっていた。
城郭に座りながらビームを吐き続けるミニルーラーに僕は叫んだ。
「おい! 今からお前の首を! 叩き斬ってやるからな!」
そう言うと、右手を剣に変え、お堀から城郭に向かって驚異的な跳躍をした。
「千一くん! 待って!」
001の声も聞かないで、ミニルーラーの尾を切りつける。
悲鳴が聞こえた後、ビームを吐くのをやめ、こちらを睨みつける。
「僕を殺したいのか? 僕もお前と同じ気持ちだよ。絶対に殺す」
「千一くん!!」
001の怒鳴り声も今は耳に届かない。
今まで感じたこともない怒りの感情が、僕の中で渦巻く。
大きく短い前足に生えている爪で僕を切り裂こうとする。
切り裂かれる前に、僕は剣に変わっている右手を、左から右へと素早く動かし、ミニルーラーの首を斬りつけた。
大きな悲鳴が聞こえた後、僕はゆっくりと降下していった。
着地した場所は、広場だった。
広場には、たくさんの生き残ったのであろう人々が身を寄せ合っていた。
「な、何で・・・?」
僕が最初に言った言葉だった。
人と言う人、この場合は地球人と言うべき人には、一切会わなかったので、人間は僕だけになったのかと思っていた。
「千一くん!! 落ち着いてよ! 私も全力でサポートはするけど、私の言うこともちゃんと聞いてよ! もう!!」
「お、おい。それよりも、この人たちは・・・」
ざっと、五十人ほど人がいた。
「助かった人たちだよ! 助けてあげよう!」
001はまるで自分の星の人を見つけたかのように喜んでいた。
ミニルーラーは、首の皮一枚が繋がっている。
いつ、自分の頭の体重で引き千切れるかは分からない。
瞬間、お堀に何かが落ちる音がしたので、ミニルーラーは完全に首が斬られたと分かった。
五十人ほどいた人々は、僕らに尾を向けてぐったりしているミニルーラーが死んだことに気付き、歓声をあげていた。
つづく。
5月最初の作品になりました。
書いていると、結構熱が入ってしまって・・・
ミニルーラーは、いとも簡単に倒してしまった気もしますが、あと二体いるので仕方ないかなあと・・・