起動
初投稿です。
近未来SF小説として書いていきます。
稀に軽い残酷な描写も入ると思いますがとんでもなく残酷とまではいかないので大丈夫だと思われます。
僕の住んでいる町はある圧倒的存在により侵略された。
あの日、確実に人類史に刻まれる。
何故か。理由は非常に単純。地球人以外の生命体と接触したからである。
彼らは突如やってきて僕たちの住んでいる町を破壊し、支配した。
2020年10月5日。午前8時23分。
高校2年生の僕、櫟 千一は学校ですることもなくボーっと音楽を聞いていた。
周りでは土日にどこへ行ったとか日曜のテレビの話をしている。くだらない。僕はそういう話に一切興味がない。
群れて行動しないと何もできない連中と同じにしてほしくない。
そう思いながら僕はただただ音楽を聞き続ける。
親指をホームボタンに触れて軽く力を込めて起動させる。
1秒ほどの間が開いて画面が表示される。親指を左から右にスライドさせてロックを解除。画面には音楽画面が表示された。特に聞きたい歌があるわけじゃないけど、何でも良いから別の歌に変えたかった。
音楽が変わる一瞬。さっきまで全員違う話題を話していたクラスメイト達が全員同じ話をしていることに気付いた。
「駅に宇宙人が落ちてきたらしいぞ!」
その言葉だけ僕は聞き取れた。
すぐに僕はポケットからスマートフォンを取り出し、ロックを解除して今話題のマウを起動。
マウとは120文字だけの文章をネットに投稿できると言うもの。世界中の人とも繋がれる便利なソーシャル・ネットワーキング・サービスだ。
過去ログを見ていくと僕の町に宇宙人がやってきたことでいっぱいだった。
『隕石が降ってきた』
『地球終わったな』
『大丈夫ですか?』
『画像ないの?』
そのような短文で埋まっていた。
その宇宙生命体は後に僕たちを支配し、町を破壊するルーラーと呼ばれる生命体だった。
駅に降り立ったルーラーは有名なドームの上で吠えた。
その鳴き声は僕の高校まで聞こえてきた。近くにいた人は鼓膜が破れたのではないだろうか。むしろその程度で済めば幸運な方だろう。
駅の周辺はルーラーの叫び声だけで半壊した。県内で最も高いと言われていたホテルを崩し、その圧倒的な力を僕たちに見せつけた。
僕たちには避難命令が下された。
学校にいた人はすぐにグラウンドへ集められた。学校の生徒以外にも学校の周りの住人の人たちもたくさん避難していた。
さすがの僕もイヤホンを外して周りの声が聞こえるようにしておいた。
先生たちも何が起きているのか分からないらしく大パニックに陥っている。
ある女子生徒は泣き叫び、ある女子生徒はその子を慰め、ある男子生徒は携帯で情報を集め、さらに別の男子生徒は文句を言っている。
「先生! 俺たちどうなっちゃうんですか!!」
「お、落ち着いて。もうすぐ軍の人が来るらしいので今は安静に・・・」
「らしい!!? ふざけんなよ!来なかったら俺たち死ぬのかよ!」
「と言われても・・・」
先生方も詳しくは分かっていないようだ。
落ち着いている僕だが、内心ものすごく緊張して、恐怖に怯えている。
すまし顔で座っているが本当はその宇宙生命体とやらがいつ何をしてくるか分からないから。
マウの情報によれば吠えただけで駅周辺は半壊したらしい。
確かに何か低い鳴き声のようなものは聞こえてきた。あれだけで半壊・・・
時計は午前8時53分。軍の人も来る気配がなく僕たちはただひたすらと肌寒い中で自分の未来を想像し続けた。
生きるか、死ぬかの2択。とてつもなく単純で、それでもって複雑なこの2択。
考え込んでいるとスマートフォンの電波がなくなった。
周りを見渡すとみんな携帯をいじっている。情報を手に入れているんだ。
今どうなっているのか、宇宙生命体は何をしようとしているのか。
周りが騒がしくて何を言っているのかあまり聞き取れない。
この場から離れれば少しは電波があるのではないかと考えついた僕は校内のトイレへと足を運んだ。
「おい。どこへ行くんだ」
もちろん止められた。
「ちょっとトイレへ・・・」
「もうすぐ軍の人が来る。しばらく我慢しろ」
「ごめんなさい。もう我慢できないんです」
「・・・」
現代文教師は顔をしかめた。
「すぐに戻ってこいよ」
「分かりました」
そう言って僕は校内へ。
校内は人っ子一人誰もいなかった。人間は僕だけだと言っても良いくらい静かだった。
玄関の近くは電波があったのでソリロキーを起動。
『日本政府によりますと、K市に軍を派遣・・・』
『K市にいる皆様はすぐに近くの避難所へ・・・』
『※速報 宇宙生命体に動きアリ』
その短文を見た瞬間、僕の後ろ。つまりみんなが避難していたグラウンドから大きな爆発音がした。直後、僕は爆風で大きく吹き飛ばされた。
目が覚めると学校はほぼ崩壊していた。僕は奇跡的に大きな損傷はなく、むしろ無傷だった。
不思議なことに僕の周りだけ瓦礫やコンクリートの破片がない。幸運だったと思いながら僕はグラウンドへ向かった。
激しく後悔をした。何故あの時、僕はグラウンドへ向かおうと思ったのか。
そこに広がる光景は荒地と化したグラウンドと焼き焦げた人たちだった。
「あ・・・ああ・・・」
僕は膝から崩れ落ちた。何が起こったのか全く分からない。理解できない。いや、理解したくない。脳が理解することを拒んでいる。
何が・・・何が起きているんだ・・・
その直後、スマートフォンが小さく揺れ動いた。知らない電話番号からだった。
知らない番号はあまり出ないが、今回は何故か電話帳に登録されている人の電話のように出られた。
「はい・・・櫟です・・・」
「櫟 千一くん?」
「はい・・・」
声の主は女だった。
「よく聞いて。私は今あなたの携帯電話にいるの。櫟くんの携帯電話から音楽機器に移動したいからこれを切った後に携帯電話と音楽機器を近付けてほしいの。今のあなたの状況は私も分かっているから。じゃあ、一度切るよ」
言われるがまま、僕は音楽機器とスマートフォンを近付けた。
音楽機器は急に再起動され、砂嵐が巻き起こった。こんな現象絶対にありえないのに。
数秒後、表示された画面はロック画面ではなくホーム画面だった。
アイコンも一部が変わっている。
ブレード、シールド、アタック・・・何だこれ?
Wi-Fi環境もないのに急にフェイスフォーンが起動した。応答してみる。
「やあ。君が、櫟 千一くんか」
見たこともない美少女がそこにいた。でも声は知っていた。さっきの電話してきた女だ。
「あんたは・・・」
「私はあの宇宙生命体を倒しにやってきた。名前は001《ダブルオーワン》って呼ばれてる」
「いや、名前とかは良いんだけど・・・何? 何なのこれ?」
「宇宙生命体が降ってきたでしょ? アイツを倒しに行くの」
「は?」
「だーかーらー。駅に落ちたあの宇宙生命体! 千一くん達はそう呼んでるでしょ?」
「言ってる意味は分かるけどさ。倒すだって? 何をバカなこと言ってんだ!!」
「倒さないと、君の町だけじゃなくてこの星が終わっちゃうよ?」
「んな・・・」
「君に残された選択肢は『戦う』か『戦わずに星と共に滅ぶか』だよ」
「嘘だろ・・・」
「嘘じゃないよ。ほら。後ろ」
彼女がそう言った直後、顔はカマキリのように三角で体は熊のように大きくて、明らかに地球の生き物ではない何かがそこにいて、僕を襲おうとしていた。
爪を出して引き裂こうとした瞬間、僕の周りは丸い半透明なものに包まれた。
「ふう~、間一髪だね。櫟くん」
「お、おい・・・こいつ何?」
「もうゲート開いちゃったかあ・・・」
「ゲート?」
「ううん。こっちの話。シールドの効果がなくなる前にこの端末を上にかざして!!」
彼女の言うとおり僕は端末を上にかざした
「そのまま『ブレード』って言って!」
「ブレード!」
音楽プレーヤーは剣のようなものに姿を変えた。
「な、何これ・・・」
「大丈夫。これでも私との会話はできるから!さあ目の前のそいつを!」
「う、うん」
しかし、剣はおろか包丁すらまともに持ったことがない僕はどうすれば良いか分からず戸惑った。
「何してるの!? 早くそいつを!」
「どうすれば良いんだよ!」
「斬れば良いのよ! 早く! 起き上がっちゃう!!」
よく分からない生き物は起き上がった。体液を溢しながら僕を見ている。
「櫟くんよく聞いて。一度後ろに5歩くらい下がって」
僕は後ろへ5歩下がる。後ろに4歩目を出した瞬間、よく分からない生き物は僕に爪を立てて襲ってきた。
「うわああああ!!!」
すかさず僕は剣になっている右手を振る。
地球外生命体は綺麗に真っ二つに割れて黄色い体液を撒き散らして泣き叫んでいたが5秒もすれば鳴き止んだ。
「ナイスファイト!」
「こ、これ・・・僕が倒したの・・・?」
「そうだよ」
僕の前に横たわる屍を見て気が付いた。
「それじゃあ・・・あいつを倒す方法があるの・・・?」
「そう。倒せるのはおそらく君と同等の力を持つ者だけ。さ。本拠地の駅へ向かいましょう。力を持った君ならすぐに行けるわ」
謎の力を手に入れた僕は町を、日本を、地球を救うことになってしまった。
続く