keyB-2,3共通:存在確率0%:始まりの場所、終わりのとき:伊吹由香
いよいよ、おはなしの主軸へと入って行きます。
今回は、視点が相当ばらけます。
keyB-2,3共通:存在確率0%:姉妹世界αー相対過去:始まりの場所、終わりのとき:伊吹由香
鳩尾をえぐられる感覚を覚えた直後、私は地面に叩き付けられた。
背中を強打したためか息がつまり、まともに呼吸すらできない。
(いったい、なにが……?)
ぐるぐる回る視界には、燃え盛る家々と逃げ惑う人々が見える。
鳴り響く警鐘には怒号と叫び声が入り交じり、鼻を突いて離さないのは、生き物が燃える匂いだ。
(あっく、ここは?いったい、なにが、どうなって……?)
混乱する頭で、必死に状況を理解しようとする。
けれど、それもままならない。少しずつ戻りつつある呼吸にすがるように、わたしは胸をかき抱く。
そして、うずくまるーーーすこしでも、体力を回復させるために。
少しでも、一刻でも早く、わたしは……
keyB-2,3共通:存在確率0%:姉妹世界αー相対過去:汝の名を問う5:東利也
おれは、小高い丘の上にいた。
眼下には、燃え盛る家々と、逃げ惑う人々。
近くに見える城からもブスブスと煙が上がっており、同時に怒号と悲鳴がなりやまない。
「……ここは、どこ……なんだ?」
おもわず、声が漏れた。けれど、それは単純な問いじゃない。
おれは、ここがどこか「知っている」。そして、目の前の惨劇がいかにして引き起こされたのかも……
それでも、いや、だからこそ。
俺は、自分のいる場所が信じられなかったんだ。
「ここは、始まりの場所です。すべてが終わって、私が始まった場所」
俺が思わず零した声に、「あれ」はよどみなく答えた。
俺の隣に、「あれ」が並ぶ。おもわず飛び退きそうになるが、いかんせん、体が動かない。
意識はハッキリしているのに、体は万力にでも挟まれているかのように、びくともしない。
「ここで、すべてが終わりました。私の命も、兄さまの命も。
父様も母様も婆も、そして、家臣や民達、私たちの愛するすべてが、ここで」
「あれ」はゆっくりと俺の前へと進み出て、振り返る。
本能的に目をつむろうとしたが、まさか、瞬きさえゆるされないとは。
ーーーー目が、合った。「あれ」は、かわいらしい年相応の目で俺を見つめると、儚げに笑っている。先ほどの化け物の目とは打って変わって、今のあいつは出会ったときと何ら変わらないように想える。
(ここにいるのは、俺だけか? 由香は?
これは、こいつが一人でやったのか……こんなの、俺の手に負えるはずがない。なんなんだよ、クソ!)
焦りが、体を巡る。それは血流を脈打たせ、俺を縛る力をはね除けようとする。しかし、びくともしない。
「心配せずとも、ねぇ様もすぐにいらっしゃいます。
本当はすぐにでも嬲り殺して差し上げたかったのですが、あのオンナはご自身のツミを忘れているようでしたので……少しばかり、離れたところに落としました。
ですが、いずれはここにたどり着くでしょう。それまでには、ご自身が何をしでかしたのかを、思い出してくださればいいのですけれど」
「そうでなくては、オンナは後悔無くただ死ぬことになる」とーーーあいつは、言った。
……あいつの言う「オンナ」ってのは、由香にまちがいないだろう。あいつもやっぱり、ここに来ているんだ。
でも、なんで、こんなことに?
おれが栞の助言を無視したから?でも、だって、さすがにこれは度が過ぎている。いくらなんでも、こんなのは夢物語のたぐいだろうが!
「にいさまは、少しお眠りください。
私の中で、ほんの少しだけ。そこは、ここよりも暗くて寒いところですが、ここよりはまだ優しき場所です。ですから、ほんの、すこしだけ、私の中で……」
黒い蛇があいつから這い出し、俺に巻き付く。
ぐるぐると巻き付き、おれを拘束する。そして、視界のすべてを閉ざされた瞬間。
「……」
俺の意識は大きなうねりに飲まれて、深い闇の底へと沈んで行った。
※
keyB-2,3共通:存在確率0%:姉妹世界αー相対過去:相克する因果8:寿小羽(黒)
今や私という存在は、圧倒的だった。
現に兄さまは、パスを通して流れ込んだ私の存在圧に飲まれて意識を失われた。
……これが、私の背負う重み。それが、私という存在の密度。それが、500年という時の重み。
それが今、解放されたのだ。もう、弱い私はどこにもいない。
幾度の漂白を受けた細い兄さまでは、そんな私をまともに受けとめることができるはずがない。
でも、それでいい。そうであるからこそ、兄さまはこの地獄を見ずにすむのだから。
「さぁ、ねぇさま。早くおいで下さいませ。
小羽は、ここにおりまする」
兄さまをとらえた蛇を手元に呼び寄せ、口づけをする。
次の瞬間、蛇は無数の霧となり、大気に分散したーーーそれを、私は思いっきり吸い込む。
これで、私と兄さまは一つになった。兄さまは、私の一部。
けれど、それは兄さまの「個」を辱めるためではない。
時がくれば、私は兄さまをきちんと解放する。そう、正しき世界へと兄さまが順応できるように、「適切な処理」を加えた後で。
『くるぞ』『運命が』『果たせ』『償わせろ』
ささやく声に私はうなずきながら、小高い丘で私はねぇ様を待つ。
ああ、早くねぇ様。はやく、ここへ来てくださいまし。そうでなくてはーーー小羽は、小羽で入られな食ってしまいまする……
※
keyB-2,3共通:存在確率0%:姉妹世界αー現在:パラダイムロスト:久遠、峰岸
いったい何が起こったのか、私はーーー霊視の巫女である久遠栞は、全く理解できなかった。
「栞!ねぇ、栞!どういうこと!?何が起きているの!?」
東君と伊吹先輩が倒れて既に、5分以上が経過している。
二人はぴくりとも動かず、呼吸すらーーーいや、か弱くはあるけれど、わずかに、呼吸は続いている。
けれど!
「医務室に運んで!はやく!」
なんだなんだと集まってくる野次馬を睨みつけながら、私は指示を飛ばした。
それから数刻もせぬうちに、人込みをかき分けて救急隊が駆けつける。さすが、学園の専門スタッフといったところか。彼らは手際よく二人のバイアスを確認後、タンカーに積みこんだ。向かう先は、医務室だ。
「人払いをお願い。あと、理事長にも連絡して。なに!?取り次げない!?なぜ?
今日は閉会式のスピーチに待機しているはずでしょう!!!」
医務室までは、ほんの10分程度だった。その間、二人の容態は急変することも無かった。
しかし、二人には次々とチューブが取り付けられ、今や管人間状態。救急隊によると、二人は仮死状態
にあるらしい。
……それも、そのはずだ。今の二人の体は、魂が入っていない。二人の魂は、弱いパスを肉体に残し、学園上空へとーーー瀬戸高が有する、世界有数への次元の門の向こうへと姿をくらませている。
なにがどうなってそうなったのか、皆目検討が……
「ちょっと栞! 説明して! なにがあったの!?」
袖を引く声に、私はハッとした。
隣には、顔面蒼白の燈火。こころなしか、唇も震えているように見える。
「わからない。現状だけ言えば、二人は仮死状態にあるみたい。
とにかく、遡行視で確認してみる。時間を少しちょうだい」
揺るぎそうになる心を鎮めながら、私は遡行視を開始した。そんな私を、燈火は不安げに見守っている。
……事が起こったとき、わたしは彼らから目を離していた。そのため、どのような経緯で現状が励起されたのか、まるでわからない。けれど、遡行視でなら、その埋め合わせができる。数分前の過去を覗くなど、久遠の私には雑作も無いこと。
……そう、私は、遡行視で、現状への道筋を読み解こうとしたのだ。
でも。
「うそ。なに、これ……こんなこと、ありえない。これは、だって!」
私の瞳には、「ノイズ」が忙しなく走っている。
耳障りな音を響かせながら、ザラザラとーーーこれではまるで、「未来視」だ。
不確定であることが本質である未来を読み解こうとした際には、このような像にて霊視にはとらえられる。
しかし、遡行視で捉えるのは、確定した過去だ。こんなことが、起こるはずが無い。
だって、これでは、まるで今だけが過去と身らから断絶されて、孤島のように存在していることに……
※
keyB-2,3共通:存在確率0%:姉妹世界αー現在:アフターサービス1:シロ・アルトリアル・スヴァルツ
その日、私ことシロは今晩のおかずを考えながら、台所に立っていた。
季節はすっかり秋で、さんまもいいかなーーーとか、なんとか考えながら。
『トゥルルルー、トゥルルルー!!!』
電話が、なる。
ポケットの電話が。
どうせ、同居人の徹がまた徹夜でも貰って「夕食いらない」の電話をかけてきているのだろう。
いつもいつも、彼はそうだ。仕事だから仕事だからといって、二人の時間を大切にしようとしない……まぁ、別にいいんだけど。だって私たちはただの同居人で、契りを交わした仲でもないし。
『トゥルルルー、トゥルルルー!!!』
なので、この電話に出る必要も無い。
といわけで、放置だ放置ーーーとも考えたけれど、自分の器が小さくなりそうでやめた。
あきらめて、電話をとる。パカリと携帯を開き、ディスプレイに目を落とした。
「ん? 東君? おとといの?」
画面には、先日占ってあげた(インチキだけど)少年の名が表示されていた。
ちなみに、あれ以来お客さんは来ていない。こんな商売なので、私の収入は不安定だ。
月、10万いくかいかないくらい。だからこそ、徹にも働いてもらわなきゃならないんだけれど……って、今それは関係ないか。
でも、なんだろう?
あの娘(霊だけど)との間になにかあったんだろうか?
「はい、シロです。東さんですか?いったい、どうされ……」
「今すぐに瀬戸高校に来なさい、魔術師。あんたの不手際で東が死にかけてるの。
座標はググればでてくるから。速攻でね。もしこなかったら、家を挙げてあんたの人生めちゃくちゃにしてあげる」
それだけ言って、ブツって電話は切れた。
いまいち要領が掴めないので、再度かけ直す。
すると、コール音が鳴るか鳴らないかくらいで電話はつながり、「さっさと来い」と言われて再び電話はツーツー音。
……どうやら、今日徹夜なのは徹ではなく、私らしい。
でも、何があったんだろう?あんなに安定していた霊が急激に悪性変異するとも想えないし……まぁ、いいか。言ってみれば、分かるだろうしね。
そんな風に軽く考えていた私は、ついた先で度肝を抜かれた。
だって、そこには時空改変の危機が起きてたんだもん。てか、なんで?これ、わたしのせいなの……?
さて、交差する過去と現在。
二つの時空をまたいで、物語は紡がれます。