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無限想歌  作者: blue birds
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keyB-2,3共通:悪意となる憎悪1:寿小羽(黒)

年明けくらいまでにはクライマックスいきたいな

keyB-2,3共通:悪意となる憎悪1:寿小羽(黒)







 檻を出た私と兄さまは、手をつないで旅館へと歩を進めていた。

 空を覆い尽くしていた雲もいつのまにか消え失せ、淡い星の光が私たちの歩む道を照らしてくれている。




「・・・・・・」




 見上げる空には、無数の星。肺に吸い込む空気は冷たく、同時に兄さまの手は暖かい。

 流れる風は身を切るようだったけれど、それ以上に私の心は満たされていた。そして同時に、私という器から溢れ出すのはーーーー力だ。




「……」





 空いた左の手から、静かに力を解放する。それは黒煙という形をとって、私の瞳には移り込んでいた。とろとろと糸を引くように私の手のひらから溶け出し、地面へと沈着している。そして、ひとたび力を込めれば、ふわりと舞い上がり、世界に霧散し、世界を浸食する。




 それは、自分でみても気持ちのいい光景ではなかった。

 けれど、兄さまにはそれが見えていないらしい。ご自身の体が得体の知れない黒煙で包まれていることに、まるで気づいていない様子だ。ただ静かに私の手を引いて、旅館へと歩を進めている。




「……」





 私は兄さまに手を引かれながら、黒煙の性質を掴もうと、四苦八苦していた。

 この力は、先ほど得たばかりのもの。けれど、明日には使いこなせるようにならなければならない。


 なぜなら、明日には「あの女」と対面することになる。そう、明日が決着のときなのだ。チャンスは、逃せない。

 500年という月日の果てに報われる、民の無念。あるいは、我が一族の悲願のとき。ただの一日も、先延ばしすることはできない。本来なら今からでもーーーと、想いはするが、あせりは禁物だ。今はまだ、私自身の準備が整っていない。





 輪廻という理のもとに許された、断罪のときを、逃すわけには行かないのだ。繰り返す命は、私に復讐の機会を与えてくれた。

 ーーーーただ、明日の私が退治することになるのは、あの女の、生まれ変わりだ。今代の女には、罪などない。けれど、その魂には罪が刻み込まれているはず。



 兄さまの魂に、私との絆が刻まれていたように。同様に、あの女の生まれ変わりである女にも、同様の傷が刻み込まれているはず。




 なればこそ、復讐は正当なものとなる。あの女が犯した罪は、それほどに重いのだ。数度の死により漂白されようとも落ちることのない、忌まわしきシミ。そして、それこそが、私の始まり。





 私はあの女の裏切りを知ったときから、この世界にとどまり続けた。それは私の意図したことではなかったが、それもやはり、運命だったのだろう。

 もし私が兄さまと同じように輪廻の輪に組伏していれば、私はあの女の罪を裁くことができなかったはず。今の兄さまがそうであるように、敵を敵としてみることもできず、そして、再びあの女を「愛する」という「愚行」を犯していたかもしれない。




「けれど、災厄の目は、ここで摘まれることになる」





 口にした言葉は、兄さまには届かなかった様子。兄さまはすこしこちらを怪訝そうに見下ろすだけで、私が笑顔を向けるとそっぽを向かれてしまった。今の言葉を聞かれていたらと思うと少しだけ、気持ちが暗くなる。でも、それは入らぬ心配。そして、仮に聞かれていたとしても、それは、それでいい。



 それで、いいのだ。

 明日、私はあの女を殺すけれど、それで兄さまが傷つくことはない。この力が在れば、私は兄さまを守れる。この力はそれだけ、常軌を逸している。兄さまの頭の中を改ざんすることくらい、わけはないのだーーー感覚的に、それが分かる。







 兄さまからあの女に関する記憶を根こそぎ取り払い、あいた穴にはーーーそうだ、あの峰岸とかいう女を当ててやろう。端から見ていても、あの女は兄さまに惚れ込んでいる。それに、兄さまだって、まんざらでもないはず……?





「でも、そうか……」




 よくよく考えると、あの女を殺して記憶を改ざんするだけでは駄目だ。この世界には、あの女の残滓が色濃く残ることになる。たとえどれだけ人の記憶をいじったところで、それには限界がある。

 きっとどこかで整合性がとれなくなり、いずれ破綻するだろう。すくなくとも私が生きた時代よりもはるかに、今のこの世界は個人を尊重してるようだし。







 ーーーーけれど、それはそもそもがおかしな話だ。あの女が尊重される世界など、在ってはならない。それは、根本的に間違っている。なら、それを正すところから、始めなければ。






 でも、どうやって?








『世界をかえるのだ』『あるべき世界に』『そうだよ、おねぇちゃん、世界を変えるんだよ』

『我らには力が在る』『かえるのだ、世界を』『ただすのよ、まちがいを』







 黒煙よりこぼれ出るのは、誰かの声だ。

 私を想ってくれる、誰かの声。500年という月日を私とともに過ごしてくれた、家族の声。

 500年という孤独を寄り添ってくれた、ともの声。彼らが、『世界を変えろ』という。





 でも、どうやって?








『世界に、間違いを指摘するのだ』『それだけでは足らぬ』『ここだよって、おしえてあげればいいんだよ!』『さすれば、正されよう』『正しき姿を示すのだ』

「世界の修復機構をつかうのよ」





 囁くみんなの声に、不可思議なノイズが走った気がした。

 でも、それが何なのかを確かめようとする私を置いてけぼりに、声は木霊する。





『世界の修復とな?』『不可能だ』『世界ってなに?』『どうやって?』『不可能だ』

「可能よ、彼女を生前に殺せばいいだけ」




 ノイズのような、変な感覚はーーー気のせいだったみたい。だって、みんなが受け入れているから。

 私の家族が、当たり前のように受け入れている。だったらそれはもう、家族なんだろう。





 ……それにしても、生前に殺すなんて----それは、不可能ではないのか?いや、そもそもが、矛盾しているのでは?




 



『生まれていないものを?』『生まれる前に?』『ころせるの?』『不可能だ』

「可能よ、そのためのすべてが、学び舎にはそろっている」





 不協和音が響く中、声は高まりを見せる。

 同時に、私の鼓動が跳ね上がるのが感じられた。




『いかにして?』「ゲートをつかうのよ」

  『なんのために?』「過去へとゆくために」

    『過去とはなんぞ?』「彼女が生まれた場所よ」

      『時を超えるとな?』「手伝って上げる」

        『そこで女を殺すの?』「それが最善手なの」





 敵を生前の世界に拉致し、殺す。そんな幻想的な思考が、今や現実味を帯びて私の中に広がりつつ在る。






『矛盾だらけじゃない?』「そうね、だから辻褄を合わせるの」

  『誰が?』「世界よ」

    『不可能だ』「可能よ。きっと、歪になるけど」

      『歪とな?』「なかったことになる」

        『なにが?』「存在が」

           『何の?』「敵の、すべて」





 切れ切れにかわされる、声の応酬。

 それは、「運命である」とささやく。





『死んでいるはずのものが』「生きている」

    『そんな矛盾を』「世界は許さない」

      『敵という存在を』「世界は認めない」

        『であるならば』「無かったことになる」

          『結果ありきに』「世界は組み替えられる」

             『しかしそれこそが』「正しき世界」





 組み替えられる、世界の構造。

 頭に響くのは、運命の足音ーーー明日、私は兄さまとともに学園という地を踏む。

 

 そこには異世界へのゲートが存在し、過去へすら往けるという。そして、過去にーーーそこで、敵が「生前に死んでいるという既成事実」を作ってしまえば、今のこの世界は、あり得ない。

 世界は、きっと矛盾を解きほぐす。そう、正しい形に。



 敵が存在しない世界という、「在るべき世界」を、私たちにもたらしてくれるはず!

 





「あれー?なんで、つながらないんだよ!」





 私の隣で騒ぐ兄さまに、私は再び微笑みかけた。心の中で、必ずお守りすることを誓いながら。

 けれど、そんな私に、兄さまは気づいていない。


 さっきから必死に携帯電話をいじっては、首を傾げている。

 ……兄さまは、本当に愚かになられた。いや、魂の漂白を受けている以上、仕方の無いことかもしれない。

 

 でなければ、「私に敵と話してほしい」などという戯言を、おっしゃるはずが無い。






「にいさま、電波が悪いのではありませんか?

旅館につけば、かけられるとは想うのですが……?」





 白々しいと自分でも想いながら、私は兄さまに声をかけた。

 そもそも、どうあがこうとも、その携帯が敵につながることは無い。だって、私の黒煙が巻き付いているのだ。

 それは何かをムシャムシャと食べているように見えるけれど、その真意は分からない。でも、私の望んだ結果は得られている。

 



 私はまだ、あの女と交わるわけにはいかない。

 もし交わればきっと、私は私でいられなくなる。だからこそ、明日の一発勝負なのだ。

 明日、私は修羅となりテーーーアノオンナコロし、兄さまをスクウノダカラ

小羽ちゃんが、バーサーク状態ですね。

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