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無限想歌  作者: blue birds
87/145

KeyB-2,3共通

一つを二つに。その意味は、はたして。

Tips~幸福にまつわるプロローグ


ある魔法使いが、「幸福」の定義を試みた。

しかし、階層構造を持つ定義ではそもそも、「幸福」を括りきれるはずもない。


どれほど魔法使いが言葉と頭をひねったところで、幸福にまつわる必要十分条件を見いだすことはできなかったのだ。

故に、彼の魔法使いは幸福を定義することを諦め、’まず’は「一義的な幸福」を「作り出す」ことに専念した。


ここで彼の魔法使いは、彼の作り出す「幸福」の定義を、「内包世界と固有世界の願望一致」と定めた。

端的に言えば、固有世界(人や意識)により生み出された願望が、各固有世界の投影物である内包世界(社会や広義の世界)に認められるということーーーそれこそが、両世界にとっての、幸福ということである。




この幸福モデルの作成を果たす上で重要なことは、「それ」が可能である世界(内包世界)を生み出すということである。

これには通常、彼の魔法使いが「神」となり、「その世界」と成ることが最短で最良の方法である。

しかし、この方法は当初の目的に沿うものではない。彼の魔法使いの目的はあくまでも「原初の幸福」を定義することであるからだ。




仮に彼が「神」となれば、「彼」という意識は無限拡散し、事実上、意味を消失する。

代わりに、彼は人の域を超え、他者をその身の内に際限なく内包することが可能と成り、同時に、「それ」という秩序「それ」を肯定する「永遠」としてーーーーしかし、それでは意味がない。




彼は、「幸福を定義」することを望んでいるのだから。

今回の幸福モデル作成の先には、「真の幸福」の定義が命題として存在している。



故に、彼はここで、人としての「終焉」を迎え入れる分けには、いかなかった。

彼は人のまま、人の領域を超えることを、彼自身の課したのだ。




その結果生み出されたのが、「繭」であり、これはーーーーー











KeyB-2,3共通:汝の名を問う:解き放つ、可能性:存在確率変動(存在強度概算10%)東利也





俺は今、古びた社のお前にいる。

右を見ても左を見ても、暗闇ばかり。途中で買いに走った懐中電灯がなければ、俺は一歩も前に踏み出すことすらできない。



けれど、おれの手には懐中電灯が在る。

なぜなら、俺は買いに走ったからだ。コンビニまで。



だから、俺は一歩を踏み出すことができるーーーそう、俺の意思で。



「……」



由香は、受け入れてくれた。それどころか、今回の一件の結果を、一緒に背負ってくれるとも。

ーーーそれが正しい選択かどうかなんてことは、今の俺にはわからない。けれど。




『私たちの決断が間違ってるかどうかなんて、「今の私たち」にはわからないよ。

それは、「未来の私たち」が決めることだから。だから、後悔しないようしなきゃ。

未来の私たちが、歯をくしばれるように。なにがあっても、諦めないようにさ?』





選択の正しさを決めるのは、後まわし。ただただ、後悔をせぬように。

後悔さえしなければ、諦めなければ。


その先にある未来で振り返った自分たちの軌跡を微笑むことができるはず。

そんなふうに由香は、まるで、昨日の占い師みたいなことを、平然と言って退けた。




「……」



俺は、一歩一歩前に進む。

生い茂る雑草が俺を禁めようと、足を取りにかかる。



それでも、俺は前に進んだ。そして、朽ち果てた社の前にたつ。





「おい!だれか、いるのか?」





間抜けな声を上げながら、最後の階段を上る。

ギシギシと音を漏らす社は腐りかけており、いつ床が抜けてもおかしくない状況だ。




「おい!いるのか!?おい!」




声のボリュームを上げながら、俺は扉に手をかけた。

ほんの少し力を込めるだけで、施錠すらついていなかった扉はすぅっと、開いた。




「……おい、こら。

いるなら、返事くらいしろ」



俺は安堵の息を漏らしながら、社に踏み入った。

目指すのは、社の部屋の、四の隅のーーー

それも、星の光すら届かない、社の一番奥の奥に。


あいつは、一人膝を抱え、丸まっていた。震えながら、一人で。

一人で嗚咽を漏らしながらーーーーー









KeyB-2,3共通:汝の名を問う:解き放たれる、可能性:存在確率臨界(存在強度概算10%)東利也





カシャンと、何かがくだける音が聞こえた。

続いて、誰かがどこかに入ってくる。でも、だれだろう?

それに、ここはどこ?




「おい、大丈夫か?おい、ちょっと、お前!」





声が、響く。伽藍胴の社と、私の中に。

響いた声は、ひとりぼっちの私を満たしてくれる。



とても暖かくて、懐かしい声。でも、それはきっと、気のせいだ。




心配そうに私覗き込む彼の顔を、私は知らない。凍えた手を包み込んでくれるぬくもりも、私は。




『にい、さま?』




それでも、ついて出る言の葉は、なんなのだろう?

なんだか、言葉においてけぼりにされたような、変な感じがする。




「なんで、返事しないんだよ?どっか、悪いのか?」




必死な、彼の目。なぜ彼は、そんなに私のことを心配するの?

あなたは、いったい誰なの?どうして、あなたはここに?




『いえ、大丈夫です。ただ、びっくりしてしまって。

だって、わたし、ここから出られるなんて、お、おもわっな!』





感情のしずくが、頬を伝う。それは大気の冷気にさらされ、すぐに冷たくなってしまった。

でも、それを拭うように、新たなぬくもりが、頬に添えられる。





「もう、大丈夫だ。もう、だいじょう。もう、大丈夫だから……」




大丈夫だと言う彼の声に重なるように、大丈夫だと、もう一つの声が聞こえた。

そこでふと、私は気がついた。彼はーーー私を抱きしめてくれるこの方は、「私」の兄さまだと。




『「迎えに、きてくださったのですか?

ほんとうに、『「私の」』にいさまなのですか?」』





私は顔を埋めたまま、彼に問うた。

彼はーーー兄さまは答えてくれはしなかったけれど、でも、強く抱きしめてくれた。

たぶんそれが、答えなんだ。


それが、答え!兄さまは、私を選んだ!この、「私」を!

牢に閉じこもり、運命から逃れようとした『私』ではなく、この、「わたし」を!





「ああ、にいさま。兄さまなのですね?

にいさま!にいさま!」






わたしは喜びを、声にのせた。うれしくてうれしくて、涙があふれた。

わたしは、勝ったのだ。運命に。そして、弱い私に!




「にいさま、もう、大丈夫です。

わたしは、もう、大丈夫です。だから、にいさまーーー」





私は、そっと顔を上げ、兄さまの目を見つめた。

同時に、力がみなぎってくるのが分かる。これは、兄さまを守る力だ。



ほかのだれでもない、この、「私」が、兄さまを守る。今なら、分かる。

一つを二つに分けた理由は、なすべきことをなすため。



人のみにすぎたる己の力に震えるだけの、そんな弱い『私』を追い出し、兄さまを守るため。




「にいさま、わたしはもう、だいじょうです。

だから、そんな顔をなさらないで。わたしは、ここにいます。だから、にいさまーーー」






私は、兄さまの頬の自身の小さな手を添え、微笑んだ。

そして、心に誓う。なにがあろうと、もう、離れないと。なにがろうと、今の私ならーーー



寒い季節ですよね。

こたつが、ヤバいです。

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