繰返す意味1:無意味:keyB-1-C-1:収束回帰–存在確率90%:正しき世界:東利也
世界は、正しき軌道へと回帰しました。
すなわち、これまでの物語は、「なかったこと」になります。
89部より
↓
繰返す意味1:無意味:keyB-1-C-1:収束回帰–存在確率90%:正しき世界:東利也
三泊四日の旅も、これで終わりを告げるかと想うと、なんだか無性にさびしくなる。
さりとて、帰らないわけにもいかない。ただ、それでもさびしく感じるのは、今回の旅がそれだけ楽しかったからだろう。
一日目の京都寺周りはさておくとして、二日目の自由行動は馬鹿に見たいに騒いだ分、思い出したくもないくらいに楽しかった。早起きして電車にのった俺たちは、京の町へと繰り出した。学園と比べれば小さな町だったが、それでもイベントには事欠かなかった。
たとえば、「占いの通り」での1件。
細いあぜ道に個性豊かな占い師が並ぶ通りで、俺たちは銘々嘘か真かも分からない占いに大いに沸いた。特に、女性人。彼女らは---例外として栞は落ち着いたものだったが、他の面子---あの、零面鉄美と歌われる朝霧でさえ、頬を染めて熱心に胡散臭いおじさんの話に聞き入っていた。
ちなみに、俺はというと、無難に「将来のこと」を占ってもらった。そこで由佳との話が出た結果、峰岸の機嫌が最悪になり、さらにはその事が「夜のオトコだらけの猥談」のネタにされたのは、また別の話だ。
んで、「三日目のUSJ」は微妙だった。なんせ、キヨがジョーズの海に落ちちまったからな。高校生にもなって、何してんだよって話だよ。ただ、それでも楽しかった。アトラクションは数個しか制覇できなかったけれど、待ち時間にいろんなことを友人と話せたし。まあ、三日目のメインイベントは、女湯ののぞきだから、そのせいでUSJで霞んで見えるのかもしれないけれど・・・・・・
「東、時間っぽい。ほら、いくぞ」
ぼーっと、ガラス張りのロビーから外を眺めていた俺は、キヨの声で我に返った。ふと時計をみると、針は16時45分を指している。たしかに、飛行機の出発まで、あと30分を切っているようだ。だらけていたほかの面子も、いそいそと移動の準備に入っている。
「にしても、かえりたくな〜い!ねぇ、峰岸、なんとかならない!?」
荷物を片す俺の耳に飛び込んできたのは、瀬戸のアホな心の叫びだった。まあ、実際声として聞こえているから、心の声ではないのだろうけれど、でも、アホなことには変わりない。
当然だが、峰岸は「なるわけないでしょ、ばかなの?」と、素で返していた。あまりにもストイックすぎる友人関係を前に、涙がにじむ思いだ。
「全員そろってるわね。じゃあ、いきましょうか。チケット出しといてね。こっちよ」
続く声は、班長である朝影のものだ。あいもかわらずのクールぶりで、俺たち癖の強いメンバーをまとめにかかっている。正直、朝影がいなかったら、うちのグループには班長なんていなかっただろうーーーめんどくさいしね。
だからというか、そんな面倒事を見てくれた朝影に一定の感謝が皆ある訳で、だからというか、むろんというか、朝影の指示に反抗するやつなんて班にいる訳もなく(瀬戸をのぞく)、全員が全員、すくっと立ち上がった。
そして、のろのろと歩き出す。三日間の遊び疲れのせいもあるが、はっきりいって、学園に帰ればいつもの日常だ。
だから、皆自然と歩みが遅くなる。そう、遅くなる。まるで、「楽しかった旅行」に袖を引かれるようにーーーー?
「あっ」
声がする方を、俺は振り返った。そこには小さな女の子が一人、たたずんでいるーーー俺の、袖を引きながら。
ただただ驚きの表情を顔に張り付かせ、こちらを見上げていた。
「えっと、あれ?」
年の頃は、4,5歳くらいだろうか。毛糸のウサちゃん人形を片腕に抱きしめ、空いた手で俺の袖をつかんでいる。
少女の抱くウサギは、ぺしゃんこだった。そして、袖を引く少女の指先は震えている。
にしても、誰だこの娘?まったく、見覚えがないんだが・・・・・・
「なにしてんのよ、あんた。って、 その娘、だれ?」
先に搭乗口に向かっていた峰岸がこちらに戻ってきていた。遅れて、栞が峰岸の横に並ぶ。視線を搭乗口に移せば、他の面子たちが不思議そうにこちらを覗いているのが見える。
「いや、知らない。たぶん、迷子かなにかだと思うんだけど・・・・・・」
俺自身、この少女とは初対面だった。たしかに、俺にはこれくらいの兄妹がたくさんいるが、彼らがこんなところにいるはずもないし、いたならいたで、見分けがつく。
なのに、どうしたことか。俺は、その少女を知っている気がしたーーーいや、違う。知っているというより、「忘れている」というような、そんな、妙な感覚だ。
「お嬢ちゃん、お名前は?お父さんとお母さんは、一緒じゃないのかな?」
少女に視線をあわせるため、かがむ峰岸。問いかける声は、やさしく、普段俺に向けられるそれとは天と地ほどの差が感じられる。
それで、少女は口をギュッと噛み締めるばかり。若干、俺の袖をつかむ力が強くなっている気がする。
「とりあえず、係の人を呼ぼう。そうしないと、何も始まらないってーーーてか、はやいな。
というより、さすがに栞っていったところか」
そんなふうに、俺が峰岸に提案しようとし、結果先回りした栞が係の人を連れてこちらに歩いてくるのを見た瞬間。
その瞬間に、とてつもない「違和感」を覚えた。
だれが、何に対して?
ーーーそれは、俺が、俺に対してだ。
「この娘です。周りに保護者の方も見当たらないので、どうしようかとーーーー」
栞の説明する声が、遠くに聞こえる。
そして、俺の意識は今や、少女にそのほとんどを占有されていた。
なんだ、この感覚は?
どうしたってんだよ、おれはーーー?
「では、この娘の親御さんは私が責任を持って探させていただきます。
本日はーーーー」
じっと、俺を見つめる少女。
彼女は何も口にすることなく、ただただ俺を見つめ、そして、つかんでいた俺の裾を離した。
少女はそのまま警備員さんに手を引かれ、静かに俺のもとを去ってゆく。たった一言の、言の葉を残して。
さようなら、にいさま
繰返す意味1:小さく、偉大なる奇跡:keyB-1-C-1:収束回帰–存在確率90%:正しき世界:寿小羽
「お世話になりました、イツキ様。こんな私に、救い手の手を指しのばして下さったこと、この魂が滅ぶそのときまで、
決して忘れません」
警備員に手を引かれ歩く少女ーーー寿小羽は、そう、黒髪の女性に礼を述べた。
たいして、イツキと呼ばれた女性は寂しげな表情を浮かべ、小羽の頭を優しくなでた。
小羽は、その優しい手のひらに母親の優しさを幻視し、目を細める。
「シロがお世話になったみたいだからね。これも、なにかの縁ってやつよ。気にしないで。
それに私は、あなたを救った訳じゃないわ。私はまだ、あなたを「救えてはいない」」
ーーーそう言って、蒼の魔法使いは唇を噛み締めた。
そんな魔法使いを前に、小羽は優しく笑いかけるーーー「これで、十分です」と。
「あなたは、あの「檻」より、私を救い出してくださいました。それだけでなく、世界の法則をねじ曲げてまで、一時ではありますが、わたしに「形」を・・・・・・・おかげで、兄さまに別れを告げることができました。もはや、思い残すことは何もありません。
縁もゆかりもない私ーーーいえ、シロさんという共通の友人の存在があるとはいえ、それでもーーー」
陽炎のように、少女の形が揺らぐ。
ただし、そのことに気づいているのは蒼の魔法使いだけだ。空港にあふれるほとんどすべての人々が、「人が揺らぐ」という現実に、まるで向き合おうとはしないでいた。
「あなたはこれから、本来のあるべき姿にもどることになるわ。でも、その運命は変えられる。
その運命を打ち破るには、本来なら「あなたたち」の強固なる意志が必要なのだけれどーーーでも、わたしなら、それらすべてを踏みにじって、「ハッピーエンド」を呼び込むことができるわ。ねぇ、小羽ちゃん。私はーーー」
魔法使いは小箱をポケットから取り出すと、少女にかざしてみせた。その、小箱の裏側には、東利也と寿小羽ーーーそして、伊吹由香が三人仲良く食卓を囲んでいる風景が浮かび上がっている。それは、とても幸せな幻想に見えた。
しかし。
「いいえ、イツキ様。これで、よいのです。私も兄さまも、自らの意思でこの結末を選びとりました。
いまさら後悔など、みじんもありませぬ」
強く、小羽は笑った。それは、終わりを受け入れた意思の、最後の強がりが形を得た姿だった。
故に、魔法使いはため息をつき、小箱をーーー「決定した世界」を内に宿す「パンドラの秘宝」を、ポケットにそのまま戻した。
そして。
「さようなら、小羽ちゃん。私は、あなたの「強い意志」を、決して忘れないわ」
そして、一言さようならと言い残すと、世界を去った。
それは、ともすればあっけらかんとした別れの形でもあった。
なぜなら、それもそのはずだ。
「ーーーーーーーーーーーーー」
魔法使いが去った、まさにその瞬間、その場所には。
もはや、寿小羽という少女はおらず、代わりただ延々と何かを呪い続けるーーーーただそれだけの存在が、残されるだけなのだから。
ending1:
繰り返す意味1:無意味
汝の名を問う:未回答
相克する因果:回答権消失
結末:「正しき世界」の回収終了。
ending1のあとがきは、ending2が出たときに一緒にやります。
ではまた、近いうちに。
はやく、ハッピーエンドの向こう側を描きたいです。