連想歌B-3:乱立変数収束–存在確率10%:正答の破棄2:万難と願い:東利也
なんというか、寒いです。
あと、バックアップって大切ですよね。かき溜めた話が消えてなくなりました。
Tips~願い:星に願いを
星に願いをかけた少女がいた。
かけられた少女の願いはあまりにも現実離れしすぎていて、願った少女自身、それが叶うことはないだろうと思っていた。
だからこそ、少女は星に願ったのだ。天に輝く星に願いをかければ、それが叶うような気がしたから。
♪
少女によって願いをかけられた星は、少女の願いが宿す輝きに魅了された。
夜闇の深淵にあってなお消え去ることの無いその優しき光に、星自身も、少女の願いを叶えたいと思ったのだ。
しかし、少女の願いの輝きは星のそれよりも強すぎて、星には叶えることが出来なかった。
だから星は、自身より強大な存在である宇宙に願いをかけた。
少女の願いを叶えてほしいと。
♪
宇宙は星の願いを聞き届けようと考えた。
しかし、託されたその願いの大きさは、宇宙が内包できる許容量を超えていて、宇宙はその全貌を把握することすら出来なかった。
だから宇宙は、「秩序」に願いをかけた。星の願いを叶えてほしいと。
世界の自然法則の管理者である「秩序」なら、この強大な願いも叶えられると宇宙は思ったのだ。
♪
「秩序」は彼らの願いを叶えてあげたかった。しかし、できなかった。
それは自分という存在そのものが、彼らの願いを否定していたから。
だから秩序は幻想に願いをかけた。
♪
幻想。
それは、ありえないが故に望まれて、望まれるが故に形もつ、無より生じるひとつの奇跡。
それはいつの時代も、どんな場所でも生み出されてきた。
そしてそれは観測されてきたのだ。多くの人々によって。
人。
それは、幾千幾万の世界を宿す、無限の可能性。世界はそのような存在を、あるいは可能性を、霊長と呼んだ。
世界に内包されながら、その実、世界と同格の可能性を秘めた夢幻の存在。
だから世界は今日も願いをかける。
自分とは異なる世界に。
♪
こうして巡り巡った幾ばくかの願い達は、少女に還元された。
あとは、少女しだいだろう。
願わくば、彼女の願いが叶いますように。
連想歌B-3:乱立変数収束–存在確率10%:正答の破棄2:万難と願い:東利也
私こと伊吹由香と、私の恋人の東利也は---二人とも孤児であり、同じ施設の出だ。
私たちは、お互いがまだ言葉もろくに話せない頃から一緒に一つ屋根の下で育ってきた。血こそつながっていなかったけれど、それでも、それ以上に私たちはお互いのことを大切な家族として認識し、大きくなった。
私たち家族の絆は、高高四つ程度の塩基配列じゃ表記できないほどに、硬く尊いものになっていたのだ。
『ユカネェのこと、おれ、好きなんだ』
だから、だろうか。
血こそつながっていなくても、私たちは家族であり、だからこそ、どうしようもないくらいに私にとっては利也は「大切な弟」で、そして、利也にとって私は「大切な姉」でもあった。
世間一般的に、兄弟間の恋愛感情っていうのは、問題視される。そのことについて、私は異論を唱えるつもりはない。
けれど、なら、「私と利也」の関係はどうなんだろうか?
『おれ、ユカネェのことが好きなんだ。家族とかじゃなくて、女として、ユカネェのことがすきなんだよ』
受話器越しに震える声で告白する利也は、少しだけかっこよかった。背伸びして、私のことを「女」って表現したところも、ポイントが高いところ。
……けれど、そんなふうに利也から告白された当初は、戸惑以外の感情などなかったというのが、本当のところだ。
『おれ、ちゃんとわかってる。ユカネェが俺のことなんとも思ってないってことも、俺がユカネェの弟だってことも、ユカネェがもうすぐ此処でてくってことも、全部わかってる!
だから、今言わなきゃって、俺!」
まくし立てるように、利也は自分の思いを告げてくれた。
そこには、彼なりの道徳的な葛藤と、そして、私という家族に対する配慮と、そして、それまで支えてきてくれたたくさんの人たちへを裏切っているという後悔の念---とにかく、受話器越しの俊哉の声には、いろんな感情が入り混じっていたように思える。
『利也、会って話をしよう?利也の声からは、利也が本気だってことがわかるよ?
遊び半分でこんなこと言ってるんじゃないってこと、ちゃんとわかってる。でも、わたし、利也の顔が見たい。ちゃんと利也の顔を見て、話を聞きたい』
----最初、利也は私の申し出に若干の抵抗を示した。
まあ、利也がなんで告白に電話なんて持ち出したのかなんてこと、今の私ならわかる。いざあってみたときの彼は、それはひどい身なりだった。もちろん、着る服がないとかじゃない。さすがの孤児といえでも、着る服がないなんてことは、なかった。少なくとも、私たちは。
ただ、今でも鮮明に覚えているのは、くまを両目下にぶらさげ、無精ひげをわずかばかり尖らせ、即席といわんばかりにワックスでガッチガッチに固めた尿名頭で私の前に現れた、彼の顔だ。
なんともまあ、たしかに、これじゃあ、ダメだ。
こんななりじゃあ、好きな人の前には出れない。普通なら、出れない。たぶん、死んでも、出たくないってのが、思春期真っ只中にいた利也の、本音だったんだろう。
でも、なんだか、そんなヘンテコな彼の不器用さが妙にツボニはまってしまって、結局私たちは。
「由香、俺、どうしたらいいか、わかんなくてさ……ごめん、ほんと、ごめん」
私たちが付き合いだしてから、もう三年が過ぎようとしている。
その間、私たちの関係にはいろいろな変化があったけれど、でも、彼自身はあまり変わっていない。そしてそれは、私に関しても同じなんだと思う。
ーーーー彼は。彼は、私に決死の告白を告げてくれた日のまま、あの日のまま、再び受話器越しに自身の本意を私に伝えていた。
「分からない」と。
自分がどうすればいいのかーーーではなく、「なぜ、自分が選べないのか」と。
分かりきった正解を、何故選べないのかと。
「分かんなくて、当然だよ。わかんなくて、当たり前」
受話器の向こうにいるはずの利也の顔は、容易に想像できた。
もちろん、私からの電話を取ったときの彼の顔も。
ーーー彼からは、驚くような話を聞かされた。
それは、栞さんが超能力者だったということから始まり、彼女の、予言。それは、小羽という名の夢の少女が、「私を殺すだろう」ということ。そしてその原因は私の前身にあり、どうあがこうとも、悲劇は不可避であるとーーー唯一、栞さん達の策に乗る意外は。
結局、私達は無力だ。私も彼も、年相応か、もしくはそれ以上に頑張ってこれまで生きて来たつもりだった。でも、私も彼も、こんな風なことが起きるなんて、夢にも思わず生きていた。
必死にバイトで学費を稼いで学校の授業に付いて行くだけで、精一杯。
速く一人前になって園の家族の助けになれたらと頑張るだけで、いっぱいいっぱい。
だから、「かつて妹だったかもしれない幽霊」が、彼のもとに現れるなんてーーー引いては、その幽霊が、私を殺すかもしれない可能性を想定するなんて、出来るはずも無かった。
「あいつと会ったのなんか、数日前だぜ?それに、会話だってそんなに交わしてない。
そもそも、あいつ明らかに人間じゃないしーーーおれが、まともならな。おれが、現実と夢を取り違える程もうろくしてなければ、あいつは、まともじゃない!
それに、俺たちが見た警告夢と栞の話は、整合性が合う。あいつが、由香をーーーそれなのに!」
それなのに、「選べないんだ」と彼はつぶやいた。
「ソレ」を選んではいけない理由を羅列して、そして、尚、それでも「選びたい」と願う自分を責めていた。
ーーーー本当に、利也は変わってない。どんなことにも一生懸命で誠実。
他人のことを想って想って想って、そして、自分の中でグルグルと回って、苦しむ。そして、「決める」。
1人で。たった1人で、決めてしまう。
それは、私に好きだと言ってくれたあの日だって、そうだった。わたしのことや、家族のこと。自分のことはもちろんだけれど、彼は色んなことを自分1人で考え詰めて、答えを出した。
ーーーあのときは、それでも良かったかもしれない。「あのとき」は、それでも良かったと想う。
けれど、今は状況が違う。
あのときと今では、まるで状況が違うのに、利也は相変わらず、1人で決めようとしていた。
だから。
「分かってる。何で分かんないけど、分かるよ、利也の気持ち。私も、私が殺されるかもって聴かされているのに、その娘に会いたいって想ってる……うんん、違うか。
私は殺されても良いから、絶対にあの娘に会わなきゃいけないって、感じてるの」
だから、受話器の向こうで息を飲む彼に、伝えた。
私の気持ちを。「彼の想う私」でなく、「正真正銘の私自身の気持ち」を、彼に。
「利也、「1人」で背負わないで。これは、利也だけの問題じゃないんだよ?
これは、私の問題でもあるのーーーだから、一緒に決めよう?私達が、どうすべきかを、二人で。絶対に、後悔しないようにーーーさ?」
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94部へ
本当は三人で選ぶべき道ですが、各々のリスクを考えると、二人ずつのペアが妥当ですかね?
さて、次回は小羽ちゃん救出編です。といっても、難しいのは選ぶことで、その先はーーー案外あっさりとしてます。
問題は、学園に帰ってからです。
そこからが、この物語の始まりであり、終わりになります。