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無限想歌  作者: blue birds
82/145

連想歌B-2:乱立変数拡散–存在確率10%:正答の破棄1:万難と蛮勇:東利也&伊吹由香

87部から



 

 私こと伊吹由香と、私の恋人の東利也は---二人とも孤児であり、同じ施設の出だ。

 私たちは、お互いがまだ言葉もろくに話せない頃から一緒に一つ屋根の下で育ってきた。血こそつながっていなかったけれど、それでも、それ以上に私たちはお互いのことを大切な家族として認識し、大きくなった。

 私たち家族の絆は、高高四つ程度の塩基配列じゃ表記できないほどに、硬く尊いものになっていたのだ。




『ユカネェのこと、おれ、好きなんだ』




 だから、だろうか。

 血こそつながっていなくても、私たちは家族であり、だからこそ、どうしようもないくらいに私にとっては利也は「大切な弟」で、そして、利也にとって私は「大切な姉」でもあった。



 世間一般的に、兄弟間の恋愛感情っていうのは、問題視される。そのことについて、私は異論を唱えるつもりはない。

 けれど、なら、「私と利也」の関係はどうなんだろうか?



『おれ、ユカネェのことが好きなんだ。家族とかじゃなくて、女として、ユカネェのことがすきなんだよ』



 受話器越しに震える声で告白する利也は、少しだけかっこよかった。背伸びして、私のことを「女」って表現したところも、ポイントが高いところ。

 


 ……けれど、そんなふうに利也から告白された当初は、戸惑以外の感情などなかったというのが、本当のところだ。


『おれ、ちゃんとわかってる。ユカネェが俺のことなんとも思ってないってことも、俺がユカネェの弟だってことも、ユカネェがもうすぐ此処でてくってことも、全部わかってる!

だから、今言わなきゃって、俺!」




 まくし立てるように、利也は自分の思いを告げてくれた。

 そこには、彼なりの道徳的な葛藤と、そして、私という家族に対する配慮と、そして、それまで支えてきてくれたたくさんの人たちへを裏切っているという後悔の念---とにかく、受話器越しの俊哉の声には、いろんな感情が入り混じっていたように思える。






『利也、会って話をしよう?利也の声からは、利也が本気だってことがわかるよ?

遊び半分でこんなこと言ってるんじゃないってこと、ちゃんとわかってる。でも、わたし、利也の顔が見たい。ちゃんと利也の顔を見て、話を聞きたい』






 ----最初、利也は私の申し出に若干の抵抗を示した。

まあ、利也がなんで告白に電話なんて持ち出したのかなんてこと、今の私ならわかる。いざあってみたときの彼は、それはひどい身なりだった。もちろん、着る服がないとかじゃない。さすがの孤児といえでも、着る服がないなんてことは、なかった。少なくとも、私たちは。



 ただ、今でも鮮明に覚えているのは、くまを両目下にぶらさげ、無精ひげをわずかばかり尖らせ、即席といわんばかりにワックスでガッチガッチに固めた尿名頭で私の前に現れた、彼の顔だ。

 なんともまあ、たしかに、これじゃあ、ダメだ。

 こんななりじゃあ、好きな人の前には出れない。普通なら、出れない。たぶん、死んでも、出たくないってのが、思春期真っ只中にいた利也の、本音だったんだろう。



 でも、なんだか、そんなヘンテコな彼の不器用さが妙にツボニはまってしまって、結局私たちは。







「由香、俺はあいつを連れ帰ろうと思う。

いろいろ大変かと思うけれど、でも、俺、決めたから。もちろん、床に迷惑をかけるってことはわかってる。でも、俺はーーーー」






 私たちが付き合いだしてから、もう三年が過ぎようとしている。

 その間、私たちの関係にはいろいろな変化があったけれど、でも、彼自身はあまり変わっていない。」そしてそれは、私に関しても同じなんだと思う。





ーーーー彼は。彼は、私に決死の告白を告げてくれた日のまま、あの日のまま、再び受話器越しに自身の決意を私に伝えていた。



「あいつ」を、連れて帰ると。



正体はよくわからない、「妹」だったかもしれない何か。

生者ではなく、また死者ですらなかもしれない存在を、彼は連れて帰りたいとーーー



94部へ。

では、また。

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