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無限想歌  作者: blue birds
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夢想歌:縁を紡ぐ、久遠の園4:久遠栞

 物語を読み解くだけのモノーーーそれが、久遠です。


夢想歌:縁を紡ぐ、久遠の園4:久遠栞





 人1人を救えたなら、きっとそいつは世界だって救ってのける。

 逆を言えば、人1人を救うことと世界を救うことに、それほどの差異は無いのだ。




「……」





 トボトボと静かな夜道を、私は1人で歩いていた。

 まるで全然、上手く行かない。東クンには「完璧だよね?」とおちゃらけたものの、それを即座に否定したのは他ならない、自分自身だった。





「なんで、こうなるのかなー?」





 私を見下ろす月は、相変わらずの無表情だ。

 そして、それを見上げる私も、また。



 


 ーーー私は、峰岸燈火を愛している。それは、親友や隣人としてではなく、それこそ、配偶の対象として、彼女を愛している。


 同性である燈火を愛するなんて、認められない。それは、人の世の「流れ」だ。そして、自然法則からしても、当たり前の、話だ。

 けれど、愛しいものはしょうがない。何がどうした所で、私は燈火の恋人になりたいのだ。



「はぁ……」




 久遠と峰岸の関係は、たいそう古い。

 これまで、二つの一族は途方も無く長い道のりを親密に寄り添い合い、太古から現代にいたるまで、互いに支え合って生きてきた。

 そして、それと同じ分だけの時間を、久遠の者たちは心を殺して生き続けている。




「……」





 なぜかは、分からない。

 何故かは誰も説明できないのだが、何故か久遠の一族は、峰岸の血に引かれるーーーどうかすれば、同性であろうと、恋愛の対象と見なすように。つまりは、今の私と燈火がその関係だ。




 このことを、峰岸の人間は誰も知らない。

 遥か昔から、延々と久遠の家で封殺されて来た事象の一つなのだ。

 故に、久遠と峰岸がパートナーを組む際には、「必ず同性であること」が定められている。

 はかり間違っても、二つの一族が交わらぬようにーーーそう定められた理由など、分からないけれど。

 遡行視でなら確認できるかも知れないが、やろうとは想わない。




 なぜなら、そこにどんな理由があれ、私達一族は、頑にその定めを守り抜いてきたのだ。

 私の母も祖母も、そして、その前の久遠も、守り抜いて来たのだ。そうであれば、私だけが我がままを言うわけにはいかない。まあ、我がままが言いたくても、私が好きなのは燈火で、同じ女の子で、だから、どっちにしたってむりなんだけど。





「燈火もねぇ……良い娘なんだよ、東クン……」



 そして、私が愛しいてる女性ひとは、別の者に心を奪われている。

 そいつの名前は東利也という、「The 凡人」という体の男の子。




 彼には何か突出した特徴があるわけでなく、また、特別な背景も保たない。

 たしかに、瀬戸高に入学できたという点では十分に特異であるし、孤児という背景もある意味では特別なのだろう。




 けれど、だから何だというのだ。

 彼は、所詮その程度の存在だ。彼なんか、私の足下にも及ばない。彼が百人束になってかかって来た所で、そのことごとくを叩き潰せる自信が、私にはある。




 でも、燈火は彼に惹かれている。惹かれているけれど、そのラッキーボーの彼は、別の女性ーーー由香先般に、心を捧げている。

 それはもう、セックスやらかすくらいに。





「どっちにしたって、燈火は燈火で許嫁が居るし、どうしようもないんだけどね」





 燈火には、定められた許嫁がある。

 相手の彼は将来が有望視される青年で、人としても素晴らしい人格の持ち主。


 東クンと彼を天秤にかければ、普通は彼の方にガッツリ天秤は傾くはずなのだけれど、どうしたことか。



 ーーーいずれにせよ、燈火の恋は上手く行かない。そして、それを燈火は嘆くことなんかしない。燈火は、ちゃんと弁えているからだ。

 自分がこれまで獲てきたモノと、その対価を。

 燈火は、自身が峰岸であるが故に「獲られた者」であると、きちんと自覚している。故に、獲られぬものもあるとーーーそれなのに、東クンは……





「情に流されて、自分を制御できない子ども。

無い物ねだりの末に、その責を他人に求めるーーーあんな人が、ヒーローになれる分けない。

ましてや、燈火があんな男のために涙を流すなんて、絶対に……!」




 彼がヒーローの原石であると妄言する理事長の気が知れない。

 彼が世界を救える可能性など、私は万に一つも見いだせない。


 だって事実、彼は誰もーーーあのモノ、燈火も、由香先輩も……全てを巻き込んで、最悪の結末を呼び込もうとしているのだ。






「だからって、私も私だけどね。

……あああああ、もう! むかつく! くそ、くそ、くそ、もう!」






 彼には、誰も救えない。でもそれは、私とて同じこと。

 だから、必要最小限の損害を選択する。



 それはきっと、正解ではない。だからこの解を、だれも肯定はしてくれないだろう。

 けれど、どうしようもない。その、「間違いだけじゃない選択」を私達は選び、間違えた部分を背負って、生きて行くーーーそれが、意志ある者である、私達の取り得る選択肢だとーーー私は信じて、今此処に居るんだ。



 

東クンんは、間違いだけじゃないと、言いました。

だから、自分を肯定しろとーーーでもそれは、栞ちゃんだって、同じこと。




彼らは、同じ価値基準で物事を判断し、交錯しています。



次回は、連想歌:乱立変数2:想い人2:東&伊吹です

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