連想歌:乱立変数2:想い人6-恋敵:東&久遠
もうすぐ、クライマックスですね。
夜明け前が一番暗いと言いますが、この夜が開けたら、惨劇が起きます。
連想歌:乱立変数2:想い人6-恋敵:東&久遠
あなたには、あの「モノ」は救えないーーーー俺では「あいつ」を救えないと、そうーーー栞は言った。
けれど、だとしても!
「……お前が言っていることが正しいって証拠は、あるのかよ?」
それでも、俺は何故か諦められなかった。その上、突いて出た言葉は、栞を愚弄するもの。
それを言い出すなら、初めから栞に聞かなければ良いというだけの話だ。
「あるわよ、証拠。ほら」
栞は、流れる動作で俺の頬に手を添えた。
そして、目を閉じてゆっくりと端正な顔を近づけてくる。
「ちょっ、おまえ!」
全力で体を反らそうとしたら、おもいっきり足を滑らせた。
ジャリッという音が、夜の闇に溶けて消える。
ーーー瞬間、腕を引かれた。
気がつけば、目の間には栞の顔。
そして、栞と俺の額が触れた瞬間。
「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
そして、目の前の景色はブラックアウトした。
意味が分からない。けれど、事態は俺を無視して進行する。
気がつくと俺は、疾走していた。
今居る所から時空を超えて、俺は、どこかへと向かっている。
「う、ウああ……」
意識が擦り切れる直前に、おれは「どこか」にたどり着いた。
延々と続く階段ーーーいや、獣道を、山の麓から見上げている。
「今視たものが、霊視。ちなみに、最初の暗がりが遡行視ね。
案の定だけど、時超えは無理だったか……でも、収穫はあったでしょう?
あそこに、「あれ」は居る」
時間にすれば、ほんの数秒だったのだろう。
それでも、脳髄がずたずたに切り裂かれたかと思った。
「な、んだ、よ、今の!」
体がぴくりともしない。
今や、俺は栞に支えられなければ、まともに立つことさえ叶わない体だった。
「証拠をみせろって、東クンがいったんだよ……?
今のが、霊視なの。
ああやって私達は、色んな場所の物事を見聞きするわけ」
ゆっくりと栞は、俺の身体を河原に横たわらせた。
そして、おれの顔の上にしゃがみ込む。
その目には、明らかなあざけりが見て取れた。
くやしいが、今は息をするのでやっとだ。
「これで、わたしの役目は終わりかな?
ーーー東クンに帰りのチケット渡したし、「あのモノ」への道も示したし……完璧だよね?
うん、大丈夫。これで何かあったら、あのくそ爺マジで地獄にたたき落とすレベルだわ……
ねぇ、東クン? 私はあなたに選択肢を与え、そして、取るべき道も示した。
わたし、えらいよね! 東クンも、そう思うようね?」
だから、さっさと恋人の元に逃げ帰れとーーーそう、栞は語っていた。
もちろん、栞がそうはっきりと口にしたのではない。
けれど、俺を見下ろすその表情が、彼女の心情を物語っていた。
「あんだけのことできんなら、なんとかできんだろ。
あいつのことも、由香のことも・・・・・・」
はっきりと分かるのは、栞が異常であるということくらいだ。
それも、俺など足下にも及ばないくらい。
せめてもの強がりで言い返した俺を下に、クスリと栞は笑う。
次いで、「燃焼反応って知ってる?」と、語りだした。
「例えば、水素と酸素の混合ガスにエネルギーを加えるとどうなるかってやつ。
もちろん、特待生の東クンには分かるよね? 正解は水が出来る、ですーーーそれで?
私に、どうしろって言うの?」
冷めた目つきで栞は語るーーー駄々をこねるなと。
それをやっていいのは、子どもだけだとーーー
「地球は自転する。併せて、公転もね。そこに、人の意志など介入しえない。
光は直進するし、時は流れるの。
……同様に、「あれ」と「あなたの恋人」が接触すれば、「然るべき事象」が起こる。
そして、それは誰にも止められない……根本が、間違ってるの。そもそもが、間違いなのよ。
あのモノは、「流れ」に逆らっている。そして、遵守されるべき理を無視した結果が、「現在」なの。
だから、どうしようもない。救いなど、ない。それこそ、あってはならない。それが、現実ーーー」
栞は、「そもそもが間違いだ」と、笑った。
今のこの状態は、理から外れているともーーーそれは、シロさんも言っていた言葉だった。
けれど、シロさんは……
「間違いだけじゃない。ぜったいに、間違いだけじゃ……!」
うめく俺にため息を漏らし、栞は立ち上がった。
うんっと、背伸びをすると、ポケットからキヨの携帯を取り出す。
そして、想いっきり俺の鳩尾に掘り投げやがった。
「うぐっ」と、堪らず俺は情けない声を挙げる。
「受け売りだけで世界の法則をねじ曲げられるなら、やってみれば良いわよ。
・・・・・・スカスカなのよ、あなたの言葉は。空っぽのリュックを背負ってる人間だけが、言えること。
そんなあなたが、よくも、燈ーーーー」
最後の、言の葉。
それを栞は飲み込むと、俺に背を向けて歩き出した。
最後に、「選びなさい」ーーーと、言い残して。
次回は、栞ちゃんの独白です。
彼女としても、色々と想うことがありーーーそういうのもひっくるめての、「無限想歌」です。