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無限想歌  作者: blue birds
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謳歌と怨火:孤立無縁の想いの渦3":寿小羽

 真実の、開示です。

 謳歌と怨火:孤立無縁の想いの渦3":寿小羽



 幼かった私は、世界の悪意を感じ取ることが出来ずに居た。

 もちろん、悪意というものが世界に存在することは、知識として知ってはいた。



 けれど、それはどうにかすると、遠い国のおとぎ話のようであり、事実ーーー私は最後まで、その存在に気づけずに居た。

 それくらいに私は愚かで、救いようのない存在だったのだ。




「桂藩ーーーもとい、寿家に智代ねぇさまが嫁がれると決まったのは、私がまだ6つのとき。

彼の世ではまだ、矮小な国が乱立し、そのことごとくが無惨にも散り咲く戦国の世。その中にあってなお、桂藩は十本の指に入る強国として存在し、そして、ねぇさまの柏木家もまた……同様に」




 「私」の語りに合わせて、彼女がまとう黒煙はユラユラと形を変えた。

 黒煙は情景を語り、「私」は史実を語る。



「柏木家と寿家の同盟は、戦の混乱を縮小へと導いた。それは、同盟国となった寿家と柏木家に対抗するため、他の国々が同様の手段で国力を高めに掛かったことに端を発っした……そして。

 そして、いつしか十もあった強国は3つにまとまり、その傘下に無数の小国がぶら下がるカタチとなった。

 それから数年、幾ばくかの平和な時がおとずれることになる」



 

 「私」の黒煙は3つの円を描き、三者を線で結んだ。

 三者を結ぶ線はグニグニと縮小伸長を繰り返す。


 それに合わせて、黒煙の描く三角形は様々にカタチを変えた。けれど、それが三角として破綻することは無い。ある線が短くなれば、別の線が長くなる。そして、長くなった線はいつしか再び短くなり、そして、それが延々と繰り返される。



 ーーー私の目の前の三角の図は、あの頃の国勢を表していた。ようするに、三すくみの関係だ。




「そう、平和は、幾ばくで終わった。父様の意図された通りであれば、十数年は保つはずだった平和がーーー数年で。

 他の国々が同国との盟約を厳守すれば、この三国の関係は定着するはずだった。下手に先手を打てば、後々不利になるのは明らか。

 三すくみの関係こそが、民をーーー引いては、人の命を守る為の、理想のカタチだった……はずなのに!」




 黒煙は、ねぇ様のカタチをとった。そして、そのねぇ様の前には、兄さまが。

 兄さまは、ねぇ様に背を預けて、どこかを見つめていらっしゃった。その視線の先に何があるのか、私は分からない。




 兄さまからは、ねぇ様が視えていない様子。

 だから、ねぇ様が嫌らしい笑みを浮かべ、短刀を懐より取り出したことにも、まるで気づかれない。




「ちがう……そんなの、おかしい!

ねぇ様はそんなこと、そんな、こと……!」




 叫ぶ私無視して、黒煙のねぇ様は短刀を兄さまの背に突き立てた。

 そして、グリグリと刃を根元まで押す込むと、弱った兄さまを今度は別の短刀で、再び突き刺した。


 なんどもなんども、黒煙のねぇ様は兄さまを突き刺す。狂った笑みを張り付けて、なんども、心の臓を……




「おなじことよ!

あの女は、柏木と金剛の間諜だった! あの女が、にいさまをころしたのよ!」





 びくびくと痙攣する兄さまを見下ろしながら、ねぇ様は壮絶な笑みを浮かべ、次の瞬間、何事かを宇宙に叫んだ。

 すると、ねぇ様を形作っていた門は霧散し、今度は城下を守る門を描き出した。



 門を挟んで、寿家の守人と柏木家の使者が何事か話をしているーーーしばらくして、門が、開かれた。

 門が開き、柏木家のものが二人、城下に足を踏み入れる。そして、守人と柏木のものが談笑とともに握手を交わそうとした瞬間。


 その、瞬間。


「……」




 一人の柏木の者が、針で守人の頸椎を破壊した。

 瞬時に崩れ落ちる、守人。そして、何事かを叫ぶ、もう一人の柏木の使者。

 

 むろん、その異変に気づいた他の守人がぞろぞろと集まてくる。

 次の瞬間、轟音と爆炎が守人達を襲った。



 柏木のものが、自爆したのだ。

 一人は、集まった守人とともに。もうひとりは、門の開閉を御する、門番とともに。


 こうして。





「……っつ!」




 こうして、桂藩の城下は開かれた。

 そして、数刻もせぬうちに、城下は柏木と金剛の賊で溢れかえることになる。



 当初、寿家の者は柏木家の裏切りを知らず、柏木の者を援軍だと見なしていた。

 情報の伝達が初期で断たれていた為に起った、人為の悲劇だった。



 当時、盟約を反故にする事例じたいは、少数ながら、存在した。

 しかし、それは下衆や外道の行いとされていたため、よもや、「あの智代姫」の家の者がそれを行うなどーーー桂家の者は誰一人として、発想することが出来ずに居たのだ。




「あの女は、女狐だった!民を騙し、家臣を騙し、父様を、母様を、婆を、そして、兄さまと私まで!

あの女は、裏切りの布石だったのよ!美、人徳、才、全てを兼ねそろえた、姫の中の姫!

寿の人間は、例外無くあの女を愛していた!」



 通常、多くの姫は城下に降りることはない。

 それはある意味で、下界に下りることを意味するからだ。故に、高貴な身柄の姫君程、その姿を民に見せることさえ、嫌う。




 しかし、ねぇ様はーーー智代姫は、違った。

 ねぇ様は、初めて寿家の門を叩かれたとき、自ら車を降り、門から城まで城下を自らの足で歩き通されたのだ。そして、民と言葉を交わされた。

 同時に、笑顔も、また。




「今思えば、あれは単なる演技だった!

全ては、我らと、民の目を曇らせるため!あの女は、我らが民を愛してなどいなかった!裏では、我らを嘲笑っていた!」



 「わたし」が操る黒煙はいつしか黒炎となり、黒煙の城下と民を飲んでは、炭に変えていった。

 そして、その炎の魔手はいつしか城まで届き。




「うらぎったうらぎったうらぎった!おなじひめとして、わたしはゆるさない!

たみのしんあいを!ちちとははのせきねんを!にいさまのこころを! それをふみにじった  あの おんなを、  おまえはあいしているというのか!?」





 吹き荒れる炎は、私へとなだれ込む。

 しかし、それが私を焼くことは無い。




「わ、わたしは……!」



 道理は、なかった。

 私の中になるねぇ様への気持ちが肯定される事象など、ありはしなかった。



「てをかせ! われとともに! われらと、ともに、そとへ!

ひげきは、  ここでおわらせる!」






 私が何をすべきかなど、一目瞭然だった。

 私が誰を守るべきかなど、明らかだった。けれど、私はーーーーーー!

 






 今回は、小羽ちゃんの「真実」です。

 んで、次が、栞ちゃんと東君の間での、「真実」。




 無数の「真実」が、錯綜します。

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