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無限想歌  作者: blue birds
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連想歌:乱立変数2:想い人4-恋敵:東&久遠




 「少しだけ先の未来1」に、つながりました。

 連想歌:乱立変数2:想い人4-恋敵:東&久遠






 淡く世界を照らす月夜の下、旅館側の河原に俺を喚びだした栞は、おもむろに航空券を差し出した。そして、言う。



「今すぐに、ここを発ちなさい」



 有無を言わせぬ、宣告ーーーと同時に、俺の意志など考慮には入れないという、彼女の明確な意志でもあった。


 ……それは、いつもの物静かな彼女からすれば、考えられないこと。


 俺は、たまらず問いただしたーーーどういうことなのかと。


 なぜ、「明日」皆と一緒に帰ってはいけないのかと。「明日」には、帰るのだ。

 修学旅行は、今日で終わった。だから、明日には、ここを発つーーーみんな、発つんだ。


 なのに、なぜ俺だけが、「今晩中に」ここを発たなければならないのか?




「あの娘は今、結界の中に居るわ。今なら、彼女を「置いて」……あなたは帰ることが出来る」




 ……あの娘?置いていく?


 それって、まさか、お前……どういうことだ?おまえ、あいつに何を?

 いや、それよりも、お前はいったい?



「もちろん、「あの娘」っていうのは、あなたの妹を名乗るモノのことよ。同級生の誰かではなく、ましてや、生者ですらない、あの、モノはーーー」





「ちょっとまてよ! おまえ、それって……」





 一瞬の、沈黙。

 水のせせらぎと月明かりだけが世界を照らす中、同級生は、告げる。



「あの占い師のたまり場で、わたしはあなたに「本物」を割り当てた……そこで、あらかたのことは知ったはず……だから、帰りなさい。

 五百年という月日に膨れ上がったモノは、ただの個人ーーーいえ、私ですら、もうどうにもならない」



 意味が、分からない。たしかに、俺はあのインチキ占い師の元で、世界の仕組みとか、あのバカガキのこととか、たしかに、ほんの少しだけれども、知ることが出来た。


 でも、なぜ栞が「バカガキ」のことを知っているのか。

 なぜ、あの「バカガキ」から逃げるようにこの土地をさらなければならないのか———なんてことは、露程も理解しちゃいない。



 なのに。


 栞は、全て話し終えたとでも言うように、無表情で俺の脇を通り過ぎ、旅館へ戻ろうとする。


 もちろん俺はそんな友人を押しとどめようとした。したのだけれど……



「彼女が……由香先輩が、大切なのでしょう?

 だったら、過去はここにおいて行きなさい。それが、私に出来る最後の助言。あとは、あなたが決めることよ」





 けれど、俺の目を見つめる栞の瞳は、澄み切っていた。いや、澄み切りすぎていた。

 彼女の目のどこを探しても、悪意は見当たらない。ただし、善意も感じられなかった。そこにあるのは、虚無のみ。ただただ自己を殺した、無機質な何かが、栞に瞳に移り込んでいる。


 俺は、目の前の女が怖かった。あまりにも異質な空気をまとう女が怖くて、彼女に伸ばした手を……降ろそうと、したときだった。




(にいさま! えへへ、にいさま!)

 



 声が、浮かんだ。

 それは大気を振るわせた声ではなく、自らの内から浮かんできた、誰かの声だった。


「最後の助言じゃねぇだろ。そんなんで、決められるかよ。

知ってること、全部話せ……は、話して下さい」


 

 俺が敬語に変わったのと、栞の肩に手をおいたのはほぼ同時だった。


 声に背中を押された俺は、彼女を逃がすまいと、その肩に手を伸ばしていたのだ。

 そして、話すまで逃がさないという意志を示すため、そのまま肩に力を込めようとしたがーーーものすごい勢いで睨まれた為、結局は肩に手を乗せるだけという、妙な具合に落ち着いた。





「……へぇ、少しは根性があるみたいだね、東君。

でも、それだけだね。結局は、どうにも出来ない。あなたは、無力なの」





 栞は一度目を閉じて、深呼吸した。

 息を吐き出しつつ、彼女は眉間をすこしこねくり回す。


 そして、再び目を開いた。たった、それだけ。




 ただそれだけのことで、彼女の……先ほどまで彼女が放出していた気配が、嘘のように霧散していた。

 というより、さきほどの女と今の栞が同一人物だってことも、信じられない。





「今さっき、東君ってば私の目を覗き込んだでしょ? めちゃくちゃ怖くなかった?」




 肩に置かれた俺の手を祓い落とし、栞は河へと向き直った。

 そして、俺に問いかける。「さっきの自分が、怖くなかったのか」と。



 それは今回のことに関係あるのかと思ったが、此処は黙って栞の問いに答えたーーー「少しだけな」と、短く。

 ……実際はめちゃくちゃ怖かったけど、さすがにそれを言うのは、ちょっとだ。

 これくらいの見栄は、許されて然るべきだろう。



 

 


「霊視って言うんだよね、さっきの力。

端的に言うと、物事の背景をひも解く力ーーーって言えば良いのかな?

この辺、あの魔術師からも聞いてるんじゃない? まぁ、彼女の認識も正確ではなかったけど、そんなに外れてもなかったし……今は、善しとしとこうかな?」




 霊視ーーーそれは、「今と過去」を見渡す力。

 この力に掛かれば、個人のプライバシーなんて、丸裸同然だという。



 どの時を生きようが、世界のどこに隠れようが、たったひとつの縁が捕まってしまえばーーーそこから、全てを芋ずる式に明かされてしまうとのこと。



「お前が、霊視能力者……? 証拠、なんかあるか? 例えば、俺しか知らないこととか、言えるわけ?」




 正直、友人から「自分は超能力者です」と告白されても、ピンと来ない。

 だから、なんとなしに言ってみただけなんだが。



「東君は由香先輩という彼女がありながら、タツヤでOTONAのDVD借りてる。

一番最近のはーーー9月4日の夜8:00に借りた、「ロシアンルーレット、危機一発!」ってやつかな。なんか、パッケージの裏は、一発どころじゃないっぽいけど……「いや、もういい」……そう? こんなの、霊視の証拠になるのかな?」



 俺は、確信した。

 こいつが霊視能力者であるかどうかは別にしても、性格が異様にネジ曲がっていることを。


 


 あの一品の存在を知るのは、ほんの一部だ。

 題名からも分かるように、非常にマニアックな部類に入るもので、需要が少ない。


 しかも、さらに俺がそれを借りた日時まで言い当てるのは、どうかんがえてもおかしい。

 店員が言いふらしてないか、今度確認する必要があるかもしれない。




「ごめん、ちょっとからかっただけ。

霊視能力の証拠ね……東君と由香先輩の初夜を除き視てみるのも良いけど、そこまですると、あれだしね?

 ……じゃあ、小羽ちゃんと、東君のデートを言い当てるって言うのは、どうかな?」




 栞は川原の石を拾い投げると、「えいっ!」の一声とともに、河に石を投げ入れた。

 ドポンと間の抜けた音を立て、石は水底へと沈んでいく。





 ……結論から言うと、俺とあいつの行動を、栞は完全に把握していた。

 マウントポジションの出会いから始まり、さっき俺たちがやらかした、喧嘩の内容まで。そして、俺たちが喧嘩するに至って理由まで、こと細かく……そして、それには峰岸が関わっていたことも。



 一瞬、峰岸の顔が脳裏を掠めた。

 あの、今にも泣き出しそうな……峰岸にはふさわしくない顔が、一瞬だけ。




「じゃあ、なに? ゲーゼンのあいつらって、お前の差し金だったわけ?」




 相も変わらず背を向けたままの栞に、問いかける。

 俺の声には少しばかり怒気がまじっていたが、それは仕方のないことだと思う。



 あの出来事は、本当に辛かった。できれば、無かったことにしたいくらいに。

 そしてそれが、人為的なもので。

 しかもそれが、友人の意図によるものなんて、あまりにも……



「理由は、あなたたちの間に不和をもたらすため。

不和って、縁切りにはもってこいなんだよね? だから、上手く行ったでしょう? うまく、あのモノをあなたから引き離し、結界に封じ込めることに成功した」



 振り返った栞は、笑顔だった。

 それを目の当たりにして、俺はカッとなりかけた。



 目の前の女が憎たらしくて、仕方なかった。

 どうかすれば、手を出したかったくらいだーーーけれど、堪えた。




「なんで、そんなことを?」




 短い問いかけだった。口を開くと怒りが漏れ出そうな気がして、それ以上の言葉を紡ぐことが出来なかったのだ。



「なんで、そんなことを?」




 栞は、俺と同じ問いかけを返してきたーーー分かってる。

 栞は、俺をバカにしてるわけじゃない……半分以上はおちょくってるけど、真意はそうじゃない。


 栞は、俺に確認したいのだろうーーーなぜ、そこまで「あいつ」にこだわるのか、と。




「わからねぇよ。わからねぇから、聞いてるんだよ!」




 俺の叫びは、答えになってはいなかった。

 俺は、分からなかったんだ。ほんとうに何も、分からなかった。



 だから、知りたいと思った。

 分からないからこそ、知りたいとーーーそう、願ったのだ。


次回は、小羽ちゃんに視点がとびます。


いよいよ、過去の「真実」が明かされるときです。

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