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無限想歌  作者: blue birds
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夢想歌:占いの館へ5:霊視の巫女

電車にかろうじて乗った。



Tips~ 霊視


 一般的に、アカシックレコード(世界の情報投影蓄積基盤)の閲覧を可能とする魔術は存在しないと言われている。

 もちろん、神祖の「帳簿改竄」の法などの例外は存在するが、それらが一般化される見込みは、現時点では皆無である。



 ときに、魔術ではないが超能力の一種として、霊視・千里眼と呼ばれる異能が世界には存在する。個体差はあるが、基本的にこれらの力はアカシックレコードを過去方向に読み取るものであり、これらの力は戦術能力とはまた一線を画す脅威を秘めている。

 また、姉妹世界αとβのアカシックレコードは両世界で一つであるため、霊視能力者は魂の記述漂白を超えて、対象の過去を読み取ることが出来る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夢想歌:占いの館へ5:霊視の巫女



 「ほら燈火も、もういいでしょう? はやく電車に乗って移動しないと、予約の時間に間に合わなくなるんじゃない?」



 はてさてどうしたものかーーーと思考する内心をひた隠し、私、久遠栞は親友であり同時に主でもある、級友の峰岸燈火に笑いかけた。



 「……栞が、そう言うのなら、もういい。よくないけど、もういい」


 そう言う燈火はいまだブスットしていて、ふてくされている子供みたいだ。こんな燈火を峰岸の人間が目撃しようものなら、明日にでも家族会議ならぬ一族会議が開かれることになるだろう。



 ーーー東の背景を知らない燈火にこういうのもなんなのだけれど、今回は本当に東に同情せざるを得ない。東は、悪くない。文字通り意味で彼に責はないのだkれど。


 

(でも、まあ、燈火が腹を立てる気持ちも分からないじゃないんだけどね……)



 わたしに「まぁまぁ」となだめられた燈火はブスットしたまま、一人きびすを返し、駅を目指し始めた。なんだかんだで、40分くらいは時間を無駄にしている私たちである。そしてその原因はもちろん東少年ではなく、私の親友にあるのだけれど。



 ある意味では、自分勝手な理由でみんなをこの場にとどめていたくせに、一人歩き出すとは何事か、なんて横暴なやつなんだと、少しだけれど、私も思わなくもない。

 ……思わなくもないけれど、身内びいきな性分なのか、これっぽっちも腹は立たない。少なくとも、私は。




「主の躾は側近の勤めじゃないの、久遠?」


 すれ違い様に、朝影が冷たい一言を放り投げて行く。

 その際に、きちんと私と目を合わせていくあたりが、朝影らしい。朝影のこういうところは評価に値すると、私も燈火も、一目置いている。

 といっても、家同士の問題を友人間にまで持ち込むのはどうかと、私は思う。


 だって、私はわたしで、燈火は燈火だ。燈火は確かに峰岸であるけれど、それと等しく燈火であり、私は久遠であると同時に、栞でもあるのだから。


 (朝霧が峰岸と久遠にどんな印象を抱いているかなんて、この際はどうでも良いんだけどね。

 さて、そっちは正常運転として、問題はこっち……)



 

 駅を目指す友人達の最後尾を歩く私の視野には、全員の姿が収められている。

 そんな私の目の前には、いつもの仲間達と、一つの『怨念』。

 念は、本来のカタチを忘れているらしく、可愛らしい少女の姿をまとっており、友人の東にべっとりと憑きそい、彼の隣を歩いていた。




(没後500年は経過しているみたいね。けれど、存在圧がそれほど感じられない……となると、今の彼女は生まれたばかりということか)




 うれしそうにニコニコと笑いかけるモノを観て、私は溜息を漏らす。本当に、この世界はどうしてこれほどまでに、救いがないのかと。





 一般的に、生者が住むこちら世界を私たちは「此の岸」と呼び、死者が赴く世界の方を「彼岸」と呼んでいる。

 もちろん、この呼び名というのは絶対ではなく、別次元から飛来した者たちは、こちらを姉妹世界α、あちらを姉妹世界βと呼んでいるようだった。


 

 まあ、どんな呼び名にせよ、私たちの世界は対となる二つの世界から成り立っている。そして、そんな二つの世界にあって、私たちの尊厳とも言うべき魂は、両世界間をくるくると環を描くように、廻り続けている。



 その円間の理に意味があるかどうかは、定かではない。それでも、この円環は有史以前から繰り返されていることであり、そう言った意味からは、意味なんてほとんどないのだろうと、私は思う。




ーーーさて、そんな意味の無い魂の循環にも、当然ながら例外とも言える事象が発生する場合がある。それが、目の前の少女のカタチをとった「念」である。

 これら「念」の原型は魂であり、それはこの世界に在るモノが等しく有する「生という権利」でもある。

 通常、魂は此の岸における旅路の途中で様々な傷を得て、癒しの世界である彼岸へと旅立つ。傷は、癒されなければならない。それは、どれだけ大切な傷であろうと、どれほど無価値な傷であろうと、それらの間に一切の差異は無く、漂白され、失われるべきなのである。



 ……そうしなければ、魂が保たないのだ。

 人は、肉体的な記憶や傷に関しては、独力で優先順位の取捨選択を行い、それらを整理整頓することができる。ようは、忘却が可能なのであるーーー物質的には。

 

 けれど、どういうわけか、魂の忘却を独力で行うことは不可能なようだ。もし、魂に刻まれた傷が永遠に引き継がれることがあれば、いつしかそれは魂そのものを食い破り、いずれ「自身という尊厳」を地へとたたき落とすことになる……そのような事態を回避するため、死したモノは魂を清めるために、彼岸へと向かうーーーというのが、久遠の家の考え方であり、私はそう教わり、育てられた。



 また、魂が輪廻転生により新たな肉体を得た場合、転生前の魂の傷が肉体引き継がれてしまえば、それはそれだけで決定的な障害となる。

 体と、心の剥離ーーーそれが、個としての決定的な破綻を意味するのは、創造するのも容易い。



(そう、癒されなければ。魂の傷はいつまでも抱きかかえていて良いものではないし、それに、それなのにーーー)





 魂の傷を癒せず、世界を漂い続けるモノが、目の前の少女の原型である「念」。これは本来、人の姿を取ること無く、一種の力場として存在しているのが常である。にもかかわらず、その「念」は明らかに、人としてのカタチを取り戻していた。


 ……正確には、目の前に少女の前型は、「念」だったということが観えるだけなのだけれど、それは裏返せば、その「念」の原型である魂の復元が、目の前の少女という現象であるということを暗に示している。



(アレと東の間に、いったいどんな縁が?

 いったい何が、500年の間に膿んだ傷を癒した? それとも、一時的に東が「念」を押さえ込んでいるだけ?)



 頭をぐるぐる回る思考に、ゴールは無い。もし、白黒付けたければ、もっとアレの背景を観なければならないのだけれど。





(これ以上の干渉は、まだ控えた方が良いわね。今は良くても、いつ「念」に戻るか分からない今、深入りはリスクが高すぎる)


 

 色々考えた結果、私はなるようにしかならないという結論に、至った。

 目の前の少女がなんにせよ、東がどうなるにせよ、燈火だけは守る。

 



 それさえできれば、私は満足なんだしーーーと。

 そう考えてーーーー






『プルルルルルルーーーー、任海方面行きの列車がでます。お乗りの際は……』


 気がつけば、わたしは切符を買って電車に乗り込んでいた。

 時間にすれば私が思考に浸っていた時間は十数分そこらなのだろうけれど、ずいぶんと考え込んでいたような気もする。




 ゆっくりと、私は燈火を探した。すると当たり前と言っては当たり前だけれど、燈火はすぐに見つかり、さきほどのブスくれ顔が目に飛び込んでくる。




(まあ、燈火は大丈夫かな? たとえ年代物の念でも、太陽を前にすれば焼き尽くされるのが関の山だし……)



 私は頼もしい相方をクスリと笑い、目の前の東とモノに視線を移す。


 さて、私はどうするべきかーーーなんて、さっき区切りがついたはずの問いを再び自身に問いかけながら、わたしは当初の目的である「占い荘」へと、着実にその身を揺らしながら、近づいて行った。

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