連想歌:乱立変数2:想い人3-恋敵:東&久遠
さて、臨界点の――― 一歩手前のお話です。
Tips-絶望と空想
世界には、本質的に「現在」しかない。過去も未来も、概念上の存在でしかないのだ。
そして、その「時という概念」を空想できる存在を、魔学では「霊長」と定義する。
故に、霊長の持つ大きな特徴として「後悔」や「絶望」が挙げられる。翻って、「希望」なども然りである。
これらは、「現在のみ」を生きるものには存在し得ない概念だ。
また、時という概念は単純に三つに分割されるわけでもない。三者の関係性を含んだ時間の概念も存在するが、それは、「その先」へといたる手段でもある。
つまり、私のこの物語に対する結論としては---
※
連想歌:乱立変数2:想い人3-恋敵:東&久遠
マッサージ機で暴睡中だったキヨは、俺が峰岸に携帯をぶん捕られる瞬間を見てはいなかった・・・・・・はず。
そのくせ、俺が峰岸のくだりを話すと、「お前が悪い」と断言した。そして、「とりあえず謝って来い」と・・・・・・そう言い残して、やつは頭をかきながらまた、マッサージチェアに戻ってしまった。
釈然としないものが胸をこみ上げてきたが、どうしようもない。
仕方がないので、どこかに消えた峰岸を探すことにした。
それと同時に、「あいつ」も。
(やっとあいつが静かになったと思ったら、これだもんなぁ・・・・・・)
俺と由香が見た、銀髪の少女の夢。その二つを複合させると、夢の少女が告げる「災厄」とは、あいつだと想定できる。ただ、どう考えたところで、あいつが災厄なわけがない。
あいつが、『由香を傷つけるはずがない』。
(にしても、峰岸はどこいったんだ?それに、あいつも。
あいつ、今日の今まで俺に憑きまくってたくせに、いざ必要となったら、音沙汰なしってどういうことだ?まだ寝てるのか?)
もし、寝ているとしたら、あいつは今峰岸たちの部屋にいることになる。
・・・・・・さすがに、いろいろハードル高い気がする。なので、俺は黙って峰岸を探すことにした。
ウロウロウロウロと宿を練り歩く、俺。
そのたびに、ヒソヒソと噂話が耳に入る。
どうやら、「俺と峰岸の浮気説」は定説であるかのように同級生に浸透しているようだ。
なんとなく、いたたまれない。
居ずらいというかなんというか、そう、肩身が狭い・・・・・・
自然と、足がロビーに向かっていた。螺旋階段を下りると、その延長線上に宿の玄関が見える。
俺は、「峰岸が外に逃亡した可能性」を検討するためにも、一旦宿を出る必要があると自分に言い聞かせ、人気のない場所を目指していた。
すこし頭を冷やす必要があったというのも、正直なところ。
昨日今日と、あまりにも多くのことが我が身に起きすぎていた。
妹を名乗る幽霊。
占い師のフリをした異界の魔術師
災厄を予言する夢。
想像妊娠やらかす恋人。
俺をヒーロー呼ばわりする友人。
そして、俺に理不尽な怒りをぶつける・・・・・・女友達。
M4の連中なんかも入れると、色々きりがない。全部が全部俺のあずかり知り得ないところで何かが起こり、結果それに振り回されている。
(なんなんだろうな、いったい・・・・・・)
何一つはっきりしない大きな流れの中で俺は、自分が流されているのを感じていた。
それでは、まずいってことは分かる。けれど、それが分かったからといって、何かが出来るわけでもない。
「よう、栞。どうした?」
玄関先で、栞とすれ違った。なぜか栞は、上下ジャージというアグレッシブな格好。
ほんとうに、最近の友人たちの行動は意味が分からない。たしか栞は、熱出して今日一日休んでたはずじゃなかったか?
「あ、東君だ。
ちょうど、探してたとこなの。ちょっと面かして?」
天使の微笑みを浮かべる、栞お嬢様。しかし残念ながら、彼女の瞳からは虹彩が消えている。しかも、「面かせ」と。
「いや、俺今忙しくて、峰岸探さなきゃならんけれど、やっぱ、付いていきます・・・・・・はい」
どうにかこの場を逃げ出そうとした俺の退路を断つように、栞はキヨの携帯をぶらぶらさせていた。今はもう、携帯が鳴り出す様子もない。
そんな俺の心の機微を感じ取ったのか、栞様は「恋人さんはしばらく待ってくれるって、よかったね?」と忠告してくださった。
・・・・・・退路は、なかった。俺は、きびすを返す栞の後をノロノロと追い、宿を出た。
・・・・・・これ以上の面倒ごとは勘弁してほしいと願いながら。
次回から、過去と現在が錯綜を始めます。
東君は異能者の栞を介して。
そして、小羽ちゃんは、分かれてしまった自分を鏡にして・・・・・・