連想歌:乱立変数2:想い人:東&伊吹
さて、カップルの絡みです……エロはないです。
Tips~
町の灯りが人の営みなら、命の灯りこそがーーー世界の営み。
その輝きは端から見れば美しく想えるけれど、実際は泥沼のそれと同じ。
けれど、それでも町に灯はともる。それと同じように、命の灯も。
……あるとき、とある少女と少年が、恋に落ちた。
彼らは灯がともる町で出会い、その命の灯を輝かせーーーそして、契りを交わした。
その輝きは、恋と呼ばれるものだった。
まだ汚れを知らず、ただただ幸福を胸に抱きかかえ、微笑むことのできる、そんな、輝き。
彼らの灯は、今も昔も変わらない。それと同じように、人の町は延々に繰り返される夜と朝を切り抜けて、今も輝き続けている。
しかし、それだけでは、彼らが「その先」には至ることはない。
自己と他者の境界が揺らぎ、被膜で覆われた世界がさらけ出される、その時こそーーーー本当の命の輝きと、彼らは向かい合うことになるのだから。
※
「やっほー、元気してる? ちなみに、私は元気だよ?」
受話器越しに聞こえる声に、さらに頭痛が増す。
さきほどの瀬戸のこともあり、心のモヤモヤ感はもはや、俺の許容範囲を超えていた。
「俺は元気だけど、お腹の子はどんな感じだ? 元気に、腹蹴ってる?」
ひくひく動く頬をつらせながら、やっとこさ俺は声を発した。
そんな俺を見て、キヨは半笑い、あきれ顔半分で、俺の前を見つめていた。
しかしすぐに、「向こうで、待ってる」と言い残し、席を外してくれた。俺が居る場所から少し離れた、マッサージコーナーに腰を下ろしている。そしてリモコンを手に取ると、ピコピコとやりだした。
「あれ、あんがい気持ちいい?」と首を傾げつつ、庶民の贅沢を味わっている。
「あれ、陰性だったって聞いてない? まさか、籍を入れるくらいのつもりで今この電話に……「わきゃねぇよ、ばか」……だよねぇ」
「わきゃねぇよ、ばか」なんて、日頃口にしたら酷い目に遭いそうだが、さすがに今回ばかりは由香も後ろ暗いところがあるためか、スルーしてくれた。普通なら、小さい子(園の小3以下)が真似したらどうするのと称して、シバかれる。俺からしてみれば、それこそ小さい子が真似したらどうすんだという鉄拳制裁とともに……
「……なにか用? キヨに電話取り次いでもらってまでの用なんだろうな?」
この俺の言葉に、由香はしばしの無言。ただ、向こうで腹に力を入れる音が聞こえたかと思うと、「なぜ、利也の電話はつながらないの?」と、逆に俺に問いだした……意味分からん。
「壊れたんだよ、携帯。べつに、それはどうでも良いじゃん。
さぁ、次はちゃんと答えろよ……何か、用なん?」
携帯がキヨに叩き折られた理由は、伏せといた。あんときキヨは「おまえのため」とか行ってた理由が、今なら分かる。もしもあの状況で由香の妊娠疑惑を聞かされていたら、絶対俺はテンパってたと思う。そしたら、絶対に怒りだすやつが一人、あの場には居たわけで。
そうなれば、あの一日は台無しになっていたはずな訳で。
「あ、そうなんだ。携帯壊れたんだね………
ン〜用事って用事はないんだけど、声が聞きたくなって……とか、ダメ?
……ダメだよね、はい、ごめんなさい」
俺の無言のプレッシャーを感じ取ったのか、おちゃらけた空気を由香は引っ込めた。
そして、「はぁ〜」とため息を吐くと、「ほんと、ごめん」と、再度。
「いや、俺はもういいけどさ……皆には、迷惑かけたからさ。
……まぁ、今回のことで謝るってまわるのもおかしな話かもしれないけどさ、そこんとこ、そっちもちゃんとしてくれよ? おれも、俺で出来る限りはするから」
外に視線を移すと、そこは闇一色だった。
星すら顔をのぞかせない、深淵の世界ーーーとはいかなくても、どんよりとした空気は、気持ちのいいものではない。
「分かってるって。そこは、ちゃんとするよ。それは、ちゃんとする。
でも、それも大事なことだけれど、それと同じくらい大事なこともあるんじゃない、利也?」
また、問いかけだった。さっきから、このパターンが多い気がする。
「いや、別に大事なこととかねぇけど……なに、浮気とか?」
「してんの(怒)?」
「してません(汗)」
一気に涼しくなって、キモまで冷えた。ギンギンに冷えたアイスピックを、喉元に突きつけられてる妄想が素で出るくらいには、ビビった。
「……ほんとに、ない? わたしに、言いたいこと……ほんとに、ないの?」
手のひらを返したように、不安げな様子を除かせる声。
俺はそれを前にして、またしても頭痛が響きだした。
「だから、今回のことはもういいって……帰ったらちゃんと、聞く。けど、こういう話、電話じゃ無理だろ?しかも、俺の場合、キヨの携帯使ってるし……」
無駄に落ち着かないんだよな、こういうのって。
違和感があるというかなんというか、とにかく、無理。
それに、速く終わらせたい一心てのも、ある。キヨを、待たせてるわけだし。だから、「もう用無いんなら、切るぞ」と言って、会話を終わらせようとしたときだった。
「……寿小羽って名前に、聞き覚え……ない?」
相変らず、不安げな声。それは受話器の向こうから放たれたもので、他の誰でもない、伊吹由香のものだ。
由香とつき合いだしたのは最近だけど、由香と俺は園で一緒に育ってきたのだから、そう言った意味では、十年以上の時を一緒に過ごした仲だ。
だから、聞き間違え様がない。この受話器の向こうには、由香が居る。由香が居て、そして、「あいつ」の名を……
次回は、
連想歌:乱立変数2:想い人2:東&伊吹です。