表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限想歌  作者: blue birds
6/145

夢想歌:占いの館へ4:500年前は殿様だった。



 目を、潰された。

 待ち合わせに5分そこら遅れただけなのに、20分強に渡る説教の末に、目を潰された……




 俺がいったい何をした?

 なんで、目を潰されなきゃならない?目には目を、歯には歯をの理屈か?



 ……いや、いくら何でもそれはないだろう。



「やっぱ、疫病神かなんかだよ、あいつ〜」




 

 止めどなく溢れる涙を拭いながら、意味のないぼやきをしてしまう。

 でも、それでも、そんな意味のないぼやきがこぼれるくらいに、昨日から散々な目に俺は会っている。






 ことの始まりは、昨晩の「金縛りから始まる心霊体験」だった。

 普通なら、それで十分参るようなことだと思うけれど、そんな不幸の連鎖は終わることなく、今朝も早朝から「幽霊を無視するノーリアクションゲーム」に強制参加させられた上……さらには、よく分からない理由で幽霊に旅館を追い回せされたあげくに、禁的攻撃。

 そして、それら全ての苦行を乗り越えた俺を待ってましたとばかりに、鬼姫の説教から繋がる目潰しが襲った・・・・・・ 






(……あれ? また、涙があふれてくるよ?)








 目の痛みが引いても溢れる涙に際限はない。

 そして、際限がないのは、何も俺の涙だけでなくーーーー




『兄さまに、よくも、この、無礼者ーーー!!!!』








 俺にしか聞こえない声でわめき散らすのは、俺をここまで追い込んだ張本人であるはずの、幼女の霊。こいつは、峰岸の俺に対する行為に大変ご立腹らしく、ものすごい形相でわめき散らしながら、目の前の峰岸に食って掛かっていた。



 しかし、峰岸は気づかない。

 なにやら、しかめっ面で携帯の画面を見つめながら『はい、峰岸燈火です』と名乗り、受話器の向こうの誰かと話し始めたーーー放置プレイかよ、このドSが……と思ったことは、もちろん、口には出さない。 





 放置された俺は、こんなことは峰岸相手ならいつものことなので、耐性がある。けれど、幼女はそうではないらしい。

 座った目で、「口で言っても分からないようならーーー」と、その可愛らしい顔にお似合いな、これまた可愛らしいグーを作って、峰岸の足やら腰やらを叩こうとしているーーーのだが、如何せんすり抜ける。



 まあ、そうだろう。旅館であれだけ通行人を通り抜けたやつが、今さら『他人様』に触れられはずもない。

 そんな、なんとなく予想できた展開に、俺は思わず笑ってしまう。

 

 


 すると。





『兄さま、何を泣きながら笑ってらっしゃるのですか!!!

 寿家の、ひいては桂藩城主としての責務がその肩にはあるというのに!!!』ーーーと。





 ……幼女の霊がまた、訳の分からないことを言いだした。

 もう、勘弁してください。ほんとに、勘弁してください。俺は、城主とかなんとか言う者じゃありません。普通の、男子高校生です。女が好きで、友人とバカやって騒ぐのが大好きな、一階の男子高校生なのですーーーという旨の念を、幼女にアイコンタクトで伝える。




『にいさま……この女にハッキリと言ってやってください!この方が瀬戸の鬼姫だろうがなんだろうが、兄さまは十六万國を治める桂藩の城主なのです!!!何も、この女に遠慮することなどありません!!!』





 アイコンタクトでは、何も伝わってないって言うことが、幼女の叫びから伝わって来た。

 これは、どうしよう。なんかこのままだと、『にいさま、なんとかいってください、にいさま〜』とか訳の分からんことをまくしたてながら、肩をつかんでガックンガックン揺さぶられそうなんだが。



 それは、ぜったいに回避しなければならない。いくらなんでも、一人でガックンガックンしだしたら、明日の修学旅行が潰れるだけでなく、俺のメンツは地のそこまで落ちてしまう。




……俺はぼそりと、『城主違う、俺高校生』ーーーと、つぶやいた。

言葉足らずだが、どうにかこれで伝わってほしい。というか、伝わってくれないと困る。




 

「うん? 東、なんか言ったか? おまえ、大丈夫か?」

 俺のつぶやきは、友人達にとっては全く持って意味不明だったのだろう。

 みんな(男性陣のみ)、若干引き気味に俺の肩を叩きつつ、「大丈夫、大丈夫、もう大丈夫だから、多分……」と、優しい声をかけてくれる。

 




 まあ、いい。もう、いい。

 これで、十分だろう? もう、俺は十分苦しんだ。 さあ、あとはお前が納得してくれるだけだ。

 納得して、当初の約束通り大人しくしてくれれば、何の問題もないんだ。 さあ、幼女。


 どうか、俺の気持ちを汲み取ってくレーーーーと。





 そう、止まらない涙を流しながら、やつの目を覗き込んだ。

 すると、やつは「ふっ」と本当に優しそうな目を細め、俺に近づいてくる。



 そして、着物を綺麗に折りかがみ込んで、這いつくばる俺と同じ目線まで「分かっています、おにいさま……」と、返してくれた。





 俺は、思った。これで、大丈夫だと。

 ああ、これで大丈夫だと、心底思った。


 すくなくとも、この場はこれで収集がつくと、本気で思ったのに。




 目の前のくそガキは、慈愛のこもった瞳で、「全てを理解し私は共感しています」というような眼差しを向け、こう、全てを台無しにする一言を付け加えた。




 それは。






「お兄様。

 もう覚えておいでないかもしれませんが、にいさまは、500年前はーーー、桂藩の城主様だったのです。今は一階の男子高校生であっても、500年前は、一国の主であらせられたのです。


 ですから、胸を張ってください、にいさま。さあ、そして、あの女にーーー」






 俺は。



 俺は、「俺は500年前は殿様だったんだ!!! 全員、俺を敬い尊敬しろ! そして、峰岸、お前はこれまでの数々の無礼を地に伏せて謝り倒すと良い!」と。




 そんな、男として最も言いたくない「あの頃の俺は〜」のセリフに電波をねじ込んだ虚言を吐かせられるくらないなら。


 いっそのこと、たたり殺してくれて構わないと、今度こそ、心から本気の涙を流して、笑った。

 次は、電車にのって移動します。だぶん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ