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無限想歌  作者: blue birds
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謳歌と怨火:歪曲する因果5:寿小羽&久遠栞&峰岸燈火

 栞ちゃん的発想の回です。過去は過去、現在は現在。


 二つは繋がっているだけの、ただ、それだけの存在ーーーなんて、寂しいですよね?



-gold gate:因果の断罪-



 過去と現在は繋がっているけれど、言ってみれば、それだけのこと。


 だから、置いて行く。現在に害をなす過去(存在)など、必要ないのだから。






謳歌と怨火:歪曲する因果5:寿小羽&久遠栞&峰岸燈火



 

 東君が出て行った玄関の戸をしっかり閉めると、私こと久遠栞は、居間に戻った。そこでは、混乱状態の親友が所在無さげに立ち尽くしている。

 ……そうなる気持ちも、分からないでもない。




「色々と予定外のことが起こるよね、今回の旅行は。東君が取り付かれたことに始まり、翁の契約改ざん。

 そして、今のこの状況……なんかここまで来ると、大いなる意志の介入なんてモノがあるんじゃないかって、勘ぐっちゃう」



 居間に置かれたちゃぶ台に、わたしは鍵を放り投げた。ガンって音を立てて、鍵がテーブルの上を滑って行く。

 鍵のナンバーは、-001。ここの宿の、マスターキーだ。これさえあれば、この宿のどの部屋にだって、進入できる。



 なんで私がそんなモノを持っているかと言えば、単純な話。そう、進入するため。

 何処にかって言えば、東君たちの部屋に。

 何のためかって言えば。




「でも、目的は果たせそうだよ、燈火。アレは今、此処に在る」




 私の言葉を聞いて、びくりとする燈火。彼女は、不安そうな目でキョロキョロあたりを見渡している。

 でも、見れるわけが無いーーーなんてこと、燈火だって分かっているんだろうけれど、それでも、そうせずにはいられなかったんだろう。


 私は燈火に近づくと、そっと彼女を抱き寄せた。そして、おでことおでこをくっつける。私のいきなりの所行にさすがの燈火も身を千々込ませていたけれど、すぐに私の意図を理解したらしい。

 そっと目をとじ、私に全体中を預けてくれた。




 そして。




 そうして、しばらく私達はおでこをくっつけて、お互いを抱きしめ合った。こんなとこ、M4の連中に見られたら、今年の校内同人誌即売会では、私と燈火の百合本がでまわること間違い無しだ。



 ……わたしは、そうなったらそうなったで別に困らないけれど、燈火は困るだろう。そして、M4の4馬鹿タチも、困るはず。だって、学園設立以来の、刃傷沙汰が起きることになるのだから。






「燈火、こっち」





 さて、準備も整ったところで、燈火とともに玄関へ。

 そして、スリッパが散乱している、玄関を指差す。



 燈火が、息を飲むのが分かった。





「向こうで仕掛けた術が切れるまで、もうしばらく時間がある。

だから、大丈夫よ。私の許可が無い限り、これが目を覚ますことはないから」





 親友を落ち着けるように、私はさとした。さっきのおでこごっちんにより、私達は今、共感覚の状態にある。

 だからこそ、燈火にも見えているのだろうーーーひとつの、「念」が。





「近くで見れば見る程、年相応の子どもにしか見えない……でも、違うんだよね?」





 私達の目の前には、すやすやと眠る、一つの「怨念」。

 その無邪気な寝顔を前にして、敵意をたもつというのは、なかなかに難しい。



 寝顔だけなら、本当に抱きしめたくなるくらいにかわいらしい、1人の女の子なのだ。





「うん、正真正銘の化け物よ。

だから、終わらせないと。この平穏な現在を、守るためにね」




 だからーーーと、私は続けた。

 だから、「彼を引き止めるために、燈火もがんばって」と。






「大事なのは、現在だよ、燈火。過去は、過去でしかないーーー二つは繋がっているけれど、言ってみれば、それだけ。

東君は優しく人で、その裏返しで甘いひとだから、こんな「過去」を引きずろうとしている。でも、それは間違いなんだよ。「これ」は、彼の妹じゃない。それと同じように、東君と昔の彼だって、繋がっているだけの、まったくの別人。

 それを綯い交ぜにして前に進めば、悲劇は必ず起きるーーーだから、彼の目を覚まして。大事なのは過去ではなく、現在なんだよって、教えてあげて」





 そのために、彼を呼び戻したんでしょうーーーとは、続けなかった。それは、燈火も分かっていることなのだから。





「わかってるわよ、栞。

ちゃんと、わかってる。でも……」





 それでも、どうにかならないのかーーーと続けたかったのだろうけれど、燈火はその言葉を飲み込んだ。

 そして、思いっきり自分で自分の頬をはると、「よし!」と気合いを入れる。



 その目には、太陽の輝きがともされていた。







「栞に汚い仕事を押し付ける私がぐちぐち言うのはお門違いよね。私の仕事なんて、あいつとしゃべってるだけで良いんだからね!

さて、やりますか!私達の、現在のために!」





 燈火は空元気でそう言うと、スリッパに足を滑り込ませ、「念」をよけて通り、玄関の戸を開いた。そして、「行ってきます!」と、一言。

 一言そう言い残し、彼女の戦場へと向かって行った。





「……さて、じゃあ、私も行きますか。

わたしの、戦場に……これを、連れてね。」

 私は繋がりというテーマを、色んな形で表現したくて、ここに居ます。


 無限想歌の主題は、「名をよぶこと」です。


 過去と現在との繋がりがメインテーマになるのは、また、別の話ということで。



 次回は、謳歌と怨火:歪曲する因果6:寿小羽&久遠栞です。


 

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