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無限想歌  作者: blue birds
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歪曲する因果3:迷走する想い1:東利也&峰岸燈火

 一度やってみたかったネタです。もちろん事態(東くんが抱える)は、深刻なままなんです。けれど、それは他の人たちにはあまり関係ないことということで。

(その他の人たちが悪いのではなく、東君にも責があるんですけれどね。)

 例えばの話なんだけれど。

 そう例えば、漫画なんかじゃ主人公が偶発的にヒロインの風呂や着替え現場に出くわしたとしても、「ツンデレ」的展開で事は収まる。


 ……いや、ツンデレの使い方は違うかもしらんが、それはどうでもいい。というより、そもそも何がどうしたら幼なじみやクラスメイト女子の「そういったシーン」に出くわすことがあろうか(いや、ない)。そう、ないはず。ありえない。あってはならない。なのに!!!




「ねぇ、あんた。右目と左目、どっちから先にくり抜かれたい?」




 たぶん、「何が何でも両の目をくり抜いてやるぞ、コラ」って言っているのであろう峰岸は、おれの左斜め前方、やく1メートルの位置で震えている。バスタオル姿で。そして、そんな格好で震えている理由はもちろん寒いからーーーではないだろう。

 湯気を立たせながら峰岸は、冷めた人殺しの目で、玄関先で靴を脱ぎかけたまま固まる俺を見すえ、指をぽきぽきと鳴らしていた。ちなみにこんな状況でなんだけれど、肩甲骨が、俺的にいい感じだ。





「……はは」





 あまりにもあまりすぎて、頭がついていけていない。だってここは、俺たちの部屋のはず。俺は確かに、「キヨ達から受け取った俺たちの班部屋」の鍵を使って、この部屋に入ったんだ。だったら、俺が今居るこの場所は、その部屋の玄関のはず。


 ……もちろん、俺たちはお年頃ということもあって、男女は別々(他にも家柄的理由があるけど)。だから、「俺たちの部屋」で峰岸がシャワーあびてるなんてこと……





「盛りのついた駄馬が……

人が情けで呼びもどしてやったのに、礼を夜這いで返そうとするとはね……」





 ゆらりと幽鬼のように音もなく動いた峰岸は、すすっと居間に身を隠した。風呂場と居間と玄関は廊下一枚で隣接しており、それらはそれぞれ曇り硝子と障子で玄関からは見えない。


 風呂場は、曇り硝子どうこうの前に、電気がついておらず、その先はまったく見えない。ただ、さすがにもう誰も入っていないと思う。



 そして、たった今峰岸が身を隠したであろう居間からは、ガソゴソと何かを探す音と、かすかな衣擦れの音が聞こえてきたーーーそれはきっと、峰岸が服を着ている音がだと信じたい。

 けれど、それにしては衣擦れの音は異様に短かった。服を着ているにしては、「シュ!」くらいだった。そんなはや芸みたいに着れるもん、たぶん、この世にはないと思う。




「……」




 無言で立ち尽くす俺ーーーだったが、そんなことしてる場合じゃないってことに気づく。

 ゆっくりと、半歩足を引き、後ろ手でドアノブを掴んだ瞬間だった。




「……(怒)」





 悪鬼が、居た。いや、戻ってきたという方が正しいだろうかーーー木刀掲げて。

 女性用なのか、はたまた子供用なのか、どちらにしても小柄な峰岸が持つと、様になっている。

 彼女は、右手の木刀、左手の布切れ(たぶん鞘的布?)を握りしめて、こちらに近づいてきていた。



 ちょっと見ない間に、武器は豪勢になっている。ただ、防具は依然としてバスタオル一枚。




「なにか、いうことないの?」





 震える声で、峰岸が問うた。イントネーション的には、怒りのボルテージと同調してか、最後が上がり気味。で、その声に呼応するように、木刀もぶるぶると振り上げられた。



 もう、逃げ場はない。おれは、たった一言で、この場を乗り切らなければならないらしいz……ははは。




「ははは……は!」




 ちなみにさいしょの「ははは」は心の声がそのまま声帯を震えさせた結果にじみ出た心の声で、最後の「は!」は、「やっちまったよ、俺のバカ!」の、「は!」。





 もちろん俺は、やっちまったと悟ったーーーだからこそ、すぐさま行動に移す。

 ドアノブをおもいっきり、俺はひねった。もう、それしか生き残る術はなかったから。でも、おれがドアの隙間から滑り出る前に、振り下ろされた木刀が俺の脳天を強打。そして俺はそのまま、深い闇の中に意識を沈めることになった。


 








 模範的高校生である赤石美奈はそのとき、「2005号」室の前をたまたま通りかかっただけであった。彼女はあくまでも模範的高校生という設定であるため、いわゆるモブキャラなのである。だから、物語の構造上、彼女が2005号室の前を通った理由など、設定されていない……とはいいつつ、物語のつごうがどうであるかなどとは、それこそ、そんなことは彼女に関係のないことである。



 彼女はただ単に、2005号室の横にある自販機でジュースを買ったあと、その部屋の前を横切って、自分の部屋に戻ろうとしていただけなのである。しかし。




「ひ!」




 とつぜん、通り過ぎかけた2005号室のドアが開いたかと思うと、そこから、「現在の学園で知らぬものはいない男子A君」が、白目を剥いて倒れ込んできたのだ。

 彼女はもちろん模範的学生であったので、彼が床に叩き付けられないように、その身を支えたーーーゆっくりと、視界でドアが開いてゆく。



「ひぃぃぃいい!!!」




 そして、再度彼女は悲鳴を上げることになった。なぜならそのドアからは、ほんとに意味不明なのであるが、バスタオル一枚きりを身にまとった学園の主峰岸燈火が、木刀片手に、血走った目で、ぬるりと登場したためである。



 峰岸は、『あんたは、なにも聞いてないし、見ていない。……そのバカを、こちらに渡して』

 

 この峰岸に対し、赤石は『私は何も聞いていませんし、何も見ていません……この人を、お渡しします』と、模範生としては100点の切り返しを行った。ほんとうは、「これでも平均よ!」という魂の叫びと(おそらく身長の平均では絶対にないし、あっちの方にしても、四捨五入してる)、涙で滲んだ真っ赤な瞳を見ているのだが、それは、それ。




「ありがとう、もう、いって」





 こう言い残し、瀬戸の鬼姫峰岸は、ずるずると少年Aを引きずりながら、ドアの向こうへと消えた。

 


 パタンとその場に崩れる赤石。彼女は、彼女の帰りが遅いことを心配した友人が探しにきてくれるまで、そこで惚けて座り込むことになるのだが……そして、これはまったくの余談ではあるが、惚けて座り込んでいた彼女の横には2005号室と割り振られた部屋の鍵が、落っこちていたという。





 



 ※




歪曲する因果3:迷走する想い2:朝霧&瀬戸&キヨ



 東君がぶっ飛ばされるに至った経緯を、語ります。

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