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無限想歌  作者: blue birds
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謳歌:相克する因果5:崩壊の序曲:東利也&寿小羽

 不和の、誕生です。

謳歌:相克する因果5:崩壊の序曲:東利也&寿小羽




『にいさま、映画というものは……本当に、いいものですね!』



 名言を吐く幼女の背後に、良い笑顔のご老体を見た気がしたが、とりあえずスルーした。

 暗がりに居たためか、日の光が目に痛い。




「楽しかったんなら、なによりだよ……この年で、アンパンマン見ることになるとは思わなかったけどな」





 乾いた笑みを浮かべる俺。

 そんな俺の横を通り過ぎる家族連れのーーー母親の目が、痛い。日の光以上に、イタすぎるーーーのは、俺か。





「ねぇ、にいさま、次はあそこに行きたいです!」





 はしゃぐ幼女を前に、俺は嘆息した。けれど、なんとなしに悪い気はしない。

 やっぱり、小さい子どもってのは笑ってしかるべきだと、そう、教わって来たからな。












 公園で幼女と戯れたはいいものの、それも長くは続かなかった。

 



 ……とは言っても、かれこれ4時間くらいは公園でぶらぶらしていたと思う。

 その間、2人で適当にボートで騒げたし、鬼ごっこから始まる喧嘩もした。

 一緒に昼飯も食べることもできた上に(事実上俺だけ)、身の上話もした。





(にしても、昔の生活ってのは、現代よりも良さそうだったな。

こいつの、話を信じらとすればだけれども)





 横をテコテコ歩く幼女を見ながら、公園での会話を思い出す。こいつの話からすると、昔の人間ってのは、必要がなければ働かなかったらしい。そして、その必要性というのはあくまでも衣食住を満たせれば良いもので、つまるところ、今よりも遥かに時間的豊かさを満喫しながら、人生を謳歌していたようだ。


 話に出てくる農家の生活様式や武士の心が構えなんかは学校で習ったこととひとしきり類似するもので、現代の考古学の進歩に少しだけ驚かされたりもした。




 そして。




 そして、その話の流れで自然とこいつの過去話にもなるのだが、まあ、そんなに優雅な生活を送れていたわけでもなかったみたいだ。

 身分としては、一国の姫であったらしい。しかし、だからといって、その生活水準は平民と同じくらいだったとのこと。




 それは城主である父親や、コイツの兄(過去の俺らしい)の政策の上で自然とそうなったらしく、その真意は分からないとのこと。

 なにぶん、そのような然るべき教養を学ぶ前に、コイツはその命を落とすことになったらしい。





 こいつの、死因ーーーそれは。

 それは、流行病ということだった。しかし、これもあやふやだと言うこと。

 なにぶん、死に際らへんの記憶はふわふわしていて、周りに居る女中たちがそう言っていたのを聞いていたのかいなかったのかーーー自分でも分からないけれど、なんとなくそんな感じだと思うーーーと。



 ずいぶん、おおらかな幽霊だなと思いつつ、霊ってみんなそんなもんかと思って諦めた。




 でも、こいつが言う通りなら、今隣を歩くコイツは「病弱っぽい幽霊」になってなきゃおかしい感じもするけれど、その辺はなんかあるのだろう。いたって、元気溌剌な優麗である。





 ・・・・・・ 俺自身、本人があっけらかんとそんなこと言うもんだから、深く追求も出来なかった。仮に自分が死んだとして、その死因を根掘り葉掘り聞かれたくはないーーー少なくとも、俺はそう思うから。


 それに、なんだかんだでこいつとは少しだけ、打ち解けられた気もする。

 前途は未だ一寸先も見渡せない闇ではあるけれど、今日の会話はそれを和らげくれる、か細くも暖かい光になるような気がした。




「とりあえず、次で最後だからな。

なんだかんだで時間も迫ってるし、自由にできるのはあと30分くらいだぞ」




 ある程度余裕を持って帰るとするなら、次が最後だ。

 公園を出てからなんとなく2人で街をぶらぶらし、時間をつぶしていた。




 その散歩の途中、こいつが映画館に張り出された子ども向けアンパンにやたらと興味を示し、恥ずかしながら、高校2年生にして、一人アンパンマンをすることになった(端から見た場合)。しかも、なぞのチケット二枚購入である。



 購入時に店員さんの笑顔から邪気が放たれていたのは、おれの気のせいだっただろうか?





「ふゎーー、すごおー!!!!」






 パタパタと掛けて行く幼女が飛びついたのは、ゲーセンの表に居を構えるユーフォーキャッチャーだった。

 その巨体の中には、先の土間でスクリーンを飛び回っていたアンパンが笑顔で敷き詰められている。




「これ、ほしいのか?」





 おおっぴらに声を出すことは出来ないが、ぼそりとしゃべることくらいは出来る。ただの高校生のつぶやきごとき、街の喧噪にのまれれば周りに伝わることなどない。けれど、伝わって欲しいやつには、とどく。そう例えば、ガラスを通り抜けて詰め込まれたアンパンマンの海できゃいきゃいハシャイでいる自称妹の幽霊とかーーーなんか、止めて欲しい.


 別に悪いことしているわけはないけれど、なんとなく、「こら、やめなさい!」って言いたくなる光景なんだよ。

 そう、なんとなく、そう、言いたくなるだけなんだけれど。







「ほしいです!こっちの、チーズと、こっちの、ジャムおじさんと、で、こっちの……」




「まてまてまてまて、どれか一つだ。

いったいどんだけ欲かいてんだよ……いっとくけど、一つでもとれれば良い方だぞ?これ、そういうもんだからな?」

 


 俺の知識を共有しているなら、それくらい分かっているはず。

 というより、分かっていってるなら、なおタチが悪いが。





「え〜、エ〜!」





 身体をクネクネして、「え〜」を連呼する幽霊。ちなみに、少しずつトーンを変えているのは、わざとやっているのか。





「どれか、ひとつだ」





 有無言わせぬように、もう一度はっきりと言ってやった。すると、これ以上おしても駄目だと悟ったのか、「じゃあ、これがほしいです」と、王道のアンパンマンを指差した。

 にっこり笑って、両手両足を広げている、おなじみのポーズだ。そして、大きさもそこそこ。これなら、行けるかもしれない。





「わかった。でも、帰りの電車賃考えたら、そんな何回もできないからな。

とれなくても、文句言うなよ?」





 三百円を投入口にほう込むと、トライ回数2と表示された。

 それを確認しつつ、前を見る。




「あと、其処から出なさい。

どんだけ物理干渉なくても、気がちってとれるもんもとれん」




 アンパンマンの海に顔だけ出す形でこちらを見上げていた幼女は、キョトンとした顔でこちらを見た。しばらく考えた後、意中のアンパンマンにしばらくのバイバイを告げ、外に出て来た。

 まったく、なんだかなーーーと、思わなくもない。



 それでも、まあ、いいかと、思う。コイツの笑顔が見れるなら、それくらいは良いかと。そして、おれはさらにコイツの笑顔が見たくなって、お目当てのアンパンマンにアームを伸ばそうと、十時キーに手をかけた時だった。
























 思えば、そこからが本当の意味での、物語の始まりだったーーーように思う。

























謳歌:相克する因果6:崩壊の序曲と不和:東利也&寿小羽








 ゴン!と、アンパンマンを入れた巨体が揺れた。同時に、驚いた兄さまがキャッチボタンを間違っておしてしまい、変な所にアームが降りてしまった。アームはもちろん、何もつかんではいなかった。






「おまえ、ちょっとツラかせや」





 私達に近づいてくる声は、とても静香で冷たいもの……けれど、その声を聞くーーーただそれだけで、聞くものの心を震え上がらせる力を秘めていた。

 そして、声の主は兄さまの隣ーーー巨体で影になっている部分の床に手を伸ばすと、小柄な少年の身体を引きずりだした。



 たぶん、先ほどの音は少年が機械にぶつかったもの。

 つかみあげられた少年は見るからに青ざめ、ちじこまってしまっていた。




 そんな少年を取り囲むように、四五人の少年達が集まってくる。全員が全員、震える少年も含めて、同じ学校の制服を着ていた。





「おら、こっち来い」





 震える少年に何も告げず、少年達はこぞってその場を後にしようとする。その間、携帯を取り出してどこかに掛けようとしていた女子高生に対して威嚇ともとれる言葉を吐いたのは、ぜったいに意図してやったことだ。


 ……このままでは、あの少年は彼らの「悪意」の餌食になってしまう!








「にいさま!

弥生兄さま!」



 私は、兄さまの袖を引きながら、あの少年をどうか助けてくださいと申し出た。兄さまは、強い人だから。

 たしかに、あの少年達全員を相手に暴力で勝つことは出来なくても、それでも兄さまなら、時間を稼げくことができるはず。そうすれば、だれかが。




 隙を見た誰かが警察に通報して、この場を治めてくれるはず!





「にいさま、なにをされているのですか!?

早く、あの者の元に! でなければ、あの者は!!!」





 必死に語りかける私の声は、兄さまに届いているはずだった。それでも、兄さまはUFOキャッチャーの中の人形を見つめるばかり。

 ただただ静かに顔色一つ買えず、そのようなーーーーーーーーーまるで臆病者がとるような、そんな、にいさまらしくない、そんな卑怯な選択を……兄さまは選び、そして、しばらくして、場は平穏を取り戻した。




 その場にいた者たちは気の毒そうに連れ去れた少年の方を眺めていたが、しばらくすると、何事もなかったかのように、場には活気が戻った。

 皆が皆、ほんとに何もなかったかのように、笑顔で会話やゲームを再開している。




「にいさま、まだ間に合います!

弥生兄さま、今ならまだ!あのものたちも、そう遠くに行ってはいないでしょう!

……にいさま、こたえてください! 兄さま、こたえて!」
















 その後すぐ、私たちは無言で駅に向かった。兄さまの片手には、私がねだったアンパンマンが握られている。

 あれからゲームを再開して兄さまは一発で人形をつかむと、その足でゲームセンターを出てしまったのだ。









 私達は、無言で駅を目指す。

 無言でどこかを目指し、そしてーーーーー

次回、謳歌:相克する因果7:不和と衝突:東利也&寿小羽です。

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