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無限想歌  作者: blue birds
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謳歌と怨火:歪曲する因果1:寿小羽&久遠栞

tips-分かち合うもの



他人の苦しみを前にしたとき、人がとり得る行動は大きく二種類に分けられる。


とりわけ多くの者は、自身のそれと他者のそれを比較する。そして、ときに安堵し、あるときには、自身より幸福な他者に対し、嫉妬や怨みという名の情を抱くのだ。



それは、然るべくして起る当然であり、『流れ』である。

……しかし、極稀に、苦しみを分ちあうことを願うものがいる。



「苦しみは、比べるものじゃないの。分かち合って、癒し合うものなの。

だから、こっちにおいで? わたしも、そっちに行くから」



ひとりぼっちだった誰かの苦しみは、その苦しみから逃れる為、『それ』を受け入れた。

もちろん『それ』も、誰かのそれを受け入れーーーーこうして、またひとつ、苦しみは膨れ上がることとなる。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー『膨れ上がる念と、悪意』より抜粋ーーー



少しだけ先の未来2




謳歌と怨火:歪曲する因果1:寿小羽&久遠栞




『あなたは……栞?

なんで? にいさまは……どこ?』



 何一つ理解していない顔で、『念』は私を見上げていた。

 まるで、キツネにつままれたーーーような、そんな、表情だ。それも、そのはず。





『……』




 『念』は、私から二メートル程の離れた場所に倒れ込んでいるーーー理由は、私が突き飛ばしたからだ。

 そして、私の背にはーーー厳粛なる、扉。



 私は無言で踵を返すと、扉をくぐり、すばやく社の外へ。

 そして、翁から渡された鍵を使い、社を閉じたーーーもちろん、『檻』という意味での、社を。



 ガチャリという、腹の底に響くような重音が、夜の世界に響き渡る。

 それまで惚けていた『念』は、ここにきてようやく、立ち上がった。しかし、もう遅い。




『え、え!?

 ちょっと待って! なにするの!?』



 転がるように扉に到達した『念』は、全体重を掛けて扉に突進した。しかし、その程度で社が揺らぐはずもない。物の見事にはじき返され、ひっくり返る。


 しかし、この程度で揺らぐはずもないのは『念』も同じで、必死に扉に拳を振り下ろしていた。



 扉を開けようと、『念』は必死だ。

 しかし、叶うべくもない。いくら想いをかけようとも、必死に拳を振りかざそうとも、神の域を、ただの『念』に犯せるはずもない。



 月光が降り積もる中、ふと、『念』と私は目が合った。



 

 私たちは扉を挟んで、対峙している。

 私たちの間にあるのは、たった一枚の扉。言ってしまえばそれだけで、それ以上のものは何もなかった。



 敵意もなければ、憎しみもない。

 私たちの間には、何もない。私たちは、私たち以外のモノを想うが故に、此処にこうして相見えている。

 



 ……怯えた目でこちらを見る『念』のそれは、年相応の娘を思い起こさせる。




「……」



 私は無言で、踵を返した。

 ゆっくりと、その場を去るーーーそれはもちろん、私の意思表示だ。




『いや! なんで!? どうして!?

あけて! ここ、開けて! いや、いやーーーーーー!!!』





 その声は、決して誰にも届かない。

 どれほど声を上げようとも、その声が、この心に響くことはない。




 あとは、東君の方をどうにかするだけ。

 あと残された問題は、それだけ。たったそれだけで、私たちはーーーー











謳歌:歪曲する因果2:奏上の翁



「末姫も、強情よの……されどそれも、久遠の血筋であれば、当然か」



 奏上の翁は誰もいない世界で一人、鏡を覗き込んでいた。そこには、思惑通りに事を運びおえて旅館に帰還する、一人の少女の姿が在る。

 翁は、悟るーーーその可能性(みらい)は、不可避であると。




「届かぬ声などない。同時に、響かぬ心もないのじゃよ、末姫」




 翁が現世に干渉するまでに、事態は流動的なうねりを獲得していた。その流れはもはや、精霊種である翁をもってしても、変えることは叶わない……いや、翁だからこそ、変えられないのだ。

 因果がーーー人にとっての理の歪みが、大きくなりすぎる。



「さて、このままでは順当に悲劇は退けられてしまうの……」


 鏡の境界に、翁がふれる。すると、境界が波打つように波紋を広げ、別の景色を映し出した。

 鏡には、一人の女子高生が映っている。彼女は、どうやら授業を受けている最中のようだ。




「ふむ、そして、こちらは明らかに『流れ』が歪められておる……何者かの?

これほどまで自然に人の理を曲げるなど、本来は在るべくもないが……」



 鏡に映る少女は、自身が停学にならずに当たり前のように学園に来れることを不思議に想いながらも、「これでいいのかなー?」と、暢気に椅子に座っていた。


 

 それは少女が前日起こした事件を考えれば、明らかに、不自然な光景である。

 



「ふむ、なるほどの。

さてと、どうしたものか……」



 翁は、思案実に鏡を覗き込んでいる。はたして、彼はどう動くのか。

 それはーーーー


 



次回


連想歌:遠き彼の地で少女は再び夢を見る

です。

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