謳歌:相克する因果2:東利也&寿小羽
兄さまとの無益な争いの結末は、二人として地に突っ伏すというカタチで決着がついた。
……決着がつかなかったとも、言える。
「おまえ、ホントに幽霊なんだな」
もぐもぐとハンバーガーを租借しながら、兄さまは笑った。
先ほどの嗤った顔にくらべると、幾分、優しさ含まれている気がする。
さきほどのケンカーーーと呼べるかも分からない兄さまとの戯れは、全面的に兄さまが悪いということで、収まりがついた。そして、そのお詫びとして、昼食は兄さまが用意して下さることに。
そのとき、兄さまは私に、好きな食べ物を頼んでいいと言って下さったのだけれど。
「ご飯が食べれなくても、私はわたしです。
たしかに生者でこそ在りませんが、兄さまが私の兄さまでいてくれるーーーそれだけで、十分なのです」
ご飯は要らないと言った私を、兄さまは笑っている。
たしかに生者であるならば、「食」とは命をつなぎ止めるために大事な行為だと想う。
けれど、それは死者にとっても同じはず。なぜなら私は、「餓える」ということを知っているのだからーーーけれど、それは生者のそれとは意味が違うのだということも、今なら理解できる。
(私は今、満たされています。
十二分に、私が私でいられるくらいに)
わたしは木々の間をこぼれる光に目を細めた。
私たちの周り在るのは黙して語らぬ木々ばかり、人の姿はほとんどない。
「兄さまは、そのような食事を好まれるのですか?たしか、そのような食は体に悪いと聞き及んでいますが……」
私が知っているということは、兄さまも知っているということ。
なのに、兄さまは体に悪いものを、あえて食しているーーーそのことに、意味は在るのだろうか。
「いや、それ言われると厳しいんだけど、なんせ旨いからな……
それに、相川園にいたときは百合子さんが食べさせてくれなかったし。
たぶん、その反動もあるんだと思う」
「相川園というのは、兄さまが、その……」
言いよどむ私に、兄さまさらに笑いかけて、頭をなでて下さる。
そして。
「そうか、お前と俺が繋がってるってのは、本当みたいだな」
そして、照れたように再び笑い、視線を公園の中心に向けた。
そこには、先ほどまで私たちが浮かんでいた、大きな池がある。
「お聞きしても、よろしいですか?
兄さまの、以前の事を……?」
兄さまと私は、繋がっている。
だから私は、兄さまの中にある知識とか記憶と言ったものを、意図せずとも簡単に読めてしまう。
けれど、肝心なところは、何も分からない。
それはたぶん、演劇の台本をパラパラと見て、劇の筋道を知るという行為に近いモノだと思う。
兄さまは、すこしだけ目を細めた後、ごろんと寝転がってしまった。
そして、ポンポンと自分の脇の芝生を叩き、「ここ日差しが気持ちいいぞ」と、一言。
わたしは、何も言わず、兄さまの横に、一緒に転がる。
私たちの頭上には、きらきらと輝く日の光と、木々。
……少しばかり、光が強すぎる気がする。
目をつぶってても、なんだか目が痛い。
「にいさま、もう少しずれましょう。
なんだか、目が痛いです」
とりあえず私は、思ったことを口にした。
すると、兄さまは空咳をしながら、「おまえ、容赦ないな〜」と呟きつつ、ほんの少し離れた木陰に移動。たぶん、転がったはいいものの、兄さまも同じことを考えいてらしたようだ。
私たちがすごすごと移動した場所はそこそこ暖かく、風通りの気持ちいい場所だった。
そこでふたふたび私と兄さまは横になり、空を見上げるーーーーいい感じに、あったかい。
そして、兄さまは語りだした。
ときに楽しそうに、ときに恥ずかしそうに。
それは、私の知らない東利也のお話。
それは、私が受け入れなければならない、私の知らない兄さまの話。
そんなお話を、兄さまは子守唄のように、聞かせて下さった。
謳歌:相克する因果3:東利也&寿小羽
東君の施設時代の話メインです。