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無限想歌  作者: blue birds
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謳歌:相克する因果1:東利也&寿小羽

この二人、前日はなんだかんだで話してないですからね。

なので、修学旅行最終日に、親睦を深めていただきます。


東君には、悪いけど……

謳歌:相克する因果1:東利也&寿小羽






「ねぇ、兄さま!わたし、アレに乗りたいです!」



 池を囲む柵に手をかけ、キャッキャッと飛び跳ねる幽霊。

 こいつは、池に浮かぶスワンボートを指差し、信じられないくらいキラキラした瞳で、こちらを見上げている。



 時刻は、午前11時をまわった頃だ。



「はいはい、じゃあ、あれに乗るか。

え〜っと、乗り場までは……少し歩かなきゃならんのか」



 公園のあちこちに立てられた看板で目的地を確認。

 俺の歩幅なら10分くらいだが、まあ、今日は20分はみといたが良いだろう。


 なんせ、おれの背丈の半分も無い、半透け幼女が同伴しているわけだし。







 結局、おれは修学旅行最終日のUSJからは外されることになった。

 まあ、当たり前といえば、当たり目の処置だ。で、その代わりと、ホテルでの謹慎をめでたく受けるはずだったんが。



「問題おこさないように、ちょろちょろするのはかまわん。

俺も、少しは羽伸ばしたいからな……ギブアンドテイクだ」




 昨晩の酒に引き続き、ギブアンドテイクの名目を語り、教師としての責務を放棄した教官は、そう言い残してどこかに消えた。今日の、午前7時半くらいのことである。



 そして。




「ねぇ、兄さま。つぎは、どちらに?」



 そして俺は今、こうして此処にいる。具体的には、赤椙公園という、そこそこでかい自然公園を半透け幼女と散歩しているところ。平日な為か、人なんてほとんどいない。


 ようは、誰に気兼ねする事無く、想うように行動できるって話だ。



「いや、特に行きたい場所とかもないな……今日はお前に一日つき合ってやるよ。

ただし、人ごみが多いところはパスだ。さすがに一人会話を堂々と人前でやらかす度胸は無いからな」




 俺は芝生に腰を落とすと、ごろんと寝転んだ。先ほどまでスワンボートを漕いで池をくるくると回っていたのだが、なんか足がプルプルする……普段使わない筋肉でも、使ったか?




 足をモミモミとほぐしていると、幼女も俺の横に座ってきた。よほどボートが楽しかったのか、まだ頬の高揚は取れていない。実際、俺も似たようなもんだろう。案外、楽しかったし。




 作法が叩き込まれているのか、幼女は地面にも正座だ。

 そして、なぜか、二人で俺の足を見つめるカタチになる。

 ……たいして何も、面白いことは無い。




「兄さまの足、汚いですね。なんでそんなにゴツゴツして毛が生えているんですか?」



 とりあえず、幼女に現実の厳しさを教えてやろうと、ちょっとした制裁を加える為に、汚物認定されたモノを幼女の頬にすりつけようと動かしたらーーー幼女は猫のようにスルリと俺の足の下をくぐり抜け、逃亡。



 二三メートルの距離を挟んで、こちらの様子をうかがっている。



「こっちにこい」




 おいでおいで手を振り、怒ってないからと付け加えた。

 にもかかわらず、幼女はイヤイヤをする。



「ほら、こっちにこいって。せっかく一緒にいるんだから」



 おいでおいでと手を振る―――のを止め、立ち上がる。

 若干足に変な倦怠感はあるものの、走れなくはなさそうだ。



 立ち上がった俺は、一歩幼女に近づく。

 すると、幼女は一歩後ずさった。なんとなく、前日の旅館を走り回ったことを思い出す。



「にいさま、やめて」



 プルプルと震える幼女を視て、俺はニヤリと嗤った。そして、一歩さらに距離を詰め、手を伸ばす。


 すると。



「……えい!」



 幼女は、一目散に池へと走り出し、際に来たところで思いっきり池に飛び込んだ。

 結果、やつは池に沈んでいくことになるのが普通だが、そこはさすが幽霊。


 でたらめだ。



「ここなら、兄さまも変なことできないですよね?」


 幼女は、フン!っと場仮に胸を反らし、水面に立っていた。

 そして、鬼さんこちら、手のなる方へ〜と俺を囃し立てる。



「そうか、なら、これまでだな。

あとは、一人でやってくれ。達者でな!」



 俺をおちょくる幼女を背に、俺は全力で走り出した。

 背後から慌てた声で、「兄さま、まって!」と聞こえてくるが、ムシ。


 その瞬間、俺の中に溜まったイラッと感は浄化された。

 昨日は場所が場所なだけに幼女に遅れを取るカタチになったが、実際の肉体的スペックではこちらが上だ。さきほどやつが汚いと言ってのけたこの足は、十数年に渡る新聞配達のたまものーーーそれで、やつをぶっちぎれたのが、清々しくてたまらない。



「……」




 清々しかったのは一瞬で、数秒後には、かなりへこんだ。

 幼女相手に、何をやっとるんだという話だ。



 振り返ると、けっこう離れたところから、幼女が涙と鼻水で顔をべとべとにして俺を追ってきている。

 ……今この場に由香がいれば、確実に俺は×××された上に、○×△させられるはずだ。




「はあ、なにやってんだかな……」



 小高い丘の上から、幼女が辿りくのを待つ。

 すると、どうしたことか。後少しというところで幼女は座り込み、わんわんと泣き出したーーーモノ過ごい勢いで、良心が傷む。

 また絶妙な場所でわんわん泣いてんだもんなーーーしかも、俺のせいで。



「あああああああ、もう!

わるかったから、なくなって!」





 渋々と言った感じで幼女に近づき、俺は手を伸ばした。

 しかし、幼女は手を取らない。俯いたまま、ぐずぐずとやっている。



 しかたなしに、俺は幼女の前で腰を下げた。そして、「顔あげろ」と、やさしく言葉をかけたつもりだったのだが。



「にいさまの、いじわる!」




 次の瞬間、鬼もかくやという形相で幼女が顔をあげ、おれの頭を挟み込んだ。

そして、頭突き。ゴン!っというあり得ない音を立てて、二人して地面を転げ回る。




……それから俺たちが仲直りするには、もう三十分だけ、時間を要したことは、仕方の無い事だと想う。




 






 

謳歌:相克する因果2:東利也&寿小羽


お昼ご飯食べながら、ふたりで会話です。

鍵括弧が多くなる回かも。

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