夢想歌:汝の名を問う4:東利也
Flagたちました。
gold gate---ヒーローの背負うもの
ヒーローは世界の救い手でもなければ、未来の守り手でもない。
理想という十字架を背負わされるために存在する、単なる人身御供にすぎないんだよ。
叶うべくもない、理想。
叶わないからこその、理想。だが、理想が叶わないという事実を受け入れることのできるモノは少なく、そういった存在は、すべからく、ヒーローの登場を望む。
そして、石を投げるのだ。
そして、罵る。そう、こんな風にね。
おまえのせいで、我々は――――――――と。
―――――――――――――――――――――――
夢想歌:汝の名を問う4:東利也
『お前は、誰だ?』
俺は突然、見知らぬ少女に問いかけられた。
何の脈略も無い、その問い。
だからこそ俺は、その意味不明な問いに対し、何の戸惑いも無く–――答えた。
「おまえこそ、誰だよ?」
---------------------------------------------------------
gold turning point---分岐が確立
ヒーロー消失のFlagが発生。
併せて、「真名を喚ぶもの」が顕現。
----------------------------------------------------------------------------
俺は、問い返す。得体の知れない少女に、分けもかも分からないまま。
目の前の少女は明らかに俺よりも幼い容姿であるにもかかわらず、それでいて、圧倒的な何かをその内に秘めていた。
俺は、理解する。
目の前のモノは、俺たちよりも遥か高みに―――存在するモノだと。
『模範的な回答だな、東 利也。なかなかどうして、そう答えられる者というのは少ない』
虚空に浮かぶ少女はニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、俺を見据える。
「では、もう一つ問う。
伊吹 由香とは、何者だ?」
–――伊吹 由香とは、何者か。
そんなこと、これまで一度も考えたことなんて無かった。なのに。
「おまえ、何者だ!? なんで、あいつを知ってる?」
俺の怒気を孕んだその答えに、少女は笑みを濃くする。
少女の笑みに呼応するかのように、世界はその闇を濃密にし、同時に彼女の鮮やかな銀髪が輝きを放ち始める。
「然り、だ。今の我らなら、それが正答だ。
……ならば最後にもう一つ―――寿 小羽とは、何者だ?」
表情を消して問いかける少女を前に、俺は答えることが–――出来ない。
寿 小羽とは、何者か。
俺は、寿小羽なんて人間は知らない……いや、「知っていはいる」。そいつは死者で、自称俺の妹を名乗るモノ。
知ってはいる。だが、それだけだ。
だから、当然ながら、私の答えはただ一つ。
「おまえが、原因か?
……あいつも含めて、訳の分からんことが昨日から続いているのは、
……お前のせいか?」
いらだちが、つのる。なぜ、こんなにも……胸が詰まるんだ?この感覚は、この、胸を締め付けるような、泣きたくなるような、この衝動はいったい!?
「分かるはずが無くとも、分かることがある。翻って、逆も然りだ。
……覚えておけ、東利也。近々、貴様は災厄と向かい合うことになる。それは貴様にとってはそうではないかもしれないが、少なくとも、それは間違いなく、「伊吹由香」にとっては災厄でしかない。
……ただ、貴様と貴様の恋人の胆力次第では、「災厄」と定義されたそれは自ら「災厄」以外の選択肢を選びとるはずだ……せいぜい、あがけ。あがき、つかみ取れ–――それが」
ゴン!
俺の後頭部を襲う突然の衝撃と、違和感。
それらは突然俺の目の前の幻想を霧散させ、一気に深淵にあった俺の意識を上層へと引き上げていく。
「痛っつ!?」
気がつけば、そこはホテルの一室だった。先ほどまで俺が居た漆黒の空間も、銀髪の少女も、当然ながらどこにもいない。
現在の時刻は、午前5時15分で、夜はまだ明けていない。
痛みを訴える頭をさすりながら振り向くと、そこには穏やかな寝息を立てて丸まっている自称妹がいた。俺の枕元でクネクネと動くこいつの足の指を視てみるに、さきほどの後頭部を襲った衝撃の正体はアレだろう。どうみても、俺はこいつに蹴られたとしか思えない。
「……」
……あいつは、一体なんだったんだろうか?
そして、それ以上に、こいつは、いったい……?
……寝起きなせいか、思考がまとまらない。
そして気がつくと、おれは幼女の頭をなでていた。
気持ち良さそうに頬を緩め、さらに丸っこくなる幼女。
「災厄と向かい合うことになる?まだ、なにかあるのか?」
俺はゆっくりと外に目をやると、明けかけの夜に目を凝らした。
そこにはもはや月は無く、騒々しい朝の到来を告げる太陽の零れ日が、粛々と。
静かに、世界に浸透し始めているだけだった。
※
夢想歌:汝の名を問う4:寿 小羽
『お前は、誰だ?』
私は突然、見知らぬ少女に問いかけられた。
何の脈略も無い、その問い。
けれど、私はその意味不明な問いに対し、何の戸惑いも無く答えることが―――出来なかった。
「……寿、 小羽です」
私は、答える。見知らぬ少女に、分けもかも分からないまま。
たどたどしく、私は答える。
『それでは、半分だ。お前自身気づいている通り、それでは不十分だ』
虚空に浮かぶ少女はニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、私を見据える。
「では、もう一つ問う。
東利也とは、何者だ?」
–――東利也とは、何者か。
そんなこと、考えるまでもない。
そんなの、分かりきったことなのに。
「「あの人」は、私の……兄です!
私の、私が、ずっと待ち続けた……」
ただの直感でしかないその答えに、少女は笑みを濃くする。
少女の笑みに呼応するかのように、世界はその闇を濃密にし、同時に彼女の鮮やかな銀髪が輝きを放ち始める。
「やはり、不完全だ。それでは、先が思いやられるな、寿小羽。
……これが最後だ。最後にもう一つ―――伊吹 由香とは、何者だ?」
表情を消して問いかける少女を前に、「私」は答えることが–――出来ない。
伊吹 由香とは、何者か。その問いに、「私」は、答えることができない。
でも。
「祓われるべき、魔。諸悪の根源。
世に不幸をもたらす、魔性のモノ。それが、それだ」
吹き上がる、黒煙。
それはブスブスと「私」から漏れだし、「私」の代わりに答えた。
私の吐く息に、炎がまじりだす。
「一つを二つに分けた意味は、お前の中にある。
……覚えておけ、寿小羽。貴様は近々、「災厄」と向き合うことになる。それは幼いお前にとっては荷が重も過ぎる話だが、しかし、避けられぬ運命だ」
世界が、爆ぜる。私の炎が少女に絡み付こうと下瞬間に、真っ白な光が闇を照らし、私と少女の間を焼き払った。そして。
「繰り返す命は幾度の漂白を超えて、「お前達」のもとに。
その意味を決して、はき違えるな。そうすれば、きっと―――」
ぺしっと。
私の頬を襲う突然の衝撃と、違和感。
それらは突然私の目の前の幻想を霧散させ、一気に深淵にあった私の意識を上層へと引き上げていく。
「ふぇ!?」
気がつけば、そこはホテルの一室だった。先ほどまで私が居た漆黒の空間も、銀髪の少女も、当然ながらどこにもいない。
現在の時刻は、午前8時15分で、一日の始まりの時間。
そして。
「さっさと、用意しろ。出かけるぞ」
私の目の前には、私服に着替えた兄さま。
すでに私に背を向け、ドアを開きどこか行こうと――――!?
「にいさま、待って下さい!おいていかないで!」
閉まるドアに体当たりするように、私は部屋を出る。
なにがどうなって今に至るのか全然分からないけれど、兄さまが私をおいてどこかに行こうとしている事くらいは分かる。
そうは問屋が降ろさない。だって、兄さまは一緒に居ていいって行ってくれたんだから。だから、わたしはどこまでもついていく。
どこまでもどこまで、そして、どこまでも。わたしは、兄さまと一緒に―――
どこへ、行きたいんだろう?
次回から再び東小羽組です。
ほのぼのとした一日を描けたらと。