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無限想歌  作者: blue birds
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夢想歌:月の明かりの下で太陽は涙を流す2:峰岸燈火&久遠栞


 ―――gold gate:「名を呼ぶ」ということ―――



 ねぇ、あなたは覚えてる?

 初めて自分の名前を呼んでもらえた時のことを、覚えてる?



 ―――私は、覚えてる。はっきりと、覚えてる。

 それは、桜が舞う季節だった。

 託された使命の大きさに不安を抱えながら、まだ見ぬ学園生活に期待の片鱗すら抱けなかった、あの、始まりの季節に。



「おい、峰岸!

 いくら家がボンボンでも、他人をないがしろにしていいってことは無いぜ」

 


 私は初めて、「私」という名を呼んでもらえたんだと、思う。

 そして、同時に初めて、心の底から喧嘩なんてできる相手を見つけたんだ。



「……あんたに呼び捨てにされる筋合いなんて無いんだけど?」



 あのとき。

 あの、初めて名を呼んでもらえたあの日に、私は―――同じように初めて、他の誰かの名を呼べた。



 名前なんて、単なる個人の識別記号でしかないと思っていた当時のバカな私は、そのとき初めて、名を呼ぶことの―――

 「名を呼んでもらえる」ことの意味を、信じることが出来たんだと思う。





 だから、私は。

 だからこそ、私は―――峰岸燈火という名を。引いては、私という存在を、誇りに思えるんだと思う。





夢想歌:月の明かりの下で太陽は涙を流す2:峰岸燈火&久遠栞




 あの占い師の巣窟で私は、宣告を受けた。


「僕の見立てでは、君の恋は決して成就することはない。なぜなら、君はすでに峰岸という真名を受け入れているからね。そして、どちらかというと、こっちが一番の問題点なんだが―――非常に残念なことに君は、不器用だ」


 占い師は、言った。私の恋は実らないと。

 そして、その原因はあくまでも私という人間によるところが大きく、「許嫁」や「家」というような存在は、些細な問題だとも。



「君が彼をモノにしたいと望むのであれば、それは「可能」だよ。例え、「家」がその選択を許さなくとも、そんなものは大した脅威にはならない。君には、それだけの力がある。だから、「許嫁」なんてものはなおさらだ。

 ……断わっておくけど、君の許嫁は「当たり」の部類に入る好青年だよ。彼と契りを結べば恐らく君は、幸せを手にすることが出来る……けれど、それは「今の君が望む幸せ」とは、別の幸せだろうけれどね」



 占い師は「可能」だと、言い切った。私は「峰岸」と戦争をしても、勝利を手にすることが出来ると。そして、同様に断言した。

 たとえ、私は「峰岸」を手中に収めることは出来ても、それでも、やはり私が「彼を手にすること」は「不可能」だと。




「君は、「峰岸」ではなく、峰岸だ。そうであることに君自身が喜びを見いだしている時点で、結果はほとんど決まっているようなもの。もし、君が本当に彼の恋人となる権利を望むのなら、君は全力で伊吹由香さんを排除しなければならない」




 「前世からの因縁」で結ばれた二人の恋人を引き裂き、その片割れの座につく。

 それさえ出来れば私は、彼を手にすることが出来る。たったそれだけの、伊吹由香という「個人」を排除するだけで、私は、彼の隣で笑うことが―――




「だから、不可能なんだよ。君は、峰岸だ。「峰岸」としての君なら「可能」だったろうけれど、峰岸である君には、「不可能」だ。要は、いい具合に表と裏がひっくり返ってるのさ。もちろん、それは僕から言わせれば必然なんだけれど」




 「峰岸」である私なら可能とすること。それは、峰岸である私には、不可能なこと。



「念を押しておくけれど、何も僕は、君が「家」としての「峰岸」を使わなければ、伊吹由香に勝てないと言っているわけじゃない。「峰岸」として振る舞わなければ、勝てないと言ってるんだ。そしておそらく二三日内に君は、どちらの君として振る舞うかを問われることになる―――たぶん、君の親友であり「盟友」でもある久遠嬢からね」








 





 そして。

 そして、そんな宣託を受けた数時間後に、私は問われた。







「由香さんはたぶん、数日内に命を落とす。

 私たちが何もしなければ確実に、由香さんは彼のもとを去るわ……どうする、燈火?そうなれば、きっと、太陽すらも焦がすあなたの太陽は―――あなたのものになる」




 

 


 占い師の宣託どおりに、わたしは問いかけられた。

 ……ここまでは、あの占い師の手のひらの中。こころから、さすがだなぁと思う。

 でも、あの占い師は未来視を担い手ではなかったらしい。あくまでも、普通の霊視能力者でしかなかったみたいだ。




「……答えなんて決まってるでしょう、栞。

私は、峰岸燈火よ。あなたが、久遠栞であるように。少なくとも、今この時だけは、私たちはそう振る舞えるはず」




 私は、親友である栞に問いかけられた。盟友である久遠にではなく、親友に問いかけられたのだ。

 つまりは、その問いに答えなんて必要ないということ。



「……詳しく話を聞かせて。今日一日で色んなことが起き始めていたことは分かるけど、それがどういう「背景」を持っているかまでは、私じゃ分からない。

 だから、力を貸して、栞。私は、友人が悲しむ顔なんて、視たくないの」

次回は



夢想歌:月の明かりの下で太陽は涙を流す3:峰岸燈火&久遠栞


です

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