夢想歌:汝の名を問う1:東利也&寿小羽
夢想歌:汝の名を問う1:東利也&寿小羽
gold gate-真名励起
本質的に静的な存在である「名」は、「動」を基礎とする世界を記述することが出来ない。
これは覆し様のない真理である。
だがしかし、翻って名とは、動的存在の「世界」を部分的に切り取り、その世界を静止、果てには、保存することさえ可能とする術でもある。
これは逆説的に、名とは静的なもの―――つまりは確かに「これ」と定義されるものではなく、あくまでも、切り取られる世界によって「意味を付加される」存在であるとも言える。
それが、言霊の理。
これは魔法魔術、あるいは、真名によりもたらされる、真名励起という現象の根源となる理である。
※
占い師ではなく魔術師―――つまりは、インチキ占い師のシロさんにコーラをぶっかけられて小一時間後、俺とチビ助は占いの館の扉を開き、そして、外に出た。
時間帯としては、夕暮れ時だ。昼間はまだまだ暑いものの、この時間たいにもなれば、ひんやりとした風が頬をなでてくれる。
「あんたのその服、なに?」
それにしても、シロさんは不思議な人だった。
彼女は本当に魔術師なのだろうか? たしかに、彼女は不思議な術で俺たちを魅了してくれたが、それでも何かが引っかかる。なんていか、彼女は毒っけが無さ過ぎる気がするんだ。
それこそ、魔術師とか魔法使いとか聞くと、大概は気難しかったりぶっ飛んだ思考回路の持ち主を連想しそうになる。
「ねぇ、何無視してんの? 頭イカレタ? あと、手に持ってるその袋なに?」
ファンタジー小説の読み過ぎだろうとツッコミを受けそうだが、それでも、大概のイメージってそうじゃねぇ?だって、空間とか跳躍できるんだ。いろいろとやりたい放題なのにシロさんは。
シロさんは、「いや〜やっぱどこの世界でも生活するって大変だよね」と、どこぞの主婦みたいなこと最後らへんは口走っていた。なんでも、今あのアパートで同棲している相方の生活能力が無さ過ぎて、白さんが二人分の生活費をまかなってやっているんだとか。
「……5」
だからというかなんというか、そう、親しみやすすぎるんだ。ものすごいことが出来る人なのに、それを全然鼻にかけるようなことをしない。それどころか、その「ものすごいこと」をほんの些細なことと捉えている節すらあった。
「……4」
今回のことを通して俺は、シロさんのことが好きになった–――からというわけではないけれど、チビ助の件のアフターサービスのことも考えて、お互いの番号を交換したし「……1」。
「スマン。というか、3,2,はどこいった?」
無駄な思考は切り上げ、とりあえず頭を下げた。
目の前には、光彩が失せた瞳の峰岸。こいつ、カウントダウンを適当に切り上げて、黙秘と続ける俺にビンタをお見舞いしようとしていたらしいのだが–――
次回
夢想歌:汝の名を問う2:東利也&寿小羽です