夢想歌:占いの館にて2:未来視と、世界の終わり2:瀬戸神流
学園創設の背景です。
夢想歌:占いの館にて2:未来視と、世界の終わり2:瀬戸神流
「ヒーローの所在ねぇ……」
お茶を入れながら、「未来視の竹山さん」は、「ふふふ」と笑った。
彼女の見た目は、それこそ占い師!って感じのおばあさん。
けれど、彼女のまとう雰囲気はどこか安心できるものがあり、例えるなら故郷の潮風に似ていると思う。
「ヒーローを探し出して、どうするの?」
問いかけてくる竹山さんに、ホワホワと湯気が立つお茶を差し出された。
正直、まだまだ熱いこの季節には冷たい麦茶か、アイスティが良いんだけどーーーと思ったことは、口には出さない。
「探し出して、世界を救ってもらいます。
……わたしの友人の話では、この世界はあと50年も保たないらしんですよね。だから、探さないと。世界の終わりを救ってくれる、そんな正義の味方を探し出して、滅びを回避しないと―――っていう話です」
自分でも電波全開の話だよなーと思う。
アニメとかでよくある設定だけど、現実ではちょっとない。
現在の世界情勢は、過去のものと比較してかなり安定しており、世界が滅びる要素なんて、今のところ、どこにも無い。
……でも、人によっては今の世界を「安定」とは表現せずに「衰退」って言っちゃう人もいるかもしれないけど、それはそれ。
「そのための、瀬戸高校だったかしら。
その、あなたが通っている高校というのは……?」
竹山さんの問いに、私は短く「先ほどお話した通りです」と、答えた。
それが、私たちの学び舎が設立された、本当の理由です―――と。
※
今でこそ名門として知られる我が「瀬戸家」だが、それこそ十数年前くらいのご時世では、ただの土地持ちというだけの家柄だった。
税金ばっかりかっ喰らう固定資産。はっきりいって、土地なんてものは利用できなければ金食い虫以外の何者でもない。
事実、私が7歳かそこらのころには一度、すべての土地を売り払うって案もあったくらいだ。
(でもそんなとき、あの人が家にきたんだよね……)
さて、利用できないような土地をどうやって売りさばこうかと、家の者たちが冴えもしない頭を一所懸命ひねっていたときのことだ。
ある一人の男が、突然現れた。
それこそ、何の兆候も無く。それこそ、アポの電話の一本も無く。
それこそ、玄関のインターホンすら押さずに、その男はずかずかと我が家に上が
り込み(さすがに靴は脱いでいた)、テーブルを囲んでウンウンうなっている家族親戚に向かって、こう、言ったのだ。
『土地を、譲っていただきたい』
……あとは、話がトントン拍子に進んだ。
かつては利用価値が一切無いとされた我が家の土地は、今や首都東京に並ぶ程の都市へと成長し、「学園首都」なんて、もじられることもある。
そう、学園首都と。
利用価値の無い寂れた土地は、今や世界有数の学園都市として、機能していた。
創立者は、「成功者」。バカみたいな名前だけど、彼を知る者はすべからく、彼をそう呼んだ。
もちろん、ほんとの名前は別にあるはずだけれど、彼を知る者はすべからく、彼を「成功者」と呼んだのだ。
彼が起立する事業はほとんどすべてが、成功。
本を書けばたちまちミリオンセラーだし、ピアノを弾けば、その筋のプロが嫉妬の末に自殺未遂をやらかすほどの腕前。
彼がスピーチと称して口を開くときには、何千億という単位の金が動くのが常であるとされているし、実際、動く。
つまりは、成功者だ。
失敗を知らず、成功のみを築き上げるの者―――そんな男が、学園を創設した。
たった一言の、言葉を添えて。
『これからの私は、次世代の若者を育てることに専念したいと思う。できることなら、私の命が尽きる前に、後継者を育て上げたい』
後継者を、育て上げる―――果たして、誰の、後継者?
……世界は、震撼した。まさか、ありえない–――という感じだ。
まさか、あの「成功者」が、自身の後継者を育て上げるために学園を築き上げるなどと、そんなこと、あり得るはずが無いと。
しかし、実際のところ彼は一年も起たないうちに学園都市を完成させてしまった。最初に出来たのは大学で、次が高校だったように思える・・・・・・中学校は、あったけ?
まあ何にせよ、彼は学園という名の都市を創った。
そして、集めたのだ。世界に名を馳せる、ありとあらゆる家系血筋の、担い手となる若者達を―――一カ所に。いや、一カ所とということは無いか……
彼は学園を、世界中につくった。その一つが瀬戸校というだけで、アメリカにはアメリカの、アフガンにはアフガンの学園が存在する。
そして、そんな学園には、様々なバックグラウンドを持つ人間が集まった。それは教鞭をとる教師もそうだったし、教育を受ける学生もそう。
教師はそれほどでもないが、学生という学生はすべからく、皆が皆、何かしらの家柄という歴史を背負った者たちばかりだった。
彼らの入学目的は、主に二つ。
一つが、成功者の後継者として莫大な遺産を相続する権利を勝ち得ること。
二つ目が、学園にあつまる世界中の良家とコネクションを作り、生かすこと。
いずれの学生も、入学動機はどちらか二つに分かれる。たぶん、98%くらいは、そうだと思う。だからこそ、だろうか。
学園が設立されて4,5年もすると、ある噂が一人歩きし始めた。それは、「成功者は後継者を育てる気はなく、ただ単に世界の名家を自分のもとに集めたかっただけなのではないのか」–――と。
そして、さらに数年の月日が流れ、その噂は真実として、皆の意識に定着した。
事実、成功者自身はほとんど学生と関わらず、相変わらずの生活を送っているのだ。もし、後継者を本気で探しているのなら、多少なりとも学園に顔を出すなり、もしくは卒業生と接触するなりしても良いはず。しかし、その要な事実は一切無いとされている。
(それもそのはず……なんだけどね。
だって、後継者候補は、入学時に選定済みなんだから……)
成功者は、学生と会おうとはしない。後継者を捜そうとしないのではなく、合おうとしないのだ。なぜなら、そう―――学園に入学する、「歴史」をもつ者はすべからくヒーローとして不適切だと、成功者は考えているのだから。
(何も持っていないからこそ、ヒーローは全てを守る。たとえ、多くの者達が無価値と切って捨てるようなモノが失われそうになっても、命をかけて、そんな無価値な何かを、救い手は守り抜こうとする–――たとえば、世界とか。
世界とか、人とか。
それは、在るのが当たり前すぎて、ただ「在る」というだけでは価値を見いだせない、そんな何かですら、ヒーローは全身全霊をかけて、守り抜こうとする)
ヒーローは、持たざるものでなければならない。そう考えた成功者は、名家が集う学園に、ある制度をつくった。それが、特別招待枠。規定人数は最大で、年間5名。彼らは、年間あたりに必要となる10000万という巨額の授業料を免除される、文字通り、特別な枠組みの存在だ。
そして、この枠組みが適応される人物には、ある一定の条件がある。それはーーー「孤児」であること。そして、成功者との「直接面接」において直に「合格」を言い渡されること―――だ。
……この特別枠にて入学した者は、十数年という学園の歴史の中で、たったの4人。そして、現在私たちの瀬戸校には、その4人中の2人が在学している。
一人が、私の友人である東利也。
そして、もう一人が伊吹 由香。
一部の学生(特に人を見る目の無いバカ)は、彼らのことを「成り上がり」だとか「平民」だとか表して見下す。
そして、見下しはしないにしても、大半の者は、「成功者が「教育機関」としての学園の体面を取り繕うために用意した、見せかけの入学生」と考え、一線をおいて接している。
そして。
そして、ほんの一握りの人間―――学園の創設に関わった「瀬戸」や、世界でもトップクラスに入る「峰岸」のような背景をもつ者達は、ある事実を胸に、彼らに接している。それはーーー
「彼らこそが、ヒーローの原石。
少なくとも、あの人が直に選び抜いた、未来の守り手」
自分たちは―――「彼らのため」に、集められた。
歴史という背景を背負い同時に力を持つ我らは、「持たざるヒーロー」のために集められた。
来るべき日に、ヒーローの力となる、ただ、それだけのために―――私たちは、集められたのだ。
次回は、ヒーローは存在するか、です。