夢想歌:占いの館にて4:人の理と、世界の理5:東 利也&寿 小羽
夢想歌:占いの館にて4:人の理と、世界の理5:東 利也&寿 小羽
「私の中に、兄さまが流れ込んでいる……?」
胸に手を当てて、私はその流れを感じようとした。
……でも、特に何か特別なものを感じるわけでもない。
「東さんと小羽さんの間で結ばれているその縁は、相当特殊なものです。通常、縁で結ばれた固有世界同士であっても、その間で情報交換がなされることは、まずありません。
なぜなら、それを成すということは、無条件に近いカタチで、他者の意識を自身の内面に受け入れるということと同義だからです」
「でも、現に私と兄さまの間では、あり得ないことが起っているんですよね?
それは、私が空っぽだから……?」
私は空っぽだから、拒むも受け入れるも無い。そもそも、そういったことは自分があってこそのもの。
だから、空っぽの私には兄さまを拒むことも、また逆に、兄さまに渡せるようなものも無い―――。だから、私と兄さまは繋がっていられる。こんなふうに、空っぽの私だから……
わたしの落ち込んだ吐息が魔法使いさんに聞こえたのかもしれない。
弱音を吐いた私を励ますように、魔法使いさんは「そんなの、大したことじゃない!」と笑いかけてくれた。そして–――
「小羽さんは、普通の人に比べて少しだけスタートがずれているだけです。けれど、それもおそらく、是正されます。
……私の見立てですと、ここ数日中には小羽さんの世界は成熟し、今でこそ成り立っているお兄さんからの情報流入も–――終息を迎えます。でもそれは、小羽さんとお兄さんの間の繋がりがなくなるわけではありません。
現在まで続いている縁は変わらず存在し続け、そして、今とは別の、新たな縁を紡いで行くことだって出来る」
魔法使いさんは、「これからだ」と言う。
そんな風に、言ってくれる–――でも。
※
「ちょっと待って下さい。シロさんの話を聞いていると、どうしても矛盾しているように感じます。だって、こいつは「円環の理」から外れてしまっているんですよね?だから、こんな風に此処に取り残されてしまっている。
……それは、「通常の流れ」から外れたことなんですよね?だったら、正さないと。それが、こいつのために–――」
こいつのためにも、こいつは俺の傍ではなく、然るべきところに行くべきだと―――そう、進言しようとしたのだが、途中で止められてしまった。
幼女に、袖を引かれることによって。
シロさんには、厳しい目で睨まれることによって―――俺は、そこから先を言うことが出来なかった。
「たしかに、小羽さんは輪廻の環から外れた存在です。しかし、小羽さんは確かに此処に存在している……それもまた、事実です。
……おそらく人の世は、小羽さんの存在を認めないでしょう。なぜなら人の大半は「円環の理」に従う存在だからです。
死者は蘇らず、送られるべきもの。
生者と死者が交わるのは禁忌であり、もしそれがなされることがあれば、それを望んだものたちは何らかのペナルティを受ける―――よくある物語の設定ですね」
シロさんは、それは当然の理屈だと、再度念を押した。
たしかに、当然なのだと。死者は世界を渡り癒され、再びこの世界の地を踏むべきなのだと。
けれど。
「それでも、小羽さんは此処にいる。此処に在り、そして、東さん–――あなたと再会を果たした――――500年という時を超えてね。
これは誰にも覆せない事実であり、それはつまり、世界の真理です。
「円環の理」とは別の秩序により肯定された、「厳然たる事象」の一つです。
故に、小羽さんはβに渡る必要は在りません。世界は、小羽さんの存在を肯定しているのですから……けれどもし、小羽さんが向こうへ渡りたいとおっしゃるなら、私はお手伝いできます。
私は霊視能力者では在りませんが、幸いにも、世界移動の魔術師です。この世界の秩序に乗っ取った正規の方法以外の転移術でよければ、お送りすることも可能ですー――どう、されますか?」