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無限想歌  作者: blue birds
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夢想歌:占いの館にて2:人の理と、世界の理3:東 利也&寿 小羽

 小羽が生まれた経緯です。

夢想歌:占いの館にて2:人の理と、世界の理3:東 利也&寿 小羽




 魔法使いさんに、兄さまに出会う前のこと―――つまり、私が「眠っていた」ときのことを、こと細かく尋ねられた。


「眠っていた時のことは、よく覚えてません。私は、命を落としてから再びお兄様に出会うまで、とても深いところでまどろんでいました」



 眠っていた時のことは、よく思い出せない。けれど、私が死ぬ直前までの–――現在から数えるとだいたい500年くらい前のことは、はっきりと思い出せる。それはつまりは、兄さまが今の兄さまでなく、かつての弥生兄さまだった頃のことだ。



 ……自然と、うれしくなって笑みがこぼれる。

 お母様のこと、お父様のこと、そして、兄さまのこと。あるいは、お父様に使える城の者たちのことから、民のことまで。


 それに、なつかしい風土の光景。

 太陽のまぶしさに、風の心地よさ。ときには、冬の厳しさと、その時に感じる人の温かさ―――なんてものまで、私は魔法使いさんにお話していた。




「冬になると、私は兄さまの布団に潜り込んでは、婆やに連れ戻されていました。でも、ときどき寒さの厳しい夜は、兄さまが婆やを説得して、一緒に朝まで側に置いてくださったりしたこともありました」



 色々な話を魔法使いさんにしたけれど、途中でお兄様に止められてしまった。なんでも、「おまえ、しゃべりすぎ……」とのこと。


 それでも、蒼色の魔法使いさんは、「そう、わかったわ。ありがとうね」と笑いかけてくれた。



「あなたがどういう状況に置かれているかということは、ある程度把握しました。まとめると、あなたは生前の記憶はあっても、死後―――それこそ、昨日お兄さんに再会するまでの「記憶」があやふやなんですね?」



 ……わたしは、コクンとうなずいた。でも、認めたくない。

 私はただ眠っていただけで、決して、記憶喪失なんてものじゃないんだから。





 そんな私の心情に気づいたのか、魔法使いさんはばつが悪そうに顔を背けると、再び視線をお兄様に移した。



「さきほどもお話しましたように、魂がこの世界に存在するには、主に二つの形態のどちらかをとる必要があります。一つが「念」であり、もう一つが「霊」。これらの違いは、魔学では被膜の有無―――ひいては、固有世界の顕現と定義されます」





 魔法使いさんはキャンパスノートに「念」と「霊」と書くと、「霊」の文字だけを丸で囲み、その丸に矢印で被膜と付け加えた。




「この「霊」の実例が、小羽さんです。見ての通り、彼女は東さんと寸分変わらない存在であり、独自の意識を有しています。それは、彼女という存在が、外界と自身を隔てる境界を有する存在だからです。そして、私たち魔術師は、この独自の意識が構成する、被膜で包まれた境界内部の世界のことを、「固有世界」と呼んでいます」


 魔法使いさんは「霊」を囲む被膜の下に「意識=固有世界」と書き込むと、ペン先を「念」へと移した。



「この「霊」に対して、「念」とは一種の力場のようなもので、それ自身は固有の意識のようなものを持ちません。その点に置いて、「念」と「霊」は決定的に異なるモノです」



 「念」の下には、「念=力場=感情の増強」と書き足された。そして、魔法使いさんは視線を私に向ける。すこしだけ、哀れみが見て取れる表情の、魔法使いさんだ。




「人は死後、基本的に彼岸に転移して、魂の漂白を受けます。しかし、この理から外れたものは基本的に「念」と成り、世界を漂い続けることになります」



 そうして生まれた「念」は、その「念」が死ぬ直前に抱いた感情を増強するような力場として、世界に固定されることになるらしい。このような「念」が存在する力場は、生きている人にとってプラスに働くようならパワースポットと呼ばれ、逆の場合は–――。




「多くの場合、「念」となった者は半永久的にそのままです。それらは、周りのモノの感情を増幅しながら、また逆に、自身のその力を増幅させられながら、雪だるまのように、「ある特定の感情を増幅する場」という性質を膨れ上がらせて行きます」




 それが、「円間の理」から外れた者たちの、定め。自身が誰かも分からず、また、他の誰かに認めてもらえることも無く―――そんな空虚な永遠としてそんざいするのが、念。




「一度「念」と成ってしまえば、よほどのことが無い限り、それらが意識を取り戻すことはありませn。でも、例外もある。それが、小羽ちゃん、あなたよ」





 微笑む魔法使いさんはとてもうれしそうに、でもどこか寂し気に、私を見つめていた。



「霧散した存在にカタチを与える秘技–――この世界に置いては、主に霊視という異能者のみが用いることの出来る力なのだけれど、これを用いれば、「念」に「霊」というカタチを与えることが出来るんです」




 世界の「今と過去」を見渡す、異能の力―――霊視。

 この能力者は、「念」の過去を見通し、それらを読み取り利用することで、「念」に擬似的なカタチを「思い出させる」ことができるらしい。



「今回、「念」として眠り続けていた小羽さんに「小羽」というカタチを再構築させたのも、同じ力です。けれど、それは霊視というような特別な力が干渉したわけではありません。

 強いて言うなら、絆―――この広い世界と永きときの果てに、円環の漂白を超えて尚途切れることの無かった「縁」という概念でもって、東さん。

 あなたは、小羽さんを取り戻したんです。幾千幾万の幸運と、いつかの世界で東さん自身が魂に刻み込んだ何かしらの信念のもとに―――ね」


 


次は、サブタイトルの内容。


 人の理と、世界の理です。


二つは似ているようで、どうか違う。そんな、おはなしです。

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