第二章:無限想歌ー浅ー因縁再編・始祖と仲介人1・峰岸燈火&アイシュ、バルツ
誰かを前に、誰かであることを。あるいは、誰かが望む誰かでは無く、自身の望む誰かとして、誰かに臨むこと。それこそが。
第二章:無限想歌ー浅ー因縁再編・始祖と仲介人1・峰岸燈火&アイシュ、バルツ
宙に浮く銀の守護者を睨みつける霞み少年を前にして、私は自分が成すべきことを整理していた。めまぐるしく変化する現状に、私の思考は追いついていない。というより、現時点で私は、彼らに対する正答を導きだせるはずも無いのだ。
なぜなら、彼らに関する情報は余りにも少なすぎる。そのため、守護者と護衛対象の中がこじれているこの状況を、はなから想定していなかった。私は、どちらの肩を持つべきかーーーなどと、必死に思案を巡らせていると。
「仲介を生業にする一族にしては、見通しの甘さが目立つな。末姫では、この程度が限界か? ここは、特異点だぞ? 願望機に未来の介入者、そして、この私ーーーその懐に飛び込むにあたって仕込むネタが衛星一機程度とは、片腹痛い。もうちょっとマシなプランは無かったのか?」
声の方に、視線を向ける。そこには、かわいらしい顔をした、最強の吸血鬼いーーーもとい、至高の魔法使いが、私を見据えていた。そして、彼女は静かに椅子から立ち上がると、かわいらしい背伸びをした。
そのとき私は、私たち以外の全てが停止していることに気づいた。
魔法使いの独白は、な続く。
「そもそも、貴様らは彼の衛星を使って我々を監視ーーーもとい、盗撮していたのだろう? 被写体である我らに、断りも無くな。であるならば、貴様らの衛星が撃墜されたのは必然だ。というより、ハエの如く我々の上空を飛び回るゴミが目につくたび、貴様ら一族を何度根絶やしにしようと思ったことか・・・・・・あの小僧が意図せずして撃墜した時は、清々したくらいだというのに」
すっと、少女は床に降り立つ。音も無く、一切の気配も感じさせず。その、私の五感が伝える少女の一切が、あらゆる矛盾を含んでいた。目の前のものが、何なのか理解出来ない。目の前に居るはずのものが、信じられない。
「まあ、しかし、この状況も一興だ。何より、貴様らは空色の介入を経て、この領域に踏み込んでいる。その点を鑑みれば、貴様らには十二分に、その資格があるのだろう。ただし、この道を選ぶことそのものが、愚者の証だ。此処から先は、伝説の領域ーーーひとたび踏み込めば、貴様らは只人では居られない」
その領域に、踏み込めば。
ただそれだけで、
人が持つ全ての権利を、奪われる。
人としての尊厳を、全て奪われる。
その代わりに得られるのは、無限の苦痛に無数の怨嗟ーーー世界が、「絶望」と呼ぶ全ての災厄へのアクセス権。それが・・・・・・
「ただの人として、生きろ。無知のまま、無力のまま、ただの人として、生きろ。知る必要はない。貴様はーーーただの人間でしかない貴様には、過ぎたる重荷・・・・・・」
「私は、峰岸燈火です。まずは、貴様という呼び名を、改めて頂きたい」
ーーーー世界が、凍り付いた。それは、ある種の臨界点だった。私は、否定したのだ。至高の魔法使いが、私を「貴様」と呼ぶことを、否定した。そして、私は名乗ったのだ。至高を前に、「峰岸燈火」と。それは、シロさんのいうところの魔法だった。原初にして、終点を体現する、魔法の真理。自身がかく在るべきと望む、真名の祝詞。
それを、私は魔法使いを前にーーーー
紡がれるは、縁の物語。それはつまり、真名を探す物語です。