第二章:無限想歌ー浅ー因縁再編-1話:仲介人2・峰岸燈火
護りたいものを護るため、1つのプログラムはあらゆる縁から少年を遠ざけました。
その結果少年は、本来護るべきだったものを、その救いの手から取りこぼしてしまったのです。
TiPs~いつかの正義
かつて、宇宙人から、地球を救ったことがあった。
美しい地球を、悪い宇宙人から救ったとーーーそんなふうに、愚かにも、思っていたことが。
「あのとき、おまえは、言った。悪い宇宙人から、この地球を護る必要があるとーーーその言葉を俺は、信じた。信じて、戦った。そして、その悪い宇宙人をーーー何の罪も無い、異世界の漂流者を、俺は追い返したんだ」
振り返ると、そこには無数の武勇伝があった。
それと同時に、そこに在ったのは、同じ数だけの血塗られた過ちだった。
「なんで、おれは、おまえの言葉を信じたんだろうな? 彼らの話も聞かずに、何でお前からの話を鵜呑みにして・・・・・・!」
第二章:無限想歌ー浅ー因縁再編-1話:仲介人2・峰岸燈火
目を覚ますと、そこには土下座をしている2人の人間の姿があった。
1人は本日のターゲット霞君、そして、もう1人がその母親だった。
2人が、頭を深々と下げ、私の前に這いつくばっていた。
「家のバカ共が、ほんっっっっっとうに、ご迷惑をおかけしました。このバカ2人は決して他人に謝ることをしませんので、僕と母が代わりに謝罪させて頂きます!」
ゴンっと頭を床にぶつけ、2人は頭を上げることをしない。
そんな2人を前に、私は少しだけ罪悪感を刺激される。
なぜなら・・・・・・・
「地上げ屋よろしく乗り込んで来たその娘に、そこまで頭を下げる必要ないよ、霞? というより、さっさと記憶を消して、その娘を解放した方が良いと思うけどね。不可抗力とはいえ、峰岸の末裔を毒牙に掛けちゃったんだから。まあ、だから、ね? その娘には全てを忘れて帰ってもらわなくちゃね? そしたら、土下座は無意味ってことにならない? どうせ、僕が記憶を改ざんするんだから」
無機質な合成音声が、私の頭に響く。視線を上げると、私の目の前には銀の球体が浮かんでいた。私はしばしの逡巡の後、それがRP3o1を名乗る未来からの来訪者であることを悟った。
銀の球体より覗く無機質な一対のカメラには、一切の感情が感じられない。
また、そこに慈悲の類いも、持ち合わせていないようだった。
ただし、だからといって、この現状が万事休すというわけでもなさそうだ。
なぜなら・・・・・・・
「アール、これ以上この人に手を出すことを、俺は許さない。それが分かっているから、俺の帰りを待ったんだろう? なあ、アール? 俺は、もう、あの時の俺じゃない。お前に言われるがままに、数千の人々を殺したときのーーーあとのきの、クソガキじゃないんだ」
誰も、口を開かない。
母親は、静かに目をつむっていた。霞少年は、歳不相応の瞳で、銀の球体を睨みつけていた。そして、私を傀儡にした最強の吸血鬼にして至高の魔法使いはーーーこの現状を含み笑いを浮かべ、達観している。
ーーーしばしの、沈黙。
しばしの、静寂のあと、銀の合成音が答えを返した。
「いいよ、霞。君が望むなら、縁を再編しよう。なんの因果か、誰の思惑か分からないけれど、未来が不確定に成り果てた「今」となっては、現状を維持する意味も無いからね・・・・・・ただ、霞には分かっていてほしいんだ。僕は、君のミカタだよ。たとえ、数千数万の人間を殺してでも、僕は、僕の使命を——ー君の守護を果たす。それだけは、理解しておいて。」
誰かを救うために、誰かを救わない。
いや、救わせないーーーその結果が、現在です。