第二章:無限想歌ー浅ー因縁再編-1話:仲介人1
秋が、来た。
TiPs~元老院と終息点:少し先の未来
霞の眼前に立ちはだかる男こそが、諸悪の根源だった。
2つの学院を衝突させ、2つの世界をあわや消滅させかけた男ーーーどれほど強大な存在がそれを成すのかと夢想し、恐怖し、霞は彼の座にたどり着いたのだ。
そして、霞は見た。
その目で。
世界を壊しかけた男を、直視したのだ。
そして、悟った。彼はーーー弱い、と。
魔術師や魔法使い、あるいは異界の技術士達の集う院の長とは思えぬほどに弱く、無知で、そして、「心が狭い」男だったのだ。
それは、一騎当千の猛者を前にするよりもよほど性の悪い、外交における悪夢の化身そのものであった。
ー主人公2:霞:幼き英雄と、狭まる縁ー
霞は転移術式で謎の2人組から逃走した後、即座に家の玄関に逃げんこんだ。
それが根本的な解決になるとは思えなかったが、それでも維持的な心の平穏を取り戻せると、霞は考えたのだ。
しかし。
「お帰りなさいませ、ご主人様。さっそくですが、ご飯にしますか? それともお風呂にしますか? それともそれとも、私・・・・・・?」
しかし、目の前のメイドさんが、それを許してくれない。
というか、家にはメイドさんなんて居ない。メイドさんを雇えるほどの稼ぎなんて、自分の両親に無いことは、霞自身が十分に理解していた。
なのに、メイドさんが居た。
うつろな目と平坦な声で迎えてくれる、見知らぬメイドさんが、このタイミングで現れるなんてことは・・・・・・・
「霞、あんたはもう! もう、ちょっと来なさい! サリアちゃんが、その娘に噛み付いてお人形さんにしちゃったのよ!? もう、何度言ったら分かってくれるの!? お客さんはご飯じゃありませんって、何回言ったら・・・・・・」
リビングのドアをぶち破る体で這い出して来た母親が、憤怒の形相で目の前に居た。その奥では、素知らぬ顔で師匠ーーーもとい、最強の吸血鬼があきれ顔で霞を見つめていた。そして、ぼそっと悪態を零す。
「お前の親は、何時になったら分かってくれるんだ? お客さんだろうが誰だろうが、生きてれば私のエサなんだって、こんな簡単な理屈を、何時になったら・・・・・・」
その悪態に、キッと反応する母。
これに対応して、師匠はその意識を躯の底に沈めた。端から見れば可憐な、少女の擬躯の奥底に、逃げ込んだのだ。ああなったら、外からの事象はほとんどシャットアウトされる。もちろん、母の悪態なんて、届くはずも無い。
「アールちゃん! この娘を元に戻しなさい! アールちゃんならできるでしょう!? ほら、速く!!!」
羅刹のごとき母の怒りは、空中をフワフワと浮遊していた金属製の球体に向けられた。しかし、こちらも、うんともすんとも言わない。ただ、「衛星撃墜、取り立て阻止、要判断」の文字を銀色の体表に映し出すばかり。
「あ、あ、もう、めちゃくちゃだ。なんで、俺ばっかりこんな目に・・・・・・」
怒れる母と、なんとなく正体が掴めたメイドさん。そして、責任転嫁に走る師匠及び相棒を視界に治めながら、霞は何度目かも分からないため息をついたのだった。
温泉が、気持ちいい季節ですね!