第二章:無限想歌ー深ー学園と世界の防衛機構-1話:戦術拠点2
お金の話は、また今度!
第二章:無限想歌ー深ー学園と世界の防衛機構-1話:戦術拠点2
ー主人公2:霞:幼き英雄と、狭まる縁:姉妹世界α、何れかの荒れ地ー
空に輝く星々を指差し、始祖は霞に薄く微笑んだ。
ただただ微笑み、一の動作で、指先を霞みに移す。
その初動に対応し、霞とRP301は転移術式を起動した。
「彼方の輝きに、1人の青年が恋をした。何時の時代も、そんな変わりモノは居るんだよ。だが、報われない話だ。天と地に別れていては、それら2つが交わること等ありえない」
刹那、霞達が降り立つ地面が、面白いほどに弾け飛んだ。直径50cm台の隕石が、霞とRP301の残像を貫き、地面を抉り取ったのだ。しかし、まあ、言ってしまえばそれだけのこと。
大気に播き上がる粉塵は不快ではあれども、そのことを気に留めるモノは居なかった。
「ならば、どうすればよいか? 2つが、理を超えて結ばれるには、何を成せば良いかーーー? ああ、答えは簡単だ。 青年が天に昇るか、彼方の輝きが地に落ちるか。そのどちらでも、良い。ただただ、会えれば良い。「それ」が成されれば、青年は満足だったんだよ」
収まらぬ粉塵に、銀の駆動音が鳴り響く。
同時に、RO301の探索ドームから拡散したレーダーが世界を紅く染め上げた。
直後、振り抜かれた巨刃が粉塵を払うとともに、始祖を叩き潰すために殺陣を展開する。その理不尽なまでの「死」を、始祖は二の動作ですり抜け、三の動作で蓋をしにかかった。
「結果、青年は爆死した。夢に見た輝きを全身で受け止め、世界に散る選択をしたんだよ・・・・・・その狂おしいまでの愛を理解出来るなら、貴様は天の星々を意のままに降らせることが可能と成る・・・・・・それが、天恵式の3番目の魔術なのだが・・・・・・まあ、貴様には必要ないか?」
見た目は無垢な少女の指先が、5メートルは優に超える大太刀を指先で軽く押さえていた。同時に、大太刀の根元からは銀の駆動音が鳴り響いている。
降り積もる月光の中、銀の巨兵が腰のひねりで接触物を凪ぎ払おうと、不快な音を大気に響かせているのだが・・・・・・しかし、少女も巨兵も、一歩もその場を動かない。
その光景が、3秒ほど続いた次の瞬間。
巨兵の姿が掻き消え、大小無数の星が、少女の元に飛来した。
播き上がる噴煙と、轟く轟音。その中にあり、少女は凛として、当初と変わらず薄い微笑みを携えている。
「召喚術の応用か・・・・・まあ、それでも星を落とせなくはないが、呼ぶ対象は選べん上に、着弾点は自身の一点意外に無し。帰結として、初動で敵に肉薄し、次点で召喚術、最終的に回避術式を迫らせる。貴様、そのどれか1つでも妨害されたら、どうするつもりだ? はっきり言えば、カウンタースペルの対象段階が一連の動作で2つ以上在る等、戦術として及第点以下だ。発想は良いが、相も変わらず、途中が汚いんだよ、お前は。これが模擬戦だからという「たるみ」が、透けて見える。我が弟子ながら、少しばかり灸が必要か?」
星々の轟音の中、聞こえるはずの無い始祖の声ーーーもとい、師匠の死刑宣告を、巨兵の探索レーダーは拾っていた。そして、巨兵の中央にて弟子はーーーもとい、霞は苦笑いを零し、ふと、こう呟いた・・・・・・
「おれ、星の恋するようなキャラじゃないし・・・・・・と」
※
ー主人公1:東:縁の渦ー
学園の所有する人工衛星が、何者かによって撃ち落とされたーーーという「吉報」が寄せられたのが、渡りに船だった。
・・・・・・と、東は思う。
「一昨日、ユーラシアA13地区上空を通過していた我が校が所有する人工衛星が、何者かによって撃墜されました。この件について、あなたにお伺いしたいことが在るのですが・・・・・・霞君? どうかしましたか? 顔色が悪そうですよ?」
うららかな秋の紅葉の中、絶世の美女ー——とまでは言わないが、そこそこの清楚系美人である栞が、氷の表情で帰宅途中の小学生をとっちめていた。彼の小学生の名は、「霞くん」という。
「・・・・・・なんで、俺なんかに聞くんですか? おれ、ただの小学生ですよ? 小学生が、人工衛星落とせるわけ無いじゃないですか?????」
目を泳がせながら、「ただの小学生」である霞君は、名札を隠した。誰も君が落としただろうとは聞いていないのに、偉い慌てようだ。そして、「それじゃあ、おれはこれで・・・・・・」と、その場を静かに立ち去ろうとする。
・・・・・が、しかし、栞の魔の手がいたいけな小学生のランドセルを鷲掴みにし、その逃亡を阻止した。併せて、「ぐえっ」というカエルを踏んだような奇妙な音が、霞君の喉から吐き出される。
「また、私たちの他に某国の衛星も撃ち落とされたようで、先方の大統領は少し機嫌が悪いようでした。まあ、しかも、撃墜された場所が某大国の上空なのですから、本来は「軍事危機」が発生していても不思議でないこの状況・・・・・・を、治めたのは誰だったかしら? ねぇ、東君?」
振られた魔王の言葉を即座に拾い、零さないように「台詞」を返す。
これで失敗したら、次に締め上げられるのは小学生では無く、俺の方だ。
「俺たちだよ、栞。俺たち瀬戸高の各名家と、何より、「峰岸」の家が総出で事を治めたから、なんとか丸く収まった。・・・・・・まあ、危なかったよな、確かに。」
決められた台詞を筒なく吐けた安堵感が広がると同時に、一筋の罪悪感が心の一部に走った。だって・・・・・・
「い、いや、嘘だ! 確かに1つは落としたかもしれないけど、絶対に1つだった! だから、今の話のどっちかは絶対に1つが嘘・・・・・・あ」
あわてて口を塞ぐ、涙目の小学生、霞君。
ぷるぷると怯える彼の目線に合わせるように、栞はそっとしゃがみ込んだ。
見るだけで心臓を凍結させてもらえそうな壮絶な笑みを、少年にまんまるに見開いた眼光にねじ込むように、栞は、一言一言を、紡いでいく。
「正解です、小さなテロリストさん? 撃ち落とされた衛星は一機で、我が校が所有する○○○○●万円の最新式のもの。ちなみに、霞君のお父さんの年収は○○●万円だから、一体お父さんは何年ただ働きすれば良いのか、計算出来るかな? もう、小学校の最高学年なんだから、出来ないなんて、言わない・・・・・・よね?」
やさしく、かたりかける、魔の少女、栞。
その魔物を前に、霞君はがくがくとあごを振るわせながら、「だって、俺は星を喚んだだけ。それだけ。なのに、あっちが勝手に落ちて来て・・・・・・」と、俺もさんざんやった小学生ならでは言い訳を並び立てている。
がしかし、それで済めば、警察は要らないというか、それでこちらが済ませる気がないのだから、どうしようもない。
「人工衛星も、星です。現代ではね? まあ、あなたの言い分が何であれば、あなたは「星」を落とす目的で、我が校の「衛星」を落としたと「言質」を頂きました。さあ、親御さんの元に向かいましょうか? 親御さんは、あなたが魔術師であると知って・・・・・?」
起動、の一言ともに、ただの小学生は何処となく掻き消えた。
まあ、逃げた先がどこであれ、彼の母親はあいつが押さえているから逃げられるはずも無いのだけれど・・・・・・
最近暑くなってきましたね!