第二章:無限想歌ー深ー学園と世界の防衛機構-1話:戦術拠点1
今回の物語は、2人の主人公に、2つの学園です。
過去からの縁が、2人の主人公を結びつけます。
TiPs~揺らぎの世界と、揺るがぬ悪意
世界が、揺らいでいる。
翻って、それは世界の滅亡が「不確定事項」と成ったことを意味していた。
あれほどまでに明確だった世界の滅びがぼやけて、曖昧模糊の体を成している。
・・・・・・しかし、それだけのこと。
依然として、世界は「滅亡する定め」にあった。
なぜなら、そこには歴然として揺るがぬ「悪意」が存在したからである。
第二章:無限想歌ー深ー学園と世界の防衛機構-1話:戦術拠点1
ー主人公1:東:縁の渦ー
ゲート012と名付けられた巨大なワームホールが、学校の真上に空いているらしい・・・・・・と聞かされたのは、今から逆算して二月ほど前の話だ。
そう、件の世界改変事件(未遂?)のゴタゴタが一段落した後すぐに、そんな話を峰岸達から持ちかけられた。
「現在、地球上に確認されているワールドゲートの数は大小含めて、約100個。その内、戦車や戦闘機と言った戦術兵器の運搬をこなせるサイズの物が、全部で18個。そして、それらのゲートサイズで12番目のものが、瀬戸高校上空に展開している・・・・・・っと、此処までは良い?」
学園の俯瞰図の中央を指差しながら、峰岸は前回の会合を振り返った。確か、そのときの話し合いも、この教室・・・・・・もとい、茶道部の離れを使わせてもらった気がする。
「覚えてるよ、そんくらい。んで、今日の本題は・・・・・・ゲートの向こうに存在する、「学院」に留学生を派遣することーーーだろ?」
異世界の扉に向こう側に存在する教育機関ーーー「院」から「交換留学」の打診があったのが、約1ヶ月前だ。 その留学生候補に「如何にして選出されるか?」が、目下の俺たちの目標だ。
ちなみ、この事実は瀬戸高校の一般生徒には公に告げられていない。この事実を知るのは、ほんの一握りの人間だけだ。なぜなら、そう、「情報を得る」という段階で、すでに選定は始まっている。まあ、俺は友人である峰岸達から伝え聞いただけで、俺自身がその選定に見合う人間ではないのだけれど。
「分かってるなら、なんでヌボーットしてるの? 私と栞は既に当確ずみだけど、あんたは未だでしょ? 平民の分際で、何してんの? バカなの?」
・・・・・・この時代に生まれて、まさか本当に平民呼ばわりされる日が来るとは思わなかった。しかも、数少ない戦友にだ。
「いや、何もしてないことは無いんじゃないか? この間の期末だって・・・・・・」
「あんなペーパー1つで、「異世界への使節団入りできると思ってました」とか言わないでね? 「あれ」は、ただの形式的な物。ここが日本の高等学校の冠を被ってるから行われてるだけ。というより、根本的に、あんたの成績真ん中だったじゃん。頑張ったの? あれで?」
最近、とみに峰岸の当たりが強くなって来た気がする。だからと言って、言ってることは正論なので、何も言い返せない。
「あれはあれで、精一杯やったよ。ただ、「あっち」の方も話は進めてる。一応、「守護者」のアポ取りには成功した。ただ、「霞君」を政治的な目的で使うのは許さないって言われて・・・・・・」
表情を打ち消した峰岸が、底にいた。その顔から、「だから、何?」という考えが、ありありと見て取れる。
「あんたさ、「許さない」て言われて、「はいそうですか」じゃ、これまでの連中と一緒でしょ? だからこそ、此処でで結果を残せば、あんたは「こっち」への足がかりを築けるの。それに、霞くんだって、私たちの力が必要になる日が絶対にくるって! あの銀の守護者のやり方じゃ、いつまでの彼を守り通すことは不可能なの。 分かってるでしょ?」
ふと、視線をちゃぶ台の上に下ろすと、そこには年端も行かない少年の笑顔があった。彼の名は、霞。通り名は、「収束点」。あるいは、ゲート01。
・・・・・・無邪気に笑う、その少年の上空には、地球上で最も強大な、「可動式ワールドゲート」が展開されているらしい。
まあ、そんな人間を学園に引き込めたなら、俺の社会的地位は確かに比類亡き者になるんだろうけど、ただ・・・・・・・
ー主人公2:霞:幼き英雄と、狭まる縁ー
俺は庭でコロコロと転がるアールを片隅に、空を見上げた。そこには、クジラが舞う空も、巨大な穴も空いていない。そのことが、ただただ不思議でならなかった。
「霞、どうしたんだい? そんなに空を見上げても、かわいい女の子は降ってこないよ?」
いつもの人を小馬鹿にしたような横やりを、アールが入れてくる。その球体に刻印された「RP301」というロゴが、ちらりと目に入った。
まあ、それは良いとして。アールがこんなことを言い出す時は・・・・・・
「俺に、空を見上げて欲しくないみたいだな? ・・・・・・前回の次元振から、もう2ヶ月だ。なんで、何も無いんだよ? あんなに大きな次元振があったのに、なんで、何も無いんだ? 香織さんの時と比べても、遥かに巨大な波動だったのに・・・・・・」
俺は、アールの無機質な瞳・・・・・・水晶から作られたレンズへと、視線を注いだ。そこには、感情の一切が反映されていない。真っ青な、深い海色がたゆたっているだけだ。そこからは、何も読み取れない。
「さあ、何だろうね。確かに気になるけど、でも、何も問題が起きてないんだから、問題はないんだよ。もし、霞と僕の力が必要なら、世界は僕たちに危険を伝えるはずだから。だから、今回は静観していれば良い。まあ、現時点では・・・・・・だけれど。」
次回は、ほんわか話かな・・・・・・?