夢想歌:占いの館にて1:人の理と、世界の理2:東 利也&寿 小羽
「あなた、こいつのことが見えるんですか!?」
おもわず、俺は叫んでいた。ひょっとすると、他の部屋の連中にも聞こえていたかもしれない。
「う、うん、見えるけど……とりあえず、中入ったら?」
若干引き気味に答える占い師。
彼女は、「どうぞこちらへ、荷物はその辺に置いてね」と、再度、おれでなく幼女に笑いかけた……なんか、気まずい。
「失礼します」
俺は一言断ると、玄関をあがった。
部屋の内装は、テレビであるような占いの館っぽいそれだが、かなり狭い。外から見た感じで狭いことは分かっていたが、何に使うのか見当もつかないモノで部屋は溢れ帰っていた。
俺自身は少し薄気味悪さを感じたが、幼女の方はそうでもないらしい。目をキラキラ輝かせながら、部屋あの中をきょろきょろと見渡していた。
俺はそんな幼女に「下手にその辺のもんに触るなよ」と言いつけたあと、占い師の前に座った。
すると、なぜか幼女も俺の隣の席に座り、「今日は兄さまがお世話になります」と占い師に頭を下げたーーーいや、なんか言いたいことあるけど、ここは我慢だ。
「初めまして、クライアントさん。わたしは、シロ。気軽にシロって読んでください。
さて、それでは本題に入りましょうか。今日はどんなご用件で?」
占い師は、任せといて!」と幼女に微笑みながら、俺に向き直る。
自然と、俺と占い師は真正面から向き合うカタチになるのだが、なにか、釈然としない。おそらく、占い師の容姿に原因があるのだろうけれど。
( なんとなく幼く見えるとうか、俺より年下にしか見えないけれど、まあ、本物なんだろうな……こいつのこと、見えてるし)
なんとなく、いざとなってみると目の前の占い師がたより無さげに見えてしまう。
……それでも、言うしかあるまい。少なくともこの人は、幼女を見て驚かいないくらいには、おれより「こういうモノ」に耐性があるのだろうから。
「えええっと、実は……」
実は、俺に取り付いているこの霊を除霊してほしいんですーーーと、言ってみた。
てか、言っちゃったよ。ちょっと、自分で言って恥ずかしかった。
「ん? 霊って、その娘のこと?」
占い師は不思議そうな顔をして、「どうして?」と、逆に俺に問いかけて来た。
どうして、幼女を除霊する必要があるのかと。
「いや、なんでって、それはーーー」
それはーーーと、今日ここに至るまでの経緯を占い師ーーーもとい、シロさんに細かく話した。こいつが俺のところに来てから、ろくなことがないと。
たしかに、コイツのせいで死にかけたとか、そういった命の危険を感じたことはないけれど(目潰しがフラッシュバックしたが、黙殺した)、それでも明らかにひどいことばかりが昨日から今日に掛けて、この身に降り掛かかっていることを。
「それに、こいつは俺を兄貴と勘違いしてるみたいなんです。でも実際のところ、俺には妹なんか居ませんし、ましてやコイツとも初対面です。なんか、こいつの兄貴に俺が似てるとかですかね? こいつが、俺のことを兄さまって呼ぶのは……」
正直、おれは幼女に兄さまと呼ばれるたび、胸が締め付けられるように痛む。
こいつは、俺を心底兄貴と勘違いしてるみたいで、その、「兄さま」にむけられた笑顔を受け取る他人の俺としては、幼女の笑顔が純粋無垢であればある程、痛々しくて見ていられないのだ。
「それに、そのなんていうんですか……こいつがこういう風に成仏できてないってことは、おかしなことじゃないですか?
だったら、それはただしてやらなきゃとも思うんです」ーーーと。
俺は、一通りの希望をシロに述べた。
要点としては、幼女を俺から引き離してほしいこと。そして出来ることなら、こいつの未練(?)をはらして成仏させてやってほしいこと。三十分ほど話して俺がシロに伝えられたことは、たったそれだけだった。
しかし、それだけの内容でも、叶えられれば十分である
「う〜ん、あなたの言いたいことは分かりますけど、それはなんとなく身勝手な「願い」ではないでしょうか。
すくなくとも、私はその娘がβに自ら転移したいと思ってるようには見えないんですけど……」
幼女をチラ見して、シロは俺に申し訳なさそうに反論する。
俺もシロにつられて幼女を見たが、「わたしは成仏しなくてけっこうです」と言わんばかりの態度で俺をキョトンと見つめていた。
「え〜っと、たしかに俺はコイツから直接成仏したいって聞いたわけじゃないんですけど……というより、βってなんです?
転移って、何の話ですか? 俺は、こいつをそのーーー天国というか何というか、もしそう言う所があればそこに連れて行ってあげたいって言うだけなんですけど……」
なんか、話がかみ合ってない気がする。なんか、根本的な所で認識のズレがあるような感覚だ。
そしてそれは、気のせいではなかったらしい。
「ああ、あなた、霊能者じゃないんですね? あなたは、「魔術師」としての私を頼って来たんじゃなくて、占い師としての私を頼って……」
多少乾いた笑みを浮かべるシロさん。小声で「ヤバい〜」と言っているのは無視しておくとして、とにかく俺はこういうことには耐性が全く無く、取り付かれたって何もしてやれないとの旨を、シロに今一度告げた。
「え〜っと、つまり、あなたは……」
その後、シロさんから問われる、十は軽く超える質問に答えることになった。
時間からすれば、モノの数分だったように思う。
シロさんは、その綺麗な頭をぼりぼりとかきながら、少し話は長くなりますがよろしいですかと、姿勢を改めて話を切り出した。
それに対し、俺も今一度きちんとシロさんと向き直り、「時間はいくらでも」と、答えた。
※
「まず、あなたに言っておかなければならないことは、天国は存在しないということです。しかし、それは「あの世」を否定するわけでもありません」
シロさんが言うには、俺たちが「あの世」とか「彼岸」とか呼んでいる、死者が向かう世界はここと変わらない、ある意味では普通の世界らしい。ただし、こことまったく同じかというと、そうでもないとのこと。
「この世界と、死後の世界は、二つで一つの世界なの。この世界ではもう1つを「あの世」とか「彼岸」と呼ぶみたいだけれど、私たちのように世界が複数存在することを知るものタチの多くは、ここを姉妹世界α、あちらを姉妹世界βとよんでいるわ」
キュッキュウーーーと、シロさんはマジックでキャンパスノートに二つの円を描くと、それぞれにαとβの文字を書き込んだ。
そして、二つの円をアーチ型の線で結び、話を続ける。
「二つの世界が「一つ」と呼ばれる所以は、この両世界に置いてのみ見られる、精神物質……分かりやすく言うと、「魂の循環」に端を発するわ」
魂はαで物語を刻まれて、βで漂白される。それは人という存在にのみ当てはまることで、他の生物ではなり得ないことらしい。
「具体的言えば、αでは赤ちゃんとして生まれてきた人間は、こちらの世界では年老いて行く。そして、それにともなって人間は色々な傷を魂に刻み込んで行くの。それは、良いもの悪いものの区別は無しにしてね」
シロさんは、αと描かれた円の下に、「記憶」とか「感情」とかを書き込むと、それらを囲む大きな円を描き、そのくくりに「傷」と名を打った。
「それで、この傷ついた魂はーーー命が尽きたときに、対岸のβに転移するの。イメージとしては、テレポートに近いわ。
命が尽きたその瞬間の状態で、全く別の世界に転移させられるの」
そして、こちらで傷ついた魂は、そのβという世界で第二の生を歩んで行くらしい。今度は、真っ白になるために。
αという世界で得た色々な者を、こちらの流れに遡行しながら、「若返る」ことで全てを忘れ去って行くのだという。
「で、βでの寿命ってのは、こちらの生後三ヶ月くらいかな?
そのくらいのサイズに魂が達すると、自然とαに存在が再び転移するの。もちろん、向こうにも、「到達点」に至るまでに「死」んでしまう魂もあるのだけれど、それはその時点でαに転移することになる」
そして、再びαに戻って来た魂は、そこから新たな傷を抱えるために、第三の人生を歩みだすというのだ。
「まあ、これがざっくりとした、「あの世」と「この世」の仕組みかな?
もちろん、この仕組みは姉妹世界に置いて見られるもので、他の世界ではあり得ないことよ。ふつう、魂は肉体からはなれたら、その存在を維持できない。命が尽きた時点で、消滅するーーーいえ、世界に還るっていうのが正解かな?
……つまり、私が言いたいことは、この姉妹世界は非常に安定して魂が存在できる不思議な世界って言うこと。基本的に魂が安定してるのは、二つの世界を誘導的に巡っているからって今のところ言われているけれど、その説を否定するような、例外もある」
そういうと、シロさんは幼女に視線を移した。そして、続ける。
「姉妹世界の「円環の理」よりはずれてなお、存在し続けるモノーーーそれが「念」であり、「霊」。
それは、その娘の前身であり、現在よ」






