32番目の物語:前世からの因縁、不確かな絆(いま)、そして、遥かなる未来:無限に連なる、想いの歌:東利也&伊吹由香
とりあえず、終わりです。
おつき合いくださった方、ありがとうございました。
また別の作品も読んでもらえたら嬉しいです!
32番目の物語:前世からの因縁、不確かな絆、そして、遥かなる未来:無限に連なる、想いの歌:東利也&伊吹由香
「それでは、伊吹先輩。私たちはこれで失礼します。東君も、また明日」
俺への別れの挨拶は、あくまでも由香のおまけとばかりに・・・・・・いや、もういいか。今更そんなの気にしても、しゃあないし。栞らしいといえば、栞らしい、別れの言葉だ。
「それじゃあ、先輩、また明日!」
そう、峰岸に比べたら、かわいいもんだ。あいつは俺の存在を、清々しいまでに無視してきびすを返しやがった。もはや、奴の言葉尻からは俺の存在の片鱗すら感じ取ることが出来ない。
・・・・・・最近富みに俺への扱いが、酷くなっている気がする。
「じゃあね、栞さん、またね、燈火!」
夕日を背に、お辞儀をする二人。そんな彼女らに元気よく、手を振り替えす恋人——なぜにこいつは、俺のフォローをしてくれないのか。
恋人がこんなぞんざいな扱いを受けていながら、なぜにそんなに笑って手を振ることが出来るのか?
「さ、帰ろ、利也。ひさびさに、下校が一緒だね〜」
いつもお互いにバイトや部活動がわずかにすれ違うため、なかなか一緒に返ることが出来ない。そんな俺たちにとって、確かに今日という日は、たなからぼたもち的な有り難い日でもある。
「んだな。じゃあ、帰るか。つっても、並木道までだけどな・・・・・・」
にししと笑う由香より先に、一歩を踏み出す。
夕日に背を向けて、家へと歩みを進める。
一歩一歩、家へと。俺の、今の居場所へと————俺たちは。
※
「にしても、ロマンチックな話だよね? 私たち、前世からの絆で結ばれてたんだよ? なんか、信じられないな〜」
俺の先を歩く由香が、夕闇の空を見上げながら、呟いた。
そんな彼女の表情には、憂いと切なさ片鱗が、透けて感じられた。
そう、そこに、喜びや幸せは、ほんの僅かにしか感じられない。
「ロマンチックもなにも、その前世じゃ結ばれて無いだろ、俺ら。しかも、二人とも最後は殺されてるし。
あと、後ろ向きで歩くの止めろって、前から言ってるだろ・・・・・・」
俺は、口にする。由香の憂いと切なさの、根源を。
由香の中に潜む、静かな不安の幻影を。俺は、直視し、それを言葉にする。
「って、きびし〜な〜、利也は・・・・・・もうちょっと、乙女の心を労るとか無いの? もう、いいムードが台無しだよ!」
困り顔で目を細める、俺の愛しい人。
その人のそれは、困った子を優しい目で見つめる、頼もしい姉のそれで。
そして同時に、背中を預けることを許した相方への、後ろ向きな感情で。
「はいはい、俺が悪かったって! あと、空気が読めない男で悪かったな! でも、そんな「数百年も前の話」を掘り返されたら、誰だってそうなるって。それに、それだって人から伝え聞いたもんだろ? そんなの——————」
そんなもの。いや、そんなもの、だからこそ。
だからこそ、現在の俺たちには関係ないと。
いま、このときを生きる俺たちには、それは過去の話でしかないと。
俺は、暗に返す。言葉にせず、言葉にしたものを。
言葉にならない想いとともに、それを言葉でない何かで、大切な人に伝える。
「・・・・・・はあ。もう、いい。もう、いいよ。利也の、ば〜か」
ば〜かの、一言。それを合図に、由香はくるっと反転し、前を向いて歩き出した。そんな彼女の表情は、当たり前だが見て取ることは出来ない。ただ、彼女の一歩がさっきよりも幾分しっかりと台地を踏みしめている。そのことだけで、俺は今の彼女の表情を、心に思い描くことが出来た。
そしてそれが正しければ、今の由香は、無敵の由香だ。
太陽の、化身。数多の財閥が集う学園にあり、なお輝く「もたざるもの」。
そんな、彼女になら。
「魔法とか超能力って、アホみたいな話だよな?」
「うん」
「此処じゃない世界ってのも、あるらしいぞ?」
「うん」
「俺たち、タイムトラベルしたんだっけ?」
「うん」
「そんでもうすぐ、世界も滅ぶらしいし。」
「うん」
「それでさ、由香」
————————八つ裂きばやに、俺は言葉にする。
俺の不安を。俺の、恐怖を。
それは、つまり——————
「俺たち」、止められるかな?
世界の滅亡なんて、馬鹿げたものを。
世界の危機なんて、突拍子も無いものを。
魔法使いでも超能力者でもない、只の人間が。
過去も現在も、ましてや数刻先の未来さえ見透かせない、ただの人が。
かつて大切なものを、守れなかったくせに。
ただの数百万石の国させ、守れきれなかったくせに、今度は世界丸ごとなんて。
守るべきものを、奪われたくせに。
奪われ、そしてそのことすら、忘却の彼方に押し流されたくせに。
そのくせに、今度は、奪うこと無く、そして、奪わせることすら許さず。
世界に存在する、一切の大切を蔑ろにすることなく。そして、それらを踏みにじらせること無く。そんな、矛盾を。そんな、ありもしない理想を。
そんな、あるべくもない幻想を———————————
「できるよ。『私たち』なら、出来る。二人じゃ無理だけど、『私たち』なら、不可能じゃない。だから、大丈夫。だからきっと、いつの日か」
いつの間にか、俺たちは分かれ道にたどり着いていた。
右に行けば、俺の家へ。左に行けば、由香の家へ。
「そうか、『俺たち』なら・・・・・・『俺たち』なら、そうだよな。
できるよな・・・・・・いや、それも違う。やってやらなきゃな、ならないんだ。今度こそ。今度こそ、『俺たち』は。そして、「俺たちは」、今度こそ、あいつを」
その日、その言葉を最後に、俺たちはそれそれの帰路についた。
互いに交わした、最後の言葉は。
それは、あまりも未成熟で、俺たち本人からさえ見るに耐えないものだったけれど。
けれど、そこへは確かに「二人」で歩んで行けると。
そしてそして、きっとその道中で、その「二人」はきっと、無数の矛盾を超えて。
必ず、「三人」に、なれるのだと。そのときの俺は、思っていた。
アホらしくも、「三人」になれると。そう、未熟であるが故に視野が狭く、だからこそ。
そのときの俺たちは、本当に本末転倒ながら、完全に「家族」のことを失念していたんだ。
※
32番目の物語:前世からの因縁、不確かな絆、そして、遥かなる未来:無限に連なる、想いの歌:巡る想い、紡ぐ未来:東利也&
夕飯の支度をしていると、いつの間にかお星様が空であくびをしていた。
ふと時計を振り返ると、午後六時を回ったくらい。
今日がカレンダー通りなら、もうすぐ玄関が勝手に・・・・・・
「ただいまー」
そう、玄関のとが勝手に開いて、声が聞こえる。
声が聞こえて、私が駆けて行くと、おっきな背中が見えてくるんだ。
その背中はまるまってて、どうかすると小さくも見える。
でも、それは靴ひもをといてるせい。
そして、、それは数刻もすれば。
「今日の飯なに?」
数刻もすれば、大好きな人の顔が、私を迎えてくれる。
そして、私はその人に今晩のおかずを伝えるんだ。
毎日一品一品、些細なことを。まるで、さも大切な何かのように。
そしてこりもせず、言葉にする。本当に、些細なことを。
空気みたいな、透明なことを。あって当たり前を、口にする。
そう、それは
その、大切な、言の葉は。
「お帰りなさい、にいさま!」——————と。
今度は、何を仕上げるべきか。
all or noneを、第一案に考えてます。