無限想歌:true end:エピローグ2:決意の先に待つ、未来
いつかくる、崩壊のときに。
青年となった少年は、一手を打つ。
無限想歌:true end:エピローグ2:決意の先に待つ、未来
「私たちのこと、あの二人は許してくれないでしょうね。ましてや、あの娘なんて、怒りのあまりに東君を取り殺しちゃうかも?」
耳を打つのは、栞の声。初めて会った時よりも、いくぶん柔らかくなった気がする。だが、その声が語る内容は以前と変わらず、厳しいままだ。
でも、それでいいのだと、俺は思っている。
「そうだな。たぶん・・・・・・というか絶対に、あいつらは俺に怒るよな。お前じゃなくて、俺に。いつだって、悪者は俺一人だけなんだからな・・・・・・」
目をつむらなくたって、三人の三者三様の激怒の様子が網膜に浮かぶ。
由香は基本的に静かに怒る方だからまだいいとして、峰岸は半泣きで俺をののしるだろう。でも、あいつは罵詈雑言を浴びせても、手を上げるようなことはしない。ただ、小羽は別だ。
あいつは十年経ってもちっとも成長しない小さな手足にでたらめに振り回して、俺をボコボコにするだろう。「一体全体、なんで栞様なのですかっ!?」って、わめき散らしながら。
----なんとなく、おかしくなって、俺は笑った。
そして、俺はいずれ現実のものとなる三人の幻影を前に、手元の書類へと順次必要事項を記入してく。
自分の名前に、現住所。あとは、今してる仕事や、戸籍なんかも・・・・・・
「500年の別離の果てに、東君、あなたは・・・・・・・大切な二人を取り戻した。一人は愛する女性で、もう一人は大切な妹。
かつて人の業によって奪われた二人を、今代であなたは取り戻したのに・・・・・・それなのに、今あなたは、その二人を捨て去ろうとしている。自らの意志のもとに」
ため息まじりの栞の声には、疲れが見れた。俺に向けられる言葉の刺にも、キレがない。というか、それ以前に、彼女はこういう類いの弱みを普段は口にしない。
そう、彼女がこういったことを零すのは、よっぽど近しい人間のみ。それは例えば親友で恋愛対象の峰岸だったり、あるいは神道の申し子・神崎だったりを筆頭にするのだけれど、でもまあ、俺だって栞の「夫」になる人間のだから、別段おかしいことではないのだろうか?
「それはお前だって、同じだろ?峰岸loveは、相変わらずだろうが。他の連中ならともかく、お前にだけは言われたくないな」
そう言いつつ、俺はペンのキャップをキュっと閉める。
そして、たいそう厳かに、俺の項目が記入済みの「婚姻届」を栞へと差し出した。
彼女は、それを心底嫌そうに受け取る。そして、もう一度深いため息を零した。
「ほんとうに、ね?ほんとうに、ばかだよね、私たち。考えうる限り、最悪の選択なのに・・・・・・あのときあなたを信じていれば、この悲劇は避けられたのかな?」
栞は、筆を進める。名前。住所。国籍。そして、その他の項目。
黙々と、彼女は筆を走らせる。この状態の栞にちょっかいを出すと大変な目に合うことを、俺は学習済みだ。
だから、俺も栞に習い、黙して待つ。
いくら此処でーーーー
※
「お目覚めかな、東君?人の目を見て眠れる人って、私初めてでどうして良いのか分からなかったよ。ほんとに、神経図太すぎじゃない・・・・・・?」
はっとすると、目の前にはあきれ顔の栞が座っていた。
見慣れた学び舎の椅子に腰掛け、これまたおなじみの机に膝をつき、俺を見つめている。
俺たちが居る場所は、学院だ。そう、瀬戸高校。
俺が通いなれた、今の俺の居場所の一つ。
「・・・・・・すまん。でも、おっかしいな?いつの間に俺は寝たんだ?
え~?」
ぼーっとする頭で、再度現状を把握しようとする。
自分の名前、住所、そしてーーーーー婚姻届け。
でも、その人生を左右するような紙切れは視界の内にはなく、
ということは、さっきのあれは夢でーーー?
次で、ラスト!