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無限想歌  作者: blue birds
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無限想歌:true end:エピローグ1:未来への一手

エピローグなのに、続きます。あと、二回ほど。

 無限想歌:忘却の御手(仮)と、仲介者:未来への一手:伊吹&峰岸





 その節は大変お世話になりました、とーーー伊吹先輩は私に、ソーダアイスをくれた。まだまだ熱さの残滓が残る季節のためか、先輩がくれた水色のアイスは少しふにゃけてしまっている。

 案の定、袋から出したアイスはべちょべちょで半分ゲル化していた。



「別に、お礼は結構ですよ。

・・・・・・にしても、これ、融け過ぎですよね。こんな場所だと、なおさらーーー」





 びゅん私たちの間を吹き抜ける風は、ビル風と呼ばれる類いのもの。セットした髪の毛を台無しにするほどの強さはないけれど、融けかけのアイスを張り付いた棒から引きずり下ろすには、十分な力強さだ。


 このままでは黙ってても数刻でアイスはご臨終してしまう。

 なので、「頂きます」と、先輩に短くお礼の断りを入れた私は、アイスにかじりついた。氷菓子特有の甘さが舌をつき、その刺激にダイエット中の体がここぞとばかりに歓喜のファンファーレを奏で出すーーーというは、まあ、余計な話。



「ずいぶんと日が低くなっては来たよね。

もうすぐ、夏も終わりかー」




 校庭を覗き込みながら、先輩は「秋は秋でいいけどね〜」と、誰とも無し呟く。

 私の何となく先輩の視線を辿って、校庭に視線を向けた。校庭には、複数のサークルがひしめいている。校庭はさして狭いわけではないのだけれど、無駄に縄張り意識が強い人間が集まっている学校だからか、結局はそう、窮屈になったちゃうんだよね。いろいろと、ね。





「夏の終わりを嘆く前に、心を配ること、もっとあると想いますけど?

・・・・・・あれから、どうなんです?あのーーー霊は?」




 軽いジャブを放つ。

 ペンペンと、軽い奴をね。


 イメージとしては、先輩の胸をポフポフと触る感じかな?



「霊って・・・・・・もう、燈火ってば。ちゃんと小羽ちゃんって呼んであげてって言ってるのに!この、偏屈もの〜」



 何を想ったのか、私の顔へと手を伸ばす伊吹先輩。

 これまでの経験から、この手に捕まった私は、髪をわしゃわしゃとかき回されるのがオチだと知っている。そう、ソーダアイスでべたべたになった手で。

 ・・・・・・私みたいに、先端を下にして根元から食べれば汚れないのにーーーとは思うけど、その前に私は身を翻して伊吹先輩から距離を取った。


 結果として先輩は私を捕まえ損ねたわけで、

 しばらく行き場を失った手を寂しそうにプラプらとさせていた。

 ・・・・・なんとなく、そんな先輩を見ていると罪悪感がこみ上げてくるーーーこれが、彼女の魅力のなせる技なんだろうか?

 


 


「会えてないから、分かんない。知ってるでしょ?

燈火の見張りも強固だし、それに、さすがに、しばらくは大人しくしとかないと利也がぷっつんしちゃうだろうしね」





 恨めしげな目で私を見る、伊吹先輩。

 その目にこもっている感情が本当に恨みつらみの類いなら、万事良好ということだ。

 もしあれが演技なら、東にちくって指導を入れてもらわなきゃならない。



 ーーーあの、一日。

 時空改変の危機を切り抜け、なんとかその後の後始末を丸くおさめようとしていた私と栞の苦労が泡と消えた、あの日に。



 あの日に、いろいろなことが一度に起こった。そして、それら全てが、私たちの出る間もなく、ある一点へと収束した。




 そう、あの日は、本当に色んなことがあった。

 まず、東が目覚めた。でも、その吉報を受け取った矢先に、説得役の学長が私たちとの約束を反古にした。そのあげくに、先輩が病院を抜け出す。さらには、それを追って東も見知らぬ女性と姿を消す。

 ちなみに、その女性の正体でも分からずじまい。

 栞に霊視で追ってもらいもしたけれど、てんでダメで、栞曰く、「学長と同じ類いの狢」らしい。

 まあ、その女性が邪魔しているのか、その日の私たちは、まったく力が及ばずで・・・・・・



 まあ、百歩譲ってそれはそれとして。

 色んなことがあったけれど、そもそものことの発端は先輩の単独行動だ。


 まさか、よりにもよって、自分を殺そうとした霊に会いにいくなんて愚行まを・・・・・・でも、その結果、二人は「仲直り」をしたらしい。


 その事後報告を受けた時の私と栞の徒労感というは尋常ではなく、しばらく何もする気が起きなかった。具体的には、次の日の学校は二人でおさぼりして寮でゴロゴロするくらいに。





「当たり前です。勝手なことをして皆を心配させたのだから、当然の処置でしょう?

しばらくは、ちゃんと、私たちの言うことを・・・・・・って言っても、先輩も東も、人の言うこと聞かないしな・・・・・・はぁ〜」



 ため息まじりに、私は空を見上げた。

 紅い紅い、夕焼けの空。この空の下で、あの日、三人は再会を果たしたのだ。

 

 いろんな決まり事を踏みにじって、色んな人たちの想いを巻き込んで、そして、それは叶った。






「う〜、だから、反省してるって言ってるでしょう?しばらくは大人しくしてるって!

それに、ほら、アイスだって!80円のやつだけど、おかず一品、しばらく私無いんだよ?」



 貧乏暇なしだよ〜と笑いつつ、先輩は、幼さ残る女性の微笑みでーーー東を虜にする、その女の笑顔で、私に笑いかける。

 私は、その笑顔が嫌いじゃない。むしろ、好きと言ったっていいかもしれない。





「知りませんよ、先輩のおかずの数なんて。

それに、反省してるったって、後悔はしてないんでしょう?」





 

 

 私は、ちくりと、刺を出した。

 ちっちゃな刺を、伊吹先輩に。



 先輩は「いたいとこ、つくよね」と苦笑するだけだ。けっして、否定はしない。





「先輩は勝手ですよね。身勝手です。好き勝手にやって、あげくに色んな人たちに迷惑をーーー世界を壊そうとしたくせに、なのに・・・・・・そんなふうに笑えるなんて。

神経疑いますよ、本当に。人でなしです。人間失格ですよ、先輩。なのにーーー」





 私の辛らつな言葉に、「う、ううー」と唸るしかない先輩は、なかなかに珍しい。

 いつもなら、それこそ、「そこまで言わなくてもいいでしょう!?」くらい言い返すはずんだけど、さすがに「反省はしているらいしい」から、そうはならない。




 ある意味、いつもしてやられている私からすれば、いい気味だ。

 ーーーでも。




「なのに、東は今でもあなたのことが好きなんですよね。ほんと、見る目無いっていうかーーーそう思いません、先輩?」





 ーーでも。




「まぁね。でも、それは利也も同じだから。私たちは、そうなんだよ。

・・・・・・うん、そうだね。そうだよ。だから、これまでもそうだったけど、これからもーーーそうなんだと、想う」





 ーーーそれでも。




「傲慢ですね。けど、卑怯者じゃないーーーその一点だけは、私は、先輩のこと認めてるんです」




 それでも、私は、結局、この人には勝てないんだろうなって、想う。

 これまでもそうだったように。

 今回のことでもそうだったように。







 ーーー風が、凪ぐ。

 すでにアイスは溶け去り、手元にあるのは乾いた木の棒のみ。

 あたり判定を見てみるけれど、残念ながら、今回はーーーいや、今回も、はずれのようだ。






「ねぇ、利也のこと、まだ、好きなの?」




 先輩は静かに目を閉じると、そんなとんでもないことを口走った。

 風は、凪だ。無音の世界。そして空には、彼方から伸びる紅い光。

 そんな優しい、紅の世界。その、世界でーーーわたしは。







「私たちがーーー私と栞が今回のことで把握していることをお話しします。心の準備はいいですか、先輩?何も知らない先輩に、なんでも知ってる後輩が教えてあげるんです。ちゃんと、帳簿につけといて下さいね?そしてきちんと、返して下さい。出世払いで結構ですから。かならず、この「学園の主席」となり、それより得られる権限を、「峰岸」の盟友としてーーー私の友として。その、一命を賭して」





 ーーー私は、答えなかった。

 一言「好きだ」と言ってしまえれば楽になるのだろうけれど、それはなんだか、負けな気がした。あと、「別に」と答えたところで、結果は同じ。あえて「嫌い」って選択肢もあったけれど、それはもう、勝ち負けとかじゃなくて、なんだか人としてダメになる気がして止めた。




 だから、答えなかった。つくづく自分の往生儀の悪さに嫌気がさすけれど、どうしようもない。そう、私はまだ、「まけてなんか、いない」のだから。

 私は峰岸燈火だ。「峰岸」ではなく、峰岸。でも、実際は、峰岸燈火は、「峰岸」燈火でもあるんだ。それは、逃れられない呪縛。定められた運命が編んだ縁の糸に絡められた、私の宿命。




 いつかの占い師は、「峰岸」でない峰岸は、目の前の女性に勝てないと言ってのけた。

 それが、運命だと。それが、然るべき理の内だとも。



 でも、だったら、まだ、私にはチャンスがあるんだ。「峰岸」でも私なら、勝算はある。

 目の前の人が、やってみせたように。理を超えて、奇跡を紡ぐーーーあるべくしてある結末を、ただの人が、ただの傲慢でひっくり返せるとういうのなら。






「・・・・・うん、わかった。守るよ。燈火との約束も、そして、燈火が守ろうとした、この世界もーーーだから、教えて。今の燈火が知りうる全部を。必ず、力になるから」





 ーーー私の目の前には、恋敵が一人。そういった意味では、私は目の前の彼女が嫌いだ。でも、彼女は峰岸の盟友でもある。そう、彼女は私のお茶飲み友達ーーー私が東を好きになる前から大好きだった、尊敬できる、茶道部の先輩でもあるのだ。そして、わたしはその先輩が打好きな後輩の、一人ーーーだと、自負している。




 先輩はまっすぐな瞳で私の力になると言った。たぶん本心から、彼女は言ったのだ。

 そんな私たちの瞳には、ひとつの未来が映っている。その未来はきっと、私たちの「共通の敵」が支配する世界。



 そう、私たちの共通の敵ーーーそれは、たぶん。




 


 



 


 

次回、東君と久遠さんのお話です。

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