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無限想歌  作者: blue birds
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 無限想歌:true end:-想いの還る場所:伊吹&小羽:夕焼け小焼けの、中で

あ、あと、一話だけ続きます!



 無限想歌:true end:-想いの還る場所:伊吹&小羽:夕焼け小焼けの、中で



 言いたいことは山ほどあるのに、いかんせん喉からは変な音しか出てこない。

 それが、さんざんぱら泣きはらした結果なのだと、今更ながら実感する。

 そして、「死んでても、声は枯れるんだな」---なんて、そんな間の抜けたことを考えられるくらい、私の心は空っぽだった。

 

 ・・・・・・空っぽというか、「ちゃんぽん」というか、頭がぼーっとしている。

 それは多分、世界が黄昏時に差し掛かっているせいなんだと思う。そう、逢魔が時。誰そ彼は、の、時だ。



「じゃ、帰ろうか?もう、日が・・・・・・暮れちゃうしね?」



 ぽんぽんと背中を優しく叩かれ、ついで、私を束縛していた腕の力が緩められた。

 さっきまで、私がどれだけ泣いて暴れても、ねぇさまは決しては離してくれなかったのに。ご自身が傷つくことも、厭わずに。

 なのに、私が泣き止んだとたんに、これだった。ほんとうに、あっさりしたものだ。


 声の主ーーーねぇさまは、いつかの日とは全然違う、元気いっぱいの笑顔---太陽のような笑顔で渡しを見下ろしている。月の微笑みではなく、燃え上がる太陽のような、力いっぱいの笑顔で。




「・・・・・・」




 私は、笑顔のねぇ様に向かって声を出そうとした。けれど、失敗してしまう。声なんて、出ない。

 ・・・・・・ううん。ほんとは、出る。でも、変な音しか出ないから、出さなかったって言ったほうが正しいけれど、でも、結局はおんなじこと。



 そう、わたしは、ねぇ様の「帰ろうか」という誘いに、答えることができなかったんだ。

 なのに、ねぇ様は、さも当然のように私の手を引き、河原を歩き始めた。



 

「・・・・・・」



 私を引く手に、迷いはなかった。私は引かれることに迷いはあったけれど、結局は、その力強さに負けて、引かれる手に抵抗することなく、一歩を踏み出した。

 それは正しい選択なのか、どうなのか。

 そんな疑問がすこしだけ頭を過るけれど、答えはまとまらない。

 私の頭の中はぐちゃぐちゃで、何も考えられなかった。

 そのせいか、私の中の黒煙も鳴りを潜めており、今はその存在すら感じ取ることができないでいた。





「・・・・・・」




 わたしは、うつむいたまま、歩みをすすめる。

 ねぇさまがどこに行こうとしているのか。自分が、どこに連れて行かれるのか。

 そんなことは、露程もわからない。



 そう、私は導かれるまま、ねぇさまの手をしっかりとーーー気づかぬうちに、必死に。

 ねぇさまと繋いだ手を頼りに、どこかへと、歩みを進めていたのだった。







 無限想歌:true end:想いの還る場所:シロ&徹&マイク





「手放しで喜べる状況じゃねぇってこと、お前ら、わかってんのか?」






 気だるげな声が、心に響く。声の主は、兄弟弟子のマイクだ。

 彼はさっきまで必死に、伊吹さんのサポートをこなしてくれていた。

 それはもう必死に、めずらしく。

 けれど、それはもう過ぎた話だ。



 ・・・・・・私の目の前では、二人の姉妹が仲良く手をつないで歩いてる。手をつないで、すこしずつ、私達の方へと歩みを進めていた。

 そう、一歩一歩、すこしずつ、こちらへと---近づいている。ふたりとも無言のまま、ただただこちらへと、歩みを---たったそれだけのことを成すために、彼らはどれだけの対価を払ったのだろうか?



 ---正直な話、私は、私自身の目の前に広がる光景を、信じられなかった。たぶんそれは、奇跡と呼ばれるもの。あるいは、魔法と呼ばれる、偉大なる元素の事象。

 でも、目の前のそれを、そんな風に呼んでいいのかは、分からない。

 ただ、それが本来はあるべくもない光景だってことは、マイクから伝え聞いている。


 ・・・・・・実際に、タイムパラドックスが発生しかけたのだから、多分だけど、それは本当のことだと思う。



 ただ、それでも---奇跡みたいなことが起こったから。

 だから、マイクは伊吹さんから離れて、ここにいる。マイクがここにいて、伊吹さんを守っていないのに、伊吹さんと小羽ちゃんは、「ふたりとも無事」でいる。

 それを奇跡と言わずして、なんと言うのか?




「伊吹さんから漏れ出た青と、小羽ちゃんに積もった黒が融け合った末---互いの境界敷をうやむやにしちゃったってことかな?だから、小羽ちゃんの黒煙は伊吹さんを認識できずにいるってこと?」




 私は精神物質の機微に精通しているわけではない。

 私はもともと半人前で、しかも、専攻は「世界魔法学」だ。要は、物語の「舞台」が私の専攻。だから、そこで踊る「舞手」を扱う「物質魔法学」は専門外。

 ・・・・・・とはいえ、身内には精神寄生体の兄弟弟子がいるもんで、案外その辺の魔法使いよりも理解の深度は深い。それでも、数千年の旅路を経たマイクには遠く及ばない。




「少なくとも、俺はそう見るがね・・・・・・ただ、ガキの黒は消えちゃいねぇ。明らかに、存在している。女の青と混ざっちまってるだけで、存在はしている。

・・・・・・だとすると、本来なら2つの色は互いを喰らいあって、どちらかの色に染まるはずだが・・・・・・何かが、それを回避させてるみたいだな」





 ふわりと私の横に降り立つマイクの気配が小さくなった。

 それは、彼が力を行使している時の特徴だ。



「忘却の青と、憎悪の黒。2つの色を取り持つ因子って・・・・・・・・なんだろうね?」





 伊吹さんと、小羽ちゃん。ふたりは、別の別の人間だ。

 彼らの世界は独自の皮膜でくくられており、互い境界敷を明確なものとしている---のが、本来の形で、今もまさに、そのはず。

 だから、2つが混ざることなんて、そもそもあり得ない。

 また、百歩それが可能だとしても、忘却の色が多色の色を許容するなんてあり得ない。

 そして、それは逆もしかりだ。





 ・・・・・・なのに、小羽ちゃんの黒は、伊吹さんという世界を受け入れていた。

 時空改変なんて馬鹿げた事象を引き起こすほどの「憎悪」が、「対象」となる世界を受け入れる。


 それは、本来あるべくもないことだ。けれど、それは確かに此処に在る。目の前に存在し、完膚なきまでにその異常さを私達に知らしめていた。



「それは、「始まり」なんじゃないですかね?僕達がそれを知るすべはありませんが、少なくとも、2つの色が同じ場所から始まったのだとして、そして、彼らがそれを思い出したのだとしたら・・・・・だったら、この光景だって、在ってもいいはずだと思います」






 のほほんとした声で、徹が答える。

 そして、それを鼻で笑い飛ばすのが、マイクだ。





「はん、「始まり」ね? それはそれは大層なもんなんだろうな?

なんたって、世界の理を捻じ曲げちまうほどのもんだ。 それが、なんだ?魂の傷にでも、こびりついてたか?」






 くっくっく、と、堪えるように、小馬鹿にするように、彼は嗤う。

 それが私は、面白くない。別に、このもやしみたいな連れが馬鹿にされるのはいいけど、それは結局、その師である私までが暗意に馬鹿にされているように思える・・・・・・からであって、けっして!










「いいじゃん、べつに。同じ場所から枝分かれした2つの因子ってモデルなら、解釈可能でしょう?それとも、マイクは別の解釈があるわけ?」






 ・・・・・・・すこしだけ、物言いがきつかったのかもしれない。

 隣で浮かぶ光の堅物から、若干の驚きの気配が感じられた。そしてそのすぐ後に、明らかに邪心のこもった視線を向けられている---気がする。




「お前らしくない暴論だな---なんだ?それが恋愛脳ってやつか?」






 ・・・・・・前言、撤回。邪心の塊を、この腐れ寄生体はわたしにぶつけてきている。

 でも、私は大人だから怒らないのだ。だって、別に私の頭は、そんな変な名を付けられるようないろものじゃあ・・・・・代物じゃあ、ないんだから!





「・・・・・・でも、良かったですよ。本当に、よかった」






 私の隣で、徹はすまし顔で「よかった」を繰り返している。

 ・・・・・・まあ、よかったんだけど。たしかに、よかったとは、思うけど。でも、なんていうか、もう少し私とマイクのやり取りにリアクションを返してくれても・・・・・・






「いいわけねぇだろ、バカが。今回の件ではっきりしたんだろうが。あいつらは、「悪意」に目をつけられている。

・・・・・・少なくとも、あのチビは、間違いなくな」





 冷徹な言霊が、世界に響く。

 残酷な事実が、私達の心を打つ。



 そう、彼女は。

 ---小羽ちゃんは、「アレ」に接触したのだ。サテライトとは言え、マイクが言うには、「アレ」と。

 それに、今回の件には師匠まで関わっていたって言うし。



 だったら、手放しで喜べるわけじゃ・・・・・・





「よかったんです。どんな道筋を経たのだとしても、ここに辿りつけたのだから、これで、良かったんです。そんなふうに想えるよう---これから、あの二人は頑張っていくんだと思います。

いや、「三人」、かな?たしかに、「まだ」、良かったとはいえませんよね?「まだ」、「めでたしめでたし」じゃない」











 マイクの放つ気配が凍るのを感じた。徹のこぼした一言、彼は明らかに怒っていた。

 彼は、「こういう発想」を極端に嫌うのだ。



 そして、徹は「そういう」のを好む。そして、私は・・・・・・・









「・・・・・・だね。まだ、「めでたしめでたし」じゃないよね?まだ、だって、此処には彼がいないんだもの」







 私は、「願い」を口にした。

 それはなんの偶然か徹と同じものだったけれど。


 そして、マイクの大嫌いなそれと同じものだったけれど、でも、私は心のそこから---















 「二人」の先にある、ほんの些細な奇跡を。

 「三人」という、ささやかな均衡の上にのみ成り立つ、小さな奇跡を望み、懐から転移を打ち込んだ賢者の石を---取り出し、直ぐ目の前まで来ていた「二人」に、駆け寄ったのだった。

次回こそ、最終話です・・・・・・たぶん。

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