keyA-2,D-2共通:無限想歌4:true end:存在確率0%:二人の姉妹
いつか見た風景を、もう一度。
keyA-2,D-2共通:無限想歌5:true end:存在確率0%:二人の姉妹
tips~
正しくはないけれど、間違いではない選択。
間違いではないけれど、正しくもない選択。
いずれにせよ、君の選ぶ道は間違っていて、同時に、正しいんだ。
だから時には、見失ってしまうんだろうね。あの時は正しいと信じた道を、未来で振り返った時に。
本当に、この道でよかったのか―――なんて。
でも、君は大丈夫かな?
だって君は受け入れて、背負うことができる人だから。
自身が選んだ道の正しさを、祝福として。
自身が選んだ道の過ちを、業として。
受け入れ、背負うことが―――できる人。
そんな存在を、世界はヒーローと呼ぶんだよ。
keyA-2,D-2共通:無限想歌5:true end:存在確率0%:輪廻の再会。それは、意志と共に:伊吹由香&猫
迫り来る追っ手をかいくぐり、私は病院のゲートを突破した。
・・・・・・・とかなんとかホードボイルド風に言ってみたはいいものの、実際はそんなかっこいいものじゃない。
でも、追っ手を撒いた事は事実。
ただそれは、病院のゲートを突破したとかではなく、三界の窓から排水管を伝って芋虫みたいに降り立っていうのが、正しい。しかも、トイレの窓から。
「おまえのポテンシャルの高さには脱帽もんだが、頭は軽いな。逃げられるとでも思ってんのか?」
頭に響くのは、ため息混じりの、あの人の声。
私と俊哉をあの世界から救い出してくれた、恩人さんの声だ。
今の彼の姿は、あのときとちがって、光る人のそれじゃない。
辺りを見回しても誰の姿かたちもなく、でも、声だけの存在として―――彼は、私を守ってくれているらしい。
「そんなの、やってみなくちゃ分かんないじゃないですか。
失敗したって命とられるわけじゃないし、試さない手はないでしょう?」
私は病院の駐車場で主人の帰りを待つワゴン車に背中を付け、身を沈めた。
自然と、全体重をタイヤにあずけることになる。
そして、「なんかごつごつしてるな」と思いつつも、病院の出入り口である、正門を見ようと―――
「こっち、黒服見てんぞ。顔だしたらバレるな」
―――天から降ってくる恩人さんの忠告を受け入れ、私はそのままズルズルと腰を地面まで滑らせた。なんとなく、体育座りをしてしまう。
「なら、別のルートは?裏門も、ダメですかね?」
視線をなんとなく空に向け、聞いてみる。
視界に入るのは夕焼けの空だけで、そこには誰もいない。でも、声は返ってくる。「正門見張ってんなら、裏門も同じだろうよ」と・・・・・・。
たしかに、それはそうだけれど。
「正門もダメで、裏門もダメ。じゃあ、どこならいけますかね?」
そう簡単に諦められるなら、こんな苦労はしていないわけで。
「だから諦めろっつてんだろ、バカかおまえ?」
そして、声の主はそんな私を手助けしてくれるわけでは、ない。
ーーーーむぅ、それは、そうなんだろうけど。
たしかに、この人が私を助けてくれる道理なんて、どこにもない。逆に、助けちゃいけない理由なんてもの、いくらでもあるから、困ったものだ。
「あの男と契約を結んじまえば、早い話だろうが。お前らがあいつの手先になる代わりに、あの霊の入れ物を―――ヒトガタを、あの男は用意するって言ってんだ。いいか、ヒトガタぞ?ニンギョウじゃなくて、ヒトガタだ。この時点であいつ、かなり太っ腹だと思うがな・・・・・・でも、まぁ、なんだ。
まぁ、ヒトガタなんてもんに生きてるうちから自分の魂移してる時点で、あいつもまぁ、真っ当な部類じゃないのは確かだけどな」
声の人は、「あの男」と契約を結べと言う。
あの、理事長と。この学園の長であると同時に、世界の権力の半分を掌握していると評される、あの化け物と。
ちなみに、その人は二日前、今回のことを裏で操っていたと自ら私に告白したあげくに、「予想外の結末」だからと、「プランB」を提示してきた。そのプランに関しては後日、目が覚めた俊哉にも提案してみるとも言っていた。
・・・・・・まあ、そのプランBっていうか、理事長の持ってきた「今回の結末の代案」は、それほど悪いものではなかった。でも、あの人が私たちを利用しようとして、そして、それをまだ諦めていないのは、事実。しかも、そのことについて、あの人はなんの引け目も感じていなかった。
さも当然の顔で、「ギブアンドテイク」と行ってのけたんだ。その一点において私は、あのひとを信用できなかった。
・・・・・・あの人が、私たちに望むもの。
それは端的に言うと、幽霊である小羽ちゃんにスパイをさせ、わたしに・・・・・・よくわからないのだけれど、私には、幽霊を抹消する力を獲得させて、ボディーガードにしたいとかなんとか(力については、思い当たるフシがないわけじゃないし)。
それで、もし私たちがあの人の望むものを提供すると確約をするならば、
小羽ちゃんの魂を安定させる躰を提供してくれるとのことだった。同時に、声に人にも、猫の躰を提供してくれると。
今の小羽ちゃんが変になっちゃうのは、魂がむき出しになっているのも、一つの要因らしい。声の人みたい存在は例外中の例外で、ほとんどの魂っていうのは、限定された世界以外では不安定であるということ。
・・・・・・もちろん、根本的なとこは私と・・・・・・私と、小羽ちゃんの関係にあるのだけれど、それでも、小羽ちゃんの魂をキチンとした体に入れてやれば、幾分かは落ち着くのだそうだ。
しかも、理事長の提供する言ってくれたヒトガタとは、人間の魂の入れ物としては、最上級品のものらしい。なんでも、世界には人の魂の入れ物は数多あれど、その受け入れた魂を、人の魂として「保存し続けることができる」のは、本のごく一部らしい。
たしか、そのヒトガタは、人間の体と同じ受容器―――感覚器を有していて、人の体と同じ世界を―――観世界を、生きることができると。
たしかに、猫とか犬とかの体に魂を放り込まれて視野が突然白黒になったり、ましてやコウモリの体に魂を放り込まれて超音波で世界を知覚しろと言われて、さらにはそれを十年も二十年も続けろと言われた日には―――たぶん。
でも。
「でも、あの契約内容だと、小羽ちゃんは将来スパイとして働かなくちゃいけなくなります。そんなこと、私はあの娘にさせたくないんです。そういうこそこそした行為は人一倍、あの娘は嫌いなんです!」
甘いことを言っていると、分かっている。
あれもこれもとは、いかないのが世の中だ。
理事長の代案だって、たしかに、「ギブアンドテイク」なんだと思う。
本来なら、理事長の「代案」は私たちが「本案」として望んだって、手が届かないものだ。
それでも。
「だいたい、お前は何であの霊にこだわるんだ?あんなことがあったのに、「迎えにいかなきゃならない」なんて発想になることがおかしいとは思わないのか?
お前の行動原理はなんだ? 魂の絆か? はん、ばかばかしい。「過去」の残りカスにそれを委ねれば、往々にして「現在」が破綻するぞ。引いては「未来」もな」
声の人は、言う。
現在を生きろと。現在に目を向けろと。過去ではなく、今ここにある、この、確かな現在に―――目を向けろと。
そういう風に、私を諭そうとしてくれる。
・・・・・・・だから、こそ。
「私は、ちゃんと現在を見ています。確かに、過去を引きずってるかもしれないけれど、でも私は、ちゃんと「現在も」見ていますよ」
私は、静かに反論した。
私が、行方をくらませた小羽ちゃんを―――私を殺そうとしたあの娘を、迎えに来たいと想うのは・・・・・・なにも、感情論だけではないと。
大部分はそう、感情なんだけれど。そしてそれは、昔の傷に起因するものなんだろうけれど。
でも、現在だって、ちゃんと見ている。
例えば、私と小羽ちゃん再び再開した時に生じる問題についてだって、ちゃんと考えている。
大きい問題は、やっぱり、世界改変の危険性。はっきりいって、そんなこと起こるのかと私自身は半信半疑だけれど、実際に私はタイムスリップしたわけだし、目をそらすことは出来ない。
でも、現在のところ、異世界へと通じる世界の門は、完全閉鎖されている。なんでも、世界最高の魔法使いさんが、管理してくれているらしい。先の事件では、わざと抜け道を用意して、小羽ちゃんにハッキングさせていたとのことだった。だから、今のところは大丈夫なんだと―――私は言われ、信じている。
そして、二つ目。
それは、もう根本的なことなんだろうけれど、小羽ちゃんが私を再び殺そうとするのではないかということ。でもこれだって、問題にはならない。だって、今は声の人が私を守ってくれているわけだし・・・・・・と言ったら、怒られた。「ふざけんな」とも、言われた。でも。
「じゃあ、誰か小羽ちゃんを迎えに行ってあげてるんでか?
―――違うんでしょう?だれも、そんなことはしてくれていない。あの娘はいま、独りぼっちで、この世界にいるでしょう?」
私は、見えざる声の人に問いかけた。
あの娘は、独りぼっちなのでしょう、と。そして、彼は答えた。「だったら、なんだ」と。
だから、私は。
「だったら―――迎えにいかなきゃ。誰かが、迎えにいかなきゃいけないんです。
もうじき、日が暮れます。夜が来るんです。それなのに、独りぼっちでいるなんて、ダメなんです。「一人」なら、まだいい。でも、「独り」だけは。それだけは、絶対に・・・・・・」
声に出してみて、私は伝わらないだろうなと、想った。独りは、いけないこと。
それは、昔の私ではない、現在の私だからこそ、言えることだ。孤児院でそう教わり育てられた、現在の私だから言えること。
だから、私の行動原理には、二つの私がいる。過去の私と、現在の私。二人が揃って、私は今、一つの選択を選んだんだ。
この私の声は―――その真意は、伝わらないだろうと、再度想った。でも。
「世界が眠りにつく前に―――か。くだらないな。
宗谷といい、お前といい、ご主人といい―――いや、人のことは、言えんのか」
声の人が、優しく笑った気がした。
その意味はよく分からなかったけれど、でも、それでいい気がした。
そして、声の人は―――
あの日に、帰る。
でもそれは、過去に帰るんじゃない。
現在の、この時に、「あの時」に帰るんです。
そんな瞬間が、もうすぐ訪れます。