keyA-2,D-2共通:無限想歌4:true end:存在確率0%:ヒーローという、幻想:東&瀬戸
ヒーローと、兄。
それは、ある意味では個から成る因果です。
keyA-2,D-2共通:無限想歌4:true end:存在確率0%:ヒーローという、幻想:東&瀬戸
タイムトラベルから帰還した俺は、病院で二日間眠り続けていたらしい。
ーーーというか、今さっき目が覚めたばかりだ。だから、なんとなく、そうは言われてみたものの、実感がわかない。
ただ、窓の外から差し込む夕日を見れば、この日がもうすぐ終わろうとしているのだということくらいは、わかる。わかるけれど、わかったところで、どうということはないのだが・・・・・・
「ほほい、うさぎちゃん! ほら、おたべ~!!!」
ちなみに、由香の方は帰還当日に目を覚ましていたとのこと。
今となっては、すこぶる元気で、「私を解き放て!私は元気だぞ!」と、意味不明な供述を繰り返し、なんとか監禁されている病室を抜け出そうとしているのだそうだ。
「しかとかよ~おい、あずまん!しかとかよ~?」
俺の前でうさぎさん(りんご)をチラつかせる瀬戸。
彼女は、存外にかわいく剥かれたうさぎさんりんごを俺にかざし、かまってくれよとごねまくっている。
「いや、お前もう帰れよ。みんな帰っただろうが。なんでまだ残ってるわけ?」
あの日から俺は、学園付属の病院の個室にて、監禁されていた。当然といえば当然だが、由香は別室だ。
んで、その俺に病室には、
さきほどまで、俺と瀬戸以外の人間が、5人いた。
それはキヨを筆頭に、修学旅行を共にした友人たちだ。ちなみに、そこには栞と峯岸は含まれていない・・・・・・
とはいえ、意識もない(はずだった)俺を見舞いに来てくれた面々を見て俺は、存外に仲間想いの友人たちだなと思った。
思ったが、朝霧の「彼女との三日ぶりの再会って、倒れるほど嬉しいもの?」の発言でその感傷は消し飛んだ。どうやら学園では、それが俺と由佳がブッ倒れた原因として、実しやかに囁かれているらしい。
キヨたちも、「もう籍入れちまえよ」とかんとかいっていたし。
「なによ~? こんな美少女がりんご剥いてあ~んしてやってんのにさ?
あんたってさ、機能不全なん?」
いいから食えと無理やりでもりんごを口に押し付けてくる瀬戸に根負けして、おれは口を開いた。
放り込まれるりんご。
それは、ほのかにはちみつの味がしみたもので、認めたくはないが、おいしかった。
「なんのようだよ? なんだよ? おまえは、俺にりんご食わせるために残ってんのか?」
シャリシャリとりんごをかみつつ、俺は再度帰れと瀬戸に促した。
しかし、瀬戸は一向に帰る気配を見せない。新しいりんごに手を伸ばし、「さて、もう一個」と呟きながら、手馴れた様子でりんごを向き始めた。いや、もう食えねぇよーーーとは、言えなかった。瀬戸の横顔が、それを許さなかったんだ。
シュルシュルというこ気味良い音が病室に響く。
その音源である彼女の横顔には夕焼けが差し込んでおり、まあ、なんだ。
たしかに、いつもより三割増ぐらいで美人に見えなくもない。
「ねぇ、ヒーロー2号には、なれた?」
それは、とても短い問だった。
ヒーロー2号に成れたのかという、ただそれだけの、それ以上の意味を含まない、問い。
それは俺と瀬戸の間だけで通じるもので。
「いや、まだーーーだと、思う。ううん、「まだ」だな。
まだ俺は、そんなモンには・・・・・・程遠いんだと、思う」
ふと、瀬戸が視線を上げた。りんごを向く手を止め、瀬戸は、俺を見つめる。
その瞬間ふいに、俺たちの視線は交錯した。そして、あの日のことがフラッシュバックする。
「「まだ」って、ことは、「いずれ」は成るんだよね?」
瀬戸は「いずれ」と、言った。いずれ、「ヒーロー」になるのだろう、と。
「なりたい。今すぐにでも」
俺は、答えた。
ただただ、簡潔に。具体的にそれが何のなのか、分かりはしなかった。けれど、でも、きっと、ヒーローになった俺は・・・・・・
「そっか。なら、力になるよ。この、「瀬戸」がね!」
瀬戸は、二カッと笑った。その笑顔には根拠と呼ばれるものは何も見いだせなかったけれど、でも俺は、その笑顔が本当に尊いものだと感じだ。
だから俺も笑い、手をさし伸ばす。瀬戸は、その差し伸ばされた手を取った。
そして、互いに握り返す。
それは、俺が将来の行く末を決めた瞬間だった。
高校生にもなって、真面目に、「ヒーロー」になるとーーーそう、クソ真面目に。
そしてそれこそが、俺が差し出すもの。歴史を背負う瀬戸に対し、なんの背景も持たない俺が唯一、手渡すことのできる対価だった。
「なら、頼みたいことがある。瀬戸にしか、出来ないことだ。
一刻も早く、俺をここからーーーー」
*
keyA-2,D-2共通:無限想歌4:true end:存在確率0%:脚本と、演じ手:栞&成功者
病室のドアに手をかけようとして、成功者は一拍をおいた。
「なら、頼みたいことがある。瀬戸にしか、出来ないことだ。
一刻も早く、俺をここから連れ出して欲しい。俺にはまだ、やらなきゃいけないことが残されてるんだ」
無機質なドアの向こうから聞こえるのは、熱を秘めた少年の言霊。
それを耳にして、成功者はその頬に笑みを浮かべた。
笑みを浮かべ、そのまま回れ右をして、病室を後にする。
「ちょっと、どういうつもりですか!?」
そんな成功者の後を追うのは、久遠栞だ。
彼女は、当初の使命を突然放り出した学園の長をたしなめようと、小声で静止の声をかけていた。
「なに、急用を思い出してね。彼の件は、後日処理することにしよう」
その成功者の一言に、久遠はマジギレ一歩手前の口調で詰め寄る。
「さっさと戻って、事が済むまで大人しくしているように、少年に言い聞かせろ」と。
しかし、そんな久遠を尻目に、成功者は歩みを止めない。
何事も無かったかのように病院の玄関へと、歩をすすめる。
そして、想いを馳せる。
彼の、少年に。彼の少年の、可能性。それは、結局ーーーー
次回は、成功者の独白です!
今回の物語の、彼にとっての意味が、明かされます。