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黒瀬部長は部下を溺愛したい  作者: 桐生桜


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30/32

CASE:30 これくらいで勘弁してやる

「……白石さん」

「はい?」

「それ、やり返しのつもり?」

「はい」


 数秒沈黙。


「あれ……部長、顔赤い……ですよ?」

「……誰のせいだよ」

「さあ?」


 にこっと笑う莉央。

 その瞬間……。

 慧の手が、莉央の手首を軽く掴む。

 ぐっと引き寄せられて、壁際へ。


「……調子乗りすぎ」

「っ……!」

「仕返しのつもりなら、最後まで覚悟してやらないと」


 低い声。

 完全にスイッチが入ってる。


「ぶ、部長……あのっ」

「……可愛すぎて、こっちが我慢できなくなる」

「……っ、それは……」

「今は会社だから、これくらいで勘弁してやる」

「……ごめんなさい……」

「遅い」


 そっと、誰にも見えない角度で指先だけ、優しく撫でる。


「……でも、いいよ。そういう莉央、好き」

「……っ」

「今度は、ちゃんとふたりきりのとこでやって」

「………はい」


 ◆


 その日の夜。

 仕事終わり。

 帰ろうとした莉央のスマホに、一通のメッセージ。


『今日、このあと時間ある?』


 胸が、どくんと鳴る。


『あります』


 送ってしまった時点で、もう逃げ場はなかった。


 ◆


 慣れた道のりで慧の部屋へ向かう。

 インターホンを鳴らすと、返事の代わりに玄関が開く。

 ゆっくりと閉まった瞬間、空気が変わって……。


「……で?」

「……で、って……」

「昼間のこと、覚えてる?」

「……ちょっとだけ……」

「ちょっと、ねぇ……」


 慧が一歩、近づく。


「……あれ、反則だから」

「……慧さんだって、いつも……」

「俺はいいの」

「ずるい……」

「うん。で、その『ずるい男』に仕返ししたんだよな?」

「……はい……」


 慧、ふっと笑う。

 でもその目は、完全に逃がさない色。


「もう一度、やってみて」

「え……」

 

 そっと、手首を取られて引き寄せられる。

 優しいのに、逃げられない力。


「昼間みたいに、やってみて」

「……え?」

「ほら。近寄って、耳元でなんか言ってたでしょ」

「む、無理です……!」

「なんで。昼間はできたのに?」

「だって今………」

「同じだよ。俺と莉央」


 低くて甘い、莉央が苦手な声。

 そのまま少し顔を近づけてくる。


「ほら、やって」

「……っ……」


 玄関だから逃げ場がない。

 仕方なく、少しだけ近づく。

 でも……。


「あ……あの……」

「全然ダメ。やり直し」

「えぇ……」


 ぐっと近寄ってくる慧。

 昼間よりも近い距離にキスの二文字がちらつく。


「……ほら」

「……っ………ずるい、です……」

「……残念、不合格」


 そのまま、一気に抱き寄せられる。


「っ!?!?」

「もう、俺が無理」


 そのまま、頬に、こめかみに、軽くキスが落ちていった。


To be continued

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