第2話 国丸キジョウは生徒会長室で来栖レイと
―― お母さま、お母さまっ! ――
「ん……」
夢から目が覚めたとき、来栖レイが身にまとっているバトルジャージは、しっとりと濡れていた。
母を失ったときの悪夢、それにうなされていたのだ。
いつものことだ、気にするな。
彼女はそう、自身に言い聞かせた。
宮殿のような仕様の生徒会執務室、南側いっぱいのガラス窓から朝日が差し込んでいる。
連日の激務でさすがに疲れが出てきたか。
デスクに伏していたレイは、伸びをしようと体を起こした。
「あ」
視線の方向、執務室のドア――というよりも「扉」と言ったほうが妥当な代物だったが、そこに制服を着た国丸キジョウが突っ立っている。
「ノックくらいしたらどうかな?」
彼女はぶすっとしてデスクの上へ腕を乗せた。
「あの、したんですけど……応答がなかったので」
「そうか、すまない。ちょっと休んでいたんだ。こちらへ」
「は、はい」
彼女は頭をさすりながら立ち上がって前に出てくる。
純白にゴールドをあしらったジャージ、そのシルエットが映える。
来栖レイの体をあますところなく映し出して、それがキジョウのうぶな心をかき乱した。
「何を見ているんだ?」
「え、あ? その、会長ってホント、きれいな方だなぁと」
「君も獣魔と同じか。まったく男というものは」
時代には合わなくとも、生物の本来とはそれである。
彼女は腕を組んでむすっとする。
そんなことしたら胸もとが目立つじゃないの。
少年はそんなことを空想した。
「あんな時間にいったい何をしていたんだ?」
「ああ、小腹がすいたのでコンビニへ行こうと」
「戒厳令を知らないのか? 当局に知られたら最悪退学処分だぞ?」
「空腹には勝てないですよ~」
のらりくらりとしたキジョウの態度に、レイはいらだった。
しかし品位を落としてはいけないと、心を落ち着かせるよう試みた。
「端末へ送った資料には目を通したか?」
「ええ、話には聞いていましたが、まさか会長方がクルス機関の実行部隊だったとは驚きました」
「女や子どもは最高の『エサ』になるからな。意識を引きつけたり油断させる意味もある。はっ、とんだ人形だよ、わたしたちはな」
「……」
「正義の遂行とは大義名分、ていのいい人身御供さ。そこまでして助ける価値があると思うか? 人類に、人間に?」
「それ、は……」
「最期はジャンヌ・ダルクのようになるのかもな。まあ、それも一興かもしれないが」
彼女は少しうつむいて物憂げな表情をした。
唇が桜色にとがっている。
「なあ、キジョウくん?」
「はい?」
レイはデスクに乗りかかり、両手を置いた。
冷たい笑顔、しかしどこか、ほのかな熱を宿しているようにも見える。
「わたしを、慰めてくれないか?」
「……」
吸い寄せられるように、少年の腕がそちらのほうへと伸びた。




