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24話 永遠の夢を見たかった

 




 瑠璃とは違って、腕が太い。手もゴツゴツして、男らしい。

 迅の体をべたべたと触りながら、瑠璃は満足げに笑った。

 眠りつづける迅の顔を、そっと覗き込む。

 迅の、魂の露を得たおかげで、瑠璃は元気になった。白い頬には赤みが差し、迅がみたら、きっと喜んでくれるだろう。

 手のひらを滑らせて、迅の頬を撫でた。

 額にも、瞼にも、唇にも。確かめるように、指で触れる。

「好きだよ」

 瑠璃は、何度も「好き」だと伝えた。

 迅に届かなくても、構わない。

 この胸にあふれる想いを、言葉にしたかった。

「迅。好きだよ」

 瑠璃は、迅の頬を、両手で包み込む。

 愛しい人を見つめ、そっと唇を重ねた。


「―――」


 誰にも届かない声で、想いを告げる。

 大好きだよ。迅。

 瑠璃は幸せな気持ちで、迅の隣で目を閉じた。

 


 

 + + +



 

 瑠璃は、眠るといつも、夢を見た。

 繰り返しみるのは、人であることを捨て、血も凍るような永遠の孤独をさまよう、旅の軌跡。

 どれほど人を愛しく想っても、それらは必ず先に朽ちていく。

 置いて行かれる絶望に、瑠璃は涙が枯れるほどに泣いた。

 暗く冷たい永劫の時を、どれほど憎んだことか。

 そして……。

 愛する者を、同じ永劫の鎖に繋いでしまいたい。

 そう願い出したのは、いつからだろうか。

 己の気が狂ってることを、瑠璃は十分に分かっていた。

 だから、想いのすべてを、彼に与えた。

 


 ――あなたと、えいえんのゆめを、みたかった。



 瑠璃は、閉じた瞼から、涙をこぼす。

 これからたどる未来を思うと、涙が止まらなかった。

 薔薇に包まれた、このしあわせの場所。

 決して忘れないように、胸に誓う。

「迅っ」

 首筋に残る牙の跡は、この先も消えないだろう。

 これは、瑠璃の愛の証。

 そして、愛する彼への、約束の印。

「瑠璃、起きて」

 兄の呼ぶ声に、瞼を上げる。

 変わらぬ慈しみをたたえた、雨藍の優しい微笑み。

「雨藍っ」

 瑠璃が腕をのばすと、抱きしめてくれる。

 いつものように、瑠璃を包み込んだ。

「お寝坊さん。はやくしないと置いて行くよ」

 細い指が、瑠璃の柔らかな髪を梳く。

 瑠璃はフフッと笑って、雨藍の胸に顔を埋めた。

「雨藍」

 大好きな兄を呼んで、ぎゅうっと抱きつく。

 優しい兄は、瑠璃の背中を撫でながらあやしてくれた。

「瑠璃。……俺の可愛い、瑠璃」

 雨藍が名前を呼ぶたびに、瑠璃の瞼から涙がこぼれる。

 胸を焦がすあの声を、もう一度だけ聞きたかった。






 ◆ ◆ ◆






「加佐見ッ! 大丈夫か!?」

 迅が目を開けた時、そこには元村がいた。

「元村か?」

「ああ……寿命が縮んだぞッ」

 元村は、安堵の表情で息を吐く。

 迅はベッドから体を起こして、辺りを見渡した。

 見覚えのあるここは、瑠璃の部屋だ。

 カーテンの向こうは明るく、朝が訪れたようだった。

「……どういうことだ?」

 迅は混乱した。

 ベッドの上には、大量の薔薇の花があふれていた。

 甘い匂いがするのは、そのせいだ。

「……瑠璃は……?」

 愛しい瑠璃の姿は、どこにもなかった。

 元村が、気遣わしげに迅を見る。

「加佐見、大丈夫か?」

「元村ッ!」

 迅は、必死の形相で元村に尋ねた。

「ここに、誰かいなかったか!?」

「いや……お前しかいなかったぞ」

「そんんはずない! ここは月読の家だろう!?」

「月読は、もういないぞ」

 元村の言葉に、呆然とする。

 言葉を失う迅に、元村はポンと肩を叩いた。

「お前が生きてて、よかったよ」

 元村は瞳を潤ませて、そう言った。

 しかし迅は、ひどく混乱して、状況を理解するのにしばらくかかった。

 たしかに、瑠璃と一緒にいた。

 それなのに、目が覚めたら一人だったのだ。

 ……瑠璃に、置いていかれたのか?

 その事実を受け入れたくなくて、かぶりを振った。

「おい、加佐見。首に跡が付いてるぞ」

「跡?」

 指でなぞると、たしかに二つ、噛まれたような跡がある。

 そこで、思い出した。

 瑠璃が、噛みついた跡に間違いない。

 愛しい瑠璃の痕跡が残っていることに、目頭が熱くなる。

 嫌でも分かってしまった。

「どうして……ッ」

 呟きとともに、涙があふれ出る。

 元村の見ている前だと分かっていたが、涙が止まらない。

 信じられなかった。

 いや、信じたくなかったのだ。

「瑠璃に、置いて行かれた……ッ」

 置き去りにするくらいなら、いっそのこと、殺して欲しかった。

 涙はとめどなくあふれて、迅の頬を濡らす。

「加佐見……」

 元村が、なんとも言えない顔で、迅を見る。

 そばにあった薔薇の花を握りしめて、迅は子どものように泣きじゃくった。

「瑠璃……瑠璃ッ!」

「加佐見、もう諦めろ」

「ッ……」





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