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聖女召喚の儀

聖女召喚の儀、巻き込まれたはどちらか 神の陣

作者: 原田 和




神々の世界にも、決まり事はある。

それは人の世で交わされる約束事に近く、しかし破ればその罪は重い。神の約束事は、絶対なのだ。

例え相手が、人であろうと魔に属するものであろうと、同じ神であろうとも。辿る先は同じ。

約束を守る為に交わされるあれを御存じだろうか。


ゆびきりげんまん

ウソついたらはりせんぼんのーます

ゆびきった

しんだらごめん


……そう。約束とは本来、命がけで守らなければならないものなのだ。

それくらい、大切なものだと。ゆびきりげんまんは、分かりやすく教えてくれている。

悲しい事に、今現在は軽く扱われがちで、


 『ゴメーン!ゲームがすっごいいいトコまできてんの!もうすぐクリアできんの!また今度にしよ?』


 『あ、わりぃ今起きたとこ。えー……二時、間後?には行けると思う』


 『え?なんか、行きたくなくなったから』


……このような有様である。軽いにも程があるのではないか。

こういった事を繰り返す人々は、げんこつ一万発と針千本丸呑みと全ての指をぶち切られる覚悟でもって、口にしているのだろうか。……いいや、していないだろう。

ゆびきりげんまんの意味すら知らず、指を絡めているのだから。


 「それを思えば……アナタも軽い気持ちで、我々と約束を交わした事になりますね。さて……どうなのでしょう?」


 「ごめんなさいごめんなさい決してそのようなつもりではあぁぁぁ近い近い刃物近い」


此処は、神のおわす世界。天界と呼ばれる世界。

その一角に、大日如来邸はあった。清浄な空気が流れ、庭は大輪の蓮が咲き乱れている。

その一室にて、一柱の神が大日如来と対面していた。

優しく、慈愛ある御顔にアルカイックスマイルを浮かべ、かの異世界の神を見つめる。その御顔を見ると穏やかな場と錯覚しそうになるが、実際は異世界の神が不動明王に押さえつけられ、両手指を固定され、今にも剣を振り下ろされようとしている、とんでもねぇ現場が広がっている。


 「異世界の神よ。我々がどうしてここまで怒っているか。……分かりますか?」


 「はいっっ!我々の世界の住人が違反し、それを止めるべき我々が、面白いからという理由で放置していたことです!!!」


 「そうですね。他にもありますね?」


 「はっ……いっっ!志半ばで寿命が尽きた者、人災で命を落とした者、余りにも短い生であった者、それに限り我々の世界に転生させる事を許すと、それが本来の約束!!」


 「破りましたね。それはもう、何度も」


 「申し訳ございません!!」


異世界の神は、ただただ平身低頭。しかし、心の中では思い切り舌打ちしていた。

此方の神々は皆温厚で、そうそう口も出してこない。それ故か、自由奔放で強力な力を持った為の傲慢さが表に出てしまい、ここ数年好き勝手に動きまくり。遠い昔に交わされた約束事など、すーっかり、忘れてしまっていた。

突然の呼び出しにマズイとは思ったものの、相手は怒り方も忘れた神々。大した事なかろうと気軽に踏み入れたのが、いけなかった。

異世界の神は青褪めた顔で、ごくりと息を吞む。


 「……」


……めっちゃめちゃ怒ってますやん。優しく笑ってるけど、その笑顔がめっちゃ怖いやん。

私押さえつけてるヒトなんて、もう激怒ですやん。慈悲の欠片もないですやん。背中の火焔が天井燃やしてますやん。その中で冷静に笑ってるって、マジこえぇ方ですやん。え、私終わる?此処で消されてしまいますん?

呼ぶ?一応、待機しといて(笑)って置いてきた仲間呼ぶ?大戦争勃発?下界にも影響出る?

知らんがな。今は私が一番危機迫ってるんで?他なんて気にしてる余裕なんて、


 「アナタの仲間ですが……何を思ったのか、八部衆に声を掛けてきたので彼らが滅しましたよ」


何してるん?呼んでないやん?

何で勝手してるん?バカなん?バカなんやね神やけど!!


 「我々を見下しているアナタの態度が、彼らをそうさせたのでしょうね。ところで、全部聞こえていますよ。私も神ですから」


 「……」


 「今頃無になっても遅いですよ。アナタは神になってまだ日が浅い……それ故に、これからの成長を信じて待っていたのですが、やり過ぎましたね」


 「……」


 「暇で遊びたいと此方の人間に干渉し、寿命も何もかも無視して奪い、転生後の生き様を嗤いながら操り、挙句飽きたと勝手に終わらせる。そしてまた手を出し……今回の人間の一族は、長くそこの不動明王を信仰しておりましてね、善き信徒なのですよ。それを弄ぶように、異世界転移でしたか。それらしく『聖女』という称号と能力も与えて」


 「長く見守っていた不動明王が激怒するのも、道理でしょう?アナタは生かすつもりもなかったのか、碌な能力を与えていなかった。故に、我々で干渉させてもらったのですよ」


 「ゑ、ば、バグじゃなかった……?」


全ステータスインフィニティは、大日如来の仕業であった。あの子なら、正しく使ってくれると思ってましたよ。そう穏やかに微笑む大日如来に、不動明王も頷く。

何も起こらず自力で帰られたので、意地になって三度も、より最悪な国へと転移させていたが……。


全て、筒抜け。


異世界の神の顔が、真っ白になる。

大日如来のアルカイックスマイルが深くなる。不動明王の火焔が、より大きくなる。

複数の神々の気配に、囲まれていると悟り、ますます白くなる。





 「仏も、怒るのですよ。身をもって知りなさい」












……約束事は、本来は絶対である。

それでも破りそうになったなら、誠心誠意、謝る。

もう、それしかない。

覚えておきなさい。

約束を破るような人間は、いや、神であろうと魔に属するものであろうと、信頼は、されぬ。







 「ここの神様、約束事でなんかあったんかな」


 「あったんじゃないかなぁ…。言ってる事は、大事よな」

 

 「せやね」







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