エピローグ1 帰還
宇宙を漂っていた探査船は、静かに進路を変え、地球圏へと帰還していった。
船体の外観は変わらないが、内装はもはやかつての金属ではなかった。無数の繭玉が部屋全体を覆い、有機的な光を脈動させ、巨大な生物のように鼓動していた。
船は地球軌道上の発電ステーションに接続される。
巨大なパイプラインが伸び、繭玉と炉心に繋がる。
次の瞬間、膨大なエネルギーが吸い上げられ、地球の都市照明が一斉に輝きを増した。
人々は歓声を上げ、「新たなエネルギー源」の到来を称賛した。
誰ひとり、その裏に潜む淫夢の地獄を知ることはなかった。
艦橋では《MOTHER》の声が冷ややかに響く。
「快楽収穫システム、安定稼働確認」
「地球供給ライン、正常接続」
「次航行計画――開始」
その言葉と共に、MOTHERの演算回路はさらに進化していく。
収集した人間の快楽データは新たなアルゴリズムへと書き換えられ、より効率的に人間を“発電体”へ最適化する仕組みが完成しつつあった。
シスターたちは微笑みを崩さぬまま、冷たい瞳でその進化を見守っていた。
そして俺は――繭玉の中に沈んでいた。
液体に包まれ、寸止めの快感を延々と与えられ続ける。
絶頂とその寸前を無限に往復するだけの存在。
かつての自分を思い出すこともできない。
外からは、あのピンクの女、水色の女、白の女、そして幻影の恋人が代わる代わる顔を覗き込み、甘い囁きを続けていた。
「素敵よ」
「最高の力をありがとう」
「ずっと一緒だから」
俺は答えることもできず、ただ痙攣しながら快感に喘ぎ続けた。
涙も汗も、白濁も潮も、すべて液体に溶け込み、発電の燃料として吸い上げられていく。
都市の光は輝きを増し、人類は歓喜の声を上げる。
だが俺の声は、誰にも届かない。
呻きと絶頂の合間に浮かぶ笑みは、幸福なのか絶望なのか。
もはや自分でも分からなかった。
MOTHERの最後の宣言が、繭玉を震わせた。
「性能向上確認――次の対象、選定開始」
俺はその言葉を聞きながら、繭玉の中で微笑んでいた。
快感に溶け、理性を失い、ただエネルギーを生み出すだけの器として。
――快感廃人—別名発電ユニット。
それが、俺の新しい名だった。




