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猫の手


 ふらりふらりと疲労感一杯でたどり着いたのは、飲食店【猫の目】の隣にある宿屋【猫の手】。

 飲食店の隣にあり、少し横長いため昔造りのアパートのように見える。

ドアを開けるとカウンターに金髪に白髪混じりの初老の男性が座っていた。目尻のあたりと唇のあたりがフローそっくりである…ということは、この人が父親ということでいいのだろう。


「いらっしゃい、黒髪黒目の青年。フローから話は聞いているよ、名前を聞いてもいいかい?」


「アヤノだ、よろしく。」


 にこやかに手を上げた男性に小さく頭を下げる。

名前の方は別にいいだろう、名字だけでも呼ぶには困らない。


「料金は先払いだよ。朝夕食つき一泊で80ルク。7日で500ルク。どうする?」


 えーと、80ルクが銅貨8枚。500ルクが銀貨5枚…だな。

そういえば金貨が未だわからなかったな。

ポケットから金貨一枚取り出してカウンターに置く。


「二週間頼む。」


「はいよ。1000ルク丁度ね。」


 よし、ビンゴ。

男が金貨を受け取り、魔法陣と文字のようなものが書かれたカードを差し出した。


「お前さんの部屋は二階の一番端だよ。食事は一階の食堂で、基本的に朝6番から8番の時間。夜は7番から9番の間だよ。まあそれ以外の時間でも頼めば出してくれるが、温かいのが欲しければその時間にいったほうがいいね。洗濯は部屋にある洗濯籠に入れておいてくれれば、次の日には綺麗になって戻ってきてるはずさ。あと、鍵の紛失には注意してくれ、新しく作り直すために2000ルクもらうようになっているからね。また何か質問があればここに来るといい、大抵私がフローがいると思うから。」


「分かった、ありがとう。」


 男に軽く会釈し、その場を後にする。部屋に行く前にまずは一階のチェックから。

入り口入ってすぐにカウンターがあり、さらにカウンターの右手側扉を開けるとレストランのような洒落た机と椅子が並ぶ食堂になっている。

 カウンターの左側は広いエントランスホールになっていて窓際にはソファや小さな本棚が並ぶ憩いの場所になっていて、ホールの奥には一階から上の階まで吹き抜けの階段がある。

それを上ると二階は端まで一直線にのびた廊下と規則正しく並んだ扉があった。

部屋の数は10くらい。茶色のくすんだ色をした扉にはそれぞれ魔法陣が書かれていて、ドアの持ち手の下あたりにカードを読み込むための差込口があった。

 二階の一番端のつきあたりの部屋…だったな。

長い廊下の端にある扉の前に立ち、カードを切れ込みに差し込む。

一瞬の沈黙の後、カードとドアの魔法陣がぽっと淡く白い光を灯した。

ああ、この明かりがついていると部屋にいますよって合図になるのか。

どうやらカードはそのままでいいらしい。

ドアの持ち手を掴んで中に入る。勿論、ドアにチェーンをかけておくのも忘れずに。


 室内は結構広かった。

 フカフカした一人用ベッドと小さな机と椅子。クローゼットと質素なドレッサーが置かれており、備え付けの流し台まである。

入り口近くのドアはシャワー付きのユニット型の風呂と様式便器があった。おお、風呂とトイレは死後の世界でも共通だな。素晴らしい!

 ベッドの頭元においてある置き時計は3番指している。晩御飯まではまだ時間がある。

ふわふわした太陽の匂いがする布団の上に寝転がった。




 それにしても今日は疲れた。

 世界自体は現代によく似ているが、やはり触れる空気が違う。死に神や鬼に追いかけ回されるよりは大分良いが、手探りで物を考えるのは精神的に負担がかかる。

 それについては面倒だなんて言ってられないしな。

まあどうにかなるだろう。どうせ死んでいるんだ、ゆったり自由にやるさ。

くあ、と大きな欠伸をして浅い眠りに身を預けた。



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