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「それにしても、不思議な人ね。どこの出身?何をしてる人?」


白身魚をフォークでつついていると、フローが興味津々といった具合にこちらを見ていた。


「日本だよ。ジャパン、小さい島国、知ってる?」


「ごめんなさい、聞いたことないわ。あなた、旅人さん?荷物も少ないし、色男みたいだけど…。」


フローがちらりと背後のテーブルで騒いでいる数人の屈強な男を一瞥する。

鎧を着てそれぞれ武器を携帯している彼らは間違いなく旅人だと思う。いや、傭兵?

それと比べれば、確かに俺は旅人とは名乗り辛いかもな。


「…実は家を追い出されてしまってね。本当なら迎えがくる予定だったんだが、いつまでたっても来ない。仕方がないから旅でもしようかと思っているところなんだ。」


嘘は言ってない。


「まあ…あなた結構良いところのお坊ちゃんなのね。それじゃあ旅なんてキツいんじゃないの?頭を下げてでも戻った方がいいわ。」


一体誰に頭を下げれば、元の世界に戻れるのだろうか。

フローの忠告に苦笑いで対応しながら、内心で皮肉気に呟いた。


「男にはプライドってものがあってね、そう易々と頭を下げたりしないものだ。それにせっかくの機会だから風の導くままにって生活もいいかと思って。」

おどけて両手を広げてみせると、フローが呆れたようにため息をついた。


「一体どこの貴族の坊ちゃまなの?そんな呑気な事言ってると身包み剥がされて、親に泣きつくことになるわよ。…ま、それもある意味人生経験だけどね。」


フローの呆れ混じりの視線に微笑みを返す。

そうそう、せっかくの自由な生活なんだから、やれることはやっとかないと。

その人生経験とやらを積むために、一度ギルドを見学しておくのもいいな。そんでもって簡単で割高な仕事が見つかれば万々歳、と。


「色々ありがとう、フロー。助かったよ」


「どういたしまして。どうぞこれからも当店をご贔屓くださいませ。」


フローが右手を胸に当てて軽く一礼する。それは儀礼めいているのに、どこか茶目っ気を含んだ動作で。フローは一度視線をこちらに合わせて、にっと小悪魔的な笑顔を浮かべた。


…自分を魅力的に見せる術を知ってる女だな。

自分の心の冷めた部分が、フローという女性をそう判断した。

そりゃそうだよな、ここで接客ついでに金持ちを色気で引き込んでおけば、将来パトロンに困ることはないってわけだ。

商売上手というか、なんと言うか。


「ああ、こちらこそよろしく」


にこーっと貼り付けたテンプレ通りの笑顔をフローに向ける。…女とはしたたかでたくましいものである。

しかし、そんな格言を作ったら世界の女性が聞いたら怒り狂いそうだ。








焼きたてパンと一通りの食事を終えたはいいが、支払いで一苦労。

いや、しょうがないね。よその国の硬貨の価値なんて知らないし。


「フロー、支払いを。」


「はい、しめて20ルクです。」


20…ルク…とな。

ポケットに入っているのは金貨と銀貨と銅貨。

だいたい価値の低い硬貨は鈍い色をしているものだ…多分。

それに金額が低ければ使う機会も多いから、それなりに数を揃えるだろう。

硬貨一枚の価値はわからんが、拾ったポシェットに入っていた硬貨の量の比を出すと


銅貨>銀貨>金貨


多分、一番低いのは銅貨だ。

ルクがそれにあたるかはわからないが、一つ上の銀貨を出せば釣りで銅貨と銀貨の釣り合いがわかるだろう。


「申し訳ない、今持ち合わせがこれしかないんだが。」


ポケットから取り出した銀貨を一枚カウンターに置くと、フローがありがとうございます!と釣りを差し出してきた。

手のひらには銅貨が8枚。

銀貨1枚=銅貨10枚。銅貨はルク。

食事というジャンルから見て、ルクは多分日本円で100円くらいだな。

ということは下にまだ1つか2つ硬貨がある。

銀貨は日本円で1000円くらい、金貨は一万円くらいか。

よし、把握。あくまで推測の域だが。

ポケットに硬貨を放り込み、笑顔でありがとーございましたーと手を振るフローに、宿屋【猫の手】の手配を頼み、飲食店【猫の目】を後にする。

店の外は相変わらずの喧騒と人ごみと太陽の煌めきで満ちていた。

宿屋に泊まるには早すぎる。

とりあえず貰った地図を見ながら町をぶらぶらと歩こう。そして、一回ギルドを見ておこう。

働くのは明日からでいいが、見学ぐらいはしておかないと。


両手をポケットにつっこみ、通りの人の流れに乗って歩く。

鮮やかな色彩の中、自らも黒という色の一つとなって、道行く人の会話に耳を傾けながら。






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