6話 イリュージョン
『ダメダメダメダメッ!!絶ッ対無理ですッ!主治医として許可できませんッ!メッ!』
『鬼畜と言う他無いですな』
『マスターがそれで良いなら良いですけど……』
『流石にそれはやめましょうよ、人の心があるならば』
『みんな、反対、みたいです』
皆口々に叫ばれても困るわけだが。と言うかそんなに酷いかこの案。ローブの青年を気絶させてから全員蔦で纏めて転がしていくのは非人道的じゃないと思うが……。
『なんでそんなに隠れるんですか。青年と二人で担いでいくのが一番手っ取り早いですってば』
『重力の精霊がいますので、二人を浮かして移動させるってのはどうです?まあ隠れてやるのは無理ですけど』
「人助けした後でタカられるのはゴメンだ。良い事したからって良い事が返ってくるわけじゃない。人に関わって面倒に巻き込まれるのは嫌だよ。できるだけ知らない人間に関わりたくない」
『だからと言って隠れる事などありはすまい。大和男児たる者堂々としているべきですぞ』
『そうそう、難しく考える事ないですよ。いつものように人畜無害そうな顔で寄っていけば大丈夫ですって。暢気なおのぼりさんにしか見えませんよ』
めんどくせーと言わんばかりの表情をしたイリュージョン。暢気そうにしか見えないって、それはそれで問題なんだが。暢気そうに見える人間が冒険者なんて危険な仕事を選んだりしないだろう、それこそ違和感しかない。確かに隠れなきゃすんなり物事が進むだろうが、後が怖いんだ。自分が今後自由に動くためにも、見知った人間は少ない方が良い。さて、どうしたもんかね。
『うーん、ではいっその事何もかも誤魔化してみますか。全てを幻想の果てに』
『全てを幻想……ね。いいわマスター、私に任せて下さいな』
コンテンツの言葉から何かをひらめいたイリュージョン。クスクスとイタズラっ子めいた笑顔を見せると、一言二言ドリアードとコンテンツに告げた。自信満々そうなその姿に、問いかけようとした内容を自粛する。大丈夫なのか?何をどうするつもりだ?どういった作戦なんだ?聞きたい事は山程あるが、百戦錬磨のマリオノールの精霊だ、きっと大丈夫。胸を張って任せて下さいと言うのなら信じよう。
「じゃ、頼むぞ」
『はい!』
コンテンツに実体化させてもらい、その艶々とした肢体に光となってほとばしる魔力を纏いながら、イリュージョンが笑顔を向ける。さて、一体何が始まるのやら……特等席でじっくり拝ませてもらおうか。