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だいたいこのくらいのペースで更新になると思います

よろしくお願いします


石を丁寧に積み上げてある厚い壁の中を歩いていると、足先に何か固いものがあたった。

目を凝らすと、何やらいやに幅広い黒い布とその布にひっかかっている小さなポシェットのようなものだった。

拾い上げてみると、チャリと金属音がする。それに黒い布はちゃんと繕ってあり、体に巻きつけるタイプのマントらしかった。

ポシェットのデザインからして、どう考えても先程置き去りにした女の子のものだ。

授業料、迷惑料、助けたお礼。少しくらいなら、いいだろう、そう、閻魔様だって勺をあげて賛成してくれる…と、いいな。

諸々理由を述べて、ポシェットの中を開ける。

暗闇の中で鈍く輝くのは、数枚の金貨と数十枚の銀貨と銅貨。…日本円じゃないのか。

少女の頭が水色をしていたのを思い出し、そういや日本人じゃなかったなと納得した。

価値がわからないので、金貨を一枚、銀貨を5枚、銅貨を5枚、貰っていく。

有難う、心から有難う、水色の怖い女の子よ。

マントとポシェットを床に置いて、一礼と合掌。

ポケットに硬貨を放りこんで、鼻歌混じりにその場を後にした。

いやー人を助けるっていいもんだ、こうして後から色々言い訳ができる。

怒り顔の少女を思い出して、ほのかに笑みがこぼれた。






トンネルを抜けるとそこは雪国…じゃなくて、雪のような白い壁で作られた街並みが出迎えてくれた。

山をそのまま利用したような、なだらかな傾斜を描く家々を、キラキラと太陽光が照らす。

道を行くのは色とりどりの頭をした、様々な肌の色をした人たち。

人間だけでなく獣耳をしたものや角を生やしたものも見える。ちらほら羽を生やしたものもいる。

かーらふーるあーたまーがいーっぱーいー♪マジありえねー♪

そりゃあ世界から見れば日本人なんて一握りだろうが、黒髪がどこにも見えない。

やはり俺は来る場所を間違えたらしい。確定。間違いなし。

ここはどう見ても一段階先だ。裁きの場所をすっ飛ばしてその先の天国か地獄か、天界の世界に来たとしか思えない。


…このままここで暮らしてしまおうか。


ポケットに手を入れて、人混みに紛れて歩きながらそれもいいなと思案する。

死に神か天使か知らないが、管理ミスをしたのはそっちだ。俺には関係ない。そして、どうしようもない。

冷静に考えると今どの地点にいるのか分からないうえに、行くべき場所も案内されていないのだ。

お迎えが来るまでは、頑張ってここで生活していかねばなるまい。

それに…。

周囲の露天商から漂ってくる香ばしい香りに誘われてぐぅと空腹を訴える腹をさすり、一つため息をつく。

死後の世界でも、腹は減るらしい。金の概念があるのならどういう形であれ仕事をし、金を手に入れて食事をしなければならないということだ。

地獄の沙汰も金次第と言うが、どうやら生きてようが死んでようが関係ないみたいだな。


ああそうだ、こういう可能性もあるな。

ここは地獄で、この世界で徳を貯めると天国に行ける…とか。まあ仮にそんな設定だったとしても、きっと俺はやりたい放題やるだろうな。

なんにせよ、やってみない事にはしょうがない。


道の両端に立ち並ぶ店を丹念に観察し、まずは腹ごしらえだとビールのような看板が出ている店の扉を勢いよく開けた。

よし、ビンゴ。

一心不乱に飯をかきこむ荒くれマッチョにもやし、グラスをかたむけるセクシーねーちゃん、飯など関係ねー!と言わんばかりに走り回るロリショタ共!

こちらを伺う視線を一身に受けて、真っ直ぐカウンターに座る。

別の客をもてなしていたマスターがこちらに気付いてた。

ポニーテールの金髪が眩しい若い姐さんだ。くりくりとした青い目を輝かせて軽やかなステップでこちらにやってくる。


「いらっしゃい!何にしましょうか?」


「美人のマスターにお任せしよう。あなたの選んだものなら外れがなさそうだ。」


カウンターに頬杖をついて人懐こく笑んでみせる。

第一印象は大事に。


「からかっちゃいけないよ、お客さん!兄さん、日替わりランチいっちょね!」


店の奥に声をかけて、俺の冗談にケラケラと声をあげて笑う店の女主人。

Tシャツにジーンズのラフな格好もその爽やかな姿によく似合っている。


「マスター、あの「フローって呼んでよ。」……、じゃ、フロー。俺さ、この町に来たばっかりで右も左もわからないんだ。色々手取り足取り教えてくれないかな?」


「そうねえ、手取り足取りは無理だけど、大雑把になら教えてあげるわ。」


そういって店の棚から一枚の紙切れを取り出した。

カウンターに広げたそれは町の地図のようだった。

中央の大きな建物を主として円状に広がる町。幾本もの通りが放射状に外へ繋がっている。


「この町はマウンテン・クロックというの。由来は山一つ丸ごと利用して町にしていることからきているわ。通りは北から右周りに数えて0時通りから11時通りまでよ、わかりやすいでしょ。階段が多いせいかしら、町の人はみんな健康的なの。さあ、地図を見て?ここが現在位置、我らが【飲食店・猫の目】よ。夜は酒場もしているから是非いらしてね。その隣に私の父がやっている【宿屋・猫の手】があるわ。もし宿屋をお探しならここへどうぞ、サービスするわ!それから3時通りの入り口にあるここがギルド。後はまあ大きめの建物を見ればだいたい揃ってるわ。ここまでで何かご質問はある?」


べらべらべらーっと必要事項を一気に喋りきったフローに、ぱちぱちと数回の拍手を送る。

手慣れているとはいえ見事なものだ。


「はい、質問。ギルドとは?」

「ギルドとは派遣形式のお助け屋の事よ。魔物討伐や決闘代理、傭兵募集とか荒事依頼が多いから腕っ節の強い旅人がよく利用しているわ。でも店のバイトなんかも募集してるから手っ取り早く稼ぎたいって人にもオススメ。こんなところかしら。」


「ありがとう、よくわかった。」


どういたしまして、と微笑むフロー。

ちょうど昼ご飯もできたようだ。フローが店の奥からパンと魚とチキンのようなものを煮つけた物体の乗ったプレートを持ってきて目の前に置いた。

よけて置いた地図を返そうとすると、これもサービスの一環だからとそのまま渡してくれた。

よし、活動拠点は決まったな。


いただきますと両手を合わせる俺の正面で、フローが腕を組んで興味深そうにこちらを眺めていた。




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